とてもつまらない三枚綴り短編集 2

スエテナター

第1話 君の心臓はあたたかい

 去年のたんじょう日、ぼくはロボットキットを買ってもらった。うででだきしめられるほどの大きさだった。夢中で組み立てて、その日のうちに完成させた。

 ロボットは足のローラーを上手に回し、ぼくの後についてきた。かんたんな会話もするし、頭をなでるとうれしそうに大きな目を細めてほほえむ。

 人なつこいこのロボットを、ぼくは勉強机に置いて、ずっとながめていた。

 ロボットはほんのりと熱を持ち、だきしめるとあたたかかった。こわすといやだからベッドには連れていかなかったけれど、とてつもなくさびしいとき、むしょうにだれかの優しさがほしくなったとき、本当はふとんの中で、ひとばんじゅうこの子をだきしめていたかった。そんなとき、ぼくはねむりにつかず、勉強机のいすに座り、ロボットをだきしめた。ロボットのほほに自分のほほをつけると、じんわりとあたたかかった。かすかなモーター音が子守歌のようだった。


 半年前、ぼくにはふたごの弟と妹が生まれた。母さんは夜中と夜明けに必ず泣くふたごの世話でいそがしく、ぼくも家のことを手伝った。ばぁちゃんが毎日うちに来て、朝と夜、ごはんを作ってくれた。

 学校から帰ると、ぼくはすぐに宿題をすませ、弟と妹をあやしたり、せんたく物をたたんだり、お風呂の用意をした。

 弟と妹はかわいかった。あんまりしつこく泣かれるとうんざりするけれど、遊んであげるとにっこり笑い、ああ、ああ、と声を上げてよろこんでくれる。ぼくがひとさし指を出すと、小さな手でぎゅっとにぎる。

 二人とも、すきとおった目をしていた。生まれたてで、まだ何も知らない、かれんなひとみだった。


 ねる時間になり、自分の部屋へもどると、ロボットがぼくをでむかえてくれた。

 ロボットをだき上げて、窓の下にすわる。かたいボディーに耳をつけると、モーター音がした。心臓の音。小さくて、美しくて、とうとく、いとしい音。

 ああ、君の心臓はあたたかい。ぼくのひえきった心や体なんかより、ずっとあたたかい。

 目を閉じて、ロボットにほおずりをする。

 ロボットは何も言わず、ぼくによりそってくれた。

 地球の周りで、星がめぐっていく。夜が進んでいく。

 モーター音とぼくの心臓の音が、部屋のすみっこで波うっていた。

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