第6話 貴族の娘になった傭兵、傭兵になった貴族の娘に提案する

「え? あそこがアジトではなかったのですか?」


 リラは驚きの声を上げていた。

 てっきり捕まっていた小屋がバナナ盗賊団のアジトだと考えていたようだった。

 だが、それは違う。


「あぁ。私達もそう目論んでいた。

 だが、あそこを調べた騎士団によると、どうやらあの小屋はバナナ盗賊団が盗んだ物品を一時保管するのに使っていたようだ」


「バナナ盗賊団の盗品リストと照合を掛けましたが、小屋の中にあった魔道具は直近で盗まれていた物のみでした。

 おそらくあの小屋で一時盗品を保管して、ほとぼりが冷めるのを待ってどこか別の場所に移動させているのでしょう」


 ギバの言葉を補足するようにアイラが説明する。


「小屋で待機していた連中も、予想通りでしたが、バナナ盗賊団の下っ端でした。

 あの小屋に幹部達が戻ってくる可能性も視野に入れて、しばらくあの小屋を見張っていましたが、誰も来る気配はなく、結局無駄足に終わりました」


「つまり、あの小屋はブラフで、本当のアジトというのは別にあったということですか」


 説明を聞き終わると、リラは自分の考えを口にしつつ、空を眺めていた。


「少なくとも私はそう考えている」とギバ。


 それに続くようにアイラが口を開いた。


「そこで、アジトを探す必要があるのですが」

「その目処はついているのですか?」


 リラにそう聞かれたが、今度は「いや」とギバは首を振った。


「現在、騎士団が捜索している。だが……」

「かなり時間がかかるでしょうね」


 アイラが言葉を引き継ぎ、ため息を吐く。

 その様子にリアは不安そうな顔をする。


「そうなのですか?」


「現状はそうですね。バナナ盗賊団の情報は実はかなり少ないです。

 あの小屋を見つけたのも、ギバさんの観察眼があってのことで、早期に発見できたのは運が良かったと思わざるを得ません。

 その上であの小屋が中継地点となっているならば、本当のアジトは巧妙に隠されているはずでしょう」


 あの小屋にいた下っ端も知らないようですしね、とアイラは捕捉する。


「そう……ですか……」


「そもそも騎士団は国・王都を護ることが仕事なので、王都周辺の地理は大まかには知っていますが、細かい土地勘は残念ながら。

 自警団の方が詳しいとは思いますが、我々から頼んでも彼らが動いてくれる可能性は低いでしょう」


 アイラはギバの肩を掴んでいた手に力を込める。

 悔しさややるせなさが感じるその手を横目で流し見ると、その後すぐにリアの方に目を向けた。


「そこで、君に相談がある」

「は、はい」

「今回、私が傭兵として受けた依頼内容は『君を盗賊団から助ける』という内容だった。

 その依頼通り、『君』を助けることには成功したが、精神が私と入れ替わってしまっている」

「…………」

「これでは、君は元の生活に戻ることができないし、私も同様。

 君をに助けた、とは言い難い」

「…………」

「依頼は未達成のままだ」

「それは……」


と言いかけて、リラは口を噤んで不安そうに窓の外を見る。


 盗賊団からリラの身体を助けたことには変わりはない。

 だが、彼女の精神はギバの身体に閉じ込められてしまっている。

 その状況を元に戻すためのキーは、おそらくバナナ盗賊団が持っている。


「だからといって、このまま泣き寝入りするのも夢見が悪い」


 はっきりとしたギバの声にリラは反射的に振り向いた。


「幸い私はこれでも傭兵だけで飯を食っていけているくらいには仕事をしている。

 王都周辺の土地勘なら、そこら辺の騎士よりもあると思う」

「つまり……」

「私も捜査に参加しようと思っている」


 ギバの力強い発言を聞いて、リラはより一層不安そうな顔していた。


「つまり、騎士団からの依頼が継続される、ということでしょうか?」

「そうだ」


 ギバは頷く。


「同時にレッド家とブラウン家から騎士団へ行われた依頼も継続だ。

 両家にも事情を伝えて、依頼を続行してもらう許可を頂く予定だ。命に別状がないことは伝えなければならないからな」

「…………」

「どうだろうか?」


 その提案に対して、リラは外の方を向いて、少し考える素振