第15話 クラス2ハイ・サモナー:ヒューマン個人戦5

 モンスター種別タイプ:スケルトン。

 不死系の中でも最もポピュラーなクラス1モンスターであり、要は動く骸骨だ。


 眼球も無ければ脳も無く、当然のように筋肉も無いのにどうやって動いているのかと言うと、スケルトンの胸部にある魔石がそれら全ての代替と動力源になっている。

 その為、魔石を砕けばそれだけで討伐出来てしまえるが、逆に言うなら魔石破壊以外で致命傷になる攻撃は無い。この生存能力の高さもスケルトンが対人戦で多く使われる理由の1つだろう。


「gigigi……」


 召喚されたスケルトンは右手に片手剣、左手に丸盾を装備したオーソドックスなスタイルだ。攻守のバランスに優れているが、中には軽鎧であったり両手用の大盾を装備した防御特化のスケルトンなんかもいるから、それと比べたらまだ相手しやすい。


(ただ、当然のように魔石は守るよな。)


 スケルトンは丸盾で魔石周りを固めている。これがダンジョンモンスターであったなら魔石の護りが手薄になった瞬間を狙えばいいだけなのだが、召喚獣のスケルトンは召喚術師の指示を受け、学習している。

 つまり、隙が極端に少ないのだ。


 あるとすればスケルトンが攻勢に出た際だが……そんな事は召喚術師だって百も承知だろう。その証拠に、スケルトンは攻撃に消極的だ。

 まぁ、クラス2の召喚術師からすればスケルトンクラス1の役目は時間稼ぎだろうからな。牽制目的以外での攻撃はメリットが薄いのだろう。


 時間は俺ではなく召喚術師の味方だが、それでも焦ってはいけない。スケルトンをただ倒すのではなく、確かめなきゃいけないことがある。



(召喚術師の癖はここで見抜いておかないと。)


 召喚術師の指示を学習していると言うことはダンジョンモンスターと違って召喚獣には戦い方に規則性が発生している。それを見極められればこのスケルトンだけではなく、これから召喚してくる全ての召喚獣の対処に役立つだろう。

 『学習を逆手に取る』と言えば聞こえはいいが、敵をなぎ払える必殺技もなにも無い俺では、こうやって情報を積み重ねていく以外に勝ち筋はない。



(そうなると、最初に探るべきは……優先順位か。)


 守勢を基本的なスタンスとしているスケルトンだが、俺が接近すればすかさず牽制攻撃をしてくるのだからどこかで行動の順位切り替えが行われているのは間違いない。

 それならば重要なのは『どの行動が優先されているのか』そして、『どのタイミングで順位が入れ替わるのか』だろう。


(まずはこれだ。)


 スケルトンが攻撃してこない距離で一時停止した俺は服の中からこれ見よがしに・・・・・・・投げナイフを取り出した。



「gagagagaaa!!!」


 それに対するスケルトンの反応は目で見るまでもないほどに顕著。これまで自ら攻めてくることのなかったスケルトンが勢い良く俺へと突っ込んできたのだ。

 取り出したナイフは当然のように鋭利な切れ味ではあるが、それでも魔石にさえ当たらなければスケルトンに対して致命傷にはならない。それなのにここまで過剰な反応を見せるのは、この武器がどのように使われると困るのかを学習しているからだろう。



「そいっ!」


 接敵される前にスケルトンを避ける射線でナイフを投擲。狙いはスケルトンではなく、召喚術師だ。俺の投擲技術はそれ程高くないので当たればラッキーぐらいのものだが、少なくともスケルトンは釣れた。

 多少体勢が崩れようとも、構うことなくナイフを弾き飛ばしにかかるスケルトン。当然だが、そんなことをすれば致命的な隙へと繋がりかねない。



(召喚術師に当たる当たらないに関わらず投擲武器は弾くように指示しているんだろうな。 召喚術師の守護は召喚獣にとって大事な役割ではあるが……。)


 それでも全てを任せてしまえば召喚獣の負担は大きくなる。それこそ、これを利用するだけで魔石破壊も可能なんじゃないかな。せっかくの不死系召喚獣だと言うのに……クラス2にしてはお粗末な運用だ。

 もしかしたら、楽に勝てるいくさにばかり参戦していたのかもしれないね。冒険が足りていないよ、冒険が。



◇◇◇


召喚サモンッ!!」


 スケルトンと相対する事、数十秒。ついに2体目の召喚獣が喚び出された。1体目を維持しながらだと言うのに随分と早い。恐らくはクラス2の召喚獣ではなく、クラス1をもう1体召喚したのだろう。

 流石に、召喚術師の戦運びは慎重だ。この段階でクラス2の召喚を狙うのはリスクが高い。安全を確保するなら、やはり壁は2枚必要だろう。

 それにクラス1と言えども数の利を確保出来れば、それだけで押し勝てる可能性だってある。



(そうはさせないけどね。)


 ただ、その数十秒の間にこちらも欲しかった情報を引き出す事ができたので、あとは2体目の召喚獣が顕現する前にスケルトンとの決着を付けるだけである。

 問題は守勢を崩さないスケルトン相手にどうやって早期決着を付けるか、だが。


「え、ぁ?」


 スケルトンを前にして俺の身体はふらり、とよろめいた。外傷を負った訳では無い。何かに足を取られた訳でも無い。

 しかしそのまま四つん這いに近い状態にまで体勢が崩れてしまったのだ。


「gagagaga!!!」


 この体勢からではスケルトンの魔石は狙えない。その事を感じ取ったスケルトンは『待っていました!』とばかりに攻勢に出る。

 スケルトンは顕現した際、召喚術師の傍らに向かうのではなく俺へと斬りかかってきていた。つまり、弱った敵には追い討ちをかけるよう最優先で指示されていたのだろう。




 だからこそ・・・・・、わざと崩れてみせたのだ。クラウチングスタートと言うにはお上品さが足りていない、野生動物の如き低い飛び付きでこちらからもスケルトンへと肉薄。誘発したスケルトンの大振りは内に入り込む事でギリギリ避ける。

 スケルトンの足元でうずくまっている今の体勢からでは確かに魔石を狙えないが、それでも構わない。元より俺は魔石なんて狙っていない。



 ここでスケルトンを倒してしまえれば後顧こうこうれいは断てるけども、『スケルトンを倒す』と言うことは『召喚維持にかける魔力が減る』と言う事でもある。それはつまり次の召喚が早まってしまうのだ。それよりも程よく戦闘不能にして転がした方が召喚術師の負担になる。


 そして肝心の戦闘不能にする方法だが、魔石が動力源と言うことはスケルトンの体は魔力で繋がれていることになる。

 それなら、大量の魔力を放ちながらスケルトンの足骨を掴むと、どうなるか?



「取ったぁぁぁ!!」

「何してんのお前ェ!?」


 そう、骨の繋がりを無視して右足を引っこ抜く事が出来るのである。片足を抜かれたスケルトンはガシャン、と音を立てて地に崩れた。


「『足止め』役のスケルトンの『足が奪われる』って今どんな気持ちぃ?」

「はァ~!? クラス1を1体倒したぐらいで、良い気になッてんじャねェよ!!」

「『足でまとい』が言うと強がっているようにしか聞こえないんだよなぁ。 ところでこの骨、記念に持って帰っていい?」

「誰が『足でまとい』だァ!? 骨もッ返せ!!」


 召喚を解除すればこの骨だって消えてしまうのだけれども、消えた足骨は元通りスケルトンにくっつく訳では無い。召喚解除時に欠損していた部位は魔力で修復するまでは欠損のままなのだ。


「仕方がないなぁ……。」


 俺も鬼では無いので、返して欲しいと言うのなら返すのもやぶさかでは無い。ただ、普通に返すのでは面白くなければ、俺に益も無いので……せめて何処に返すかはこちらで決めさせて貰おう。


 片足になろうとも戦意を失わなず立ち上がったスケルトンへ背後から襲撃。残った左足の関節に引っこ抜いた右足をねじ込んだ。元は自分の身体なだけあって、ねじ込む分には大した抵抗は無い。


「gig!?」

「マジで何してくれてんのお前ェェ!?」

「えっ、ジェンガって知らない?」


 もしこれがジェンガなのだとしたら既に1度崩れてしまっているけれど、積み木スケルトンが自分から立ち上がっているのだからセーフセーフ。

 片足だろうと時間を掛ければ動けただろうが、こうなってしまえば下手に動くと余計バラバラに崩れて修復が必要になるだろう。



 このままスケルトンを召喚し続けていては召喚維持に使う魔力の無駄遣いとなるが、召喚を解除するには再び召喚境界を越えるための魔力が必要になってくる。

 それならば召喚維持を切ってしまうのも一つの手ではあるが、召喚維持を切れば当然、スケルトンは死ぬ。欠損と違って死亡から復活させるとなると膨大な魔力が必要になってくるので、召喚維持を切るのは召喚術師も避けたいだろう。

 優勢の天秤は依然として俺に傾いている。

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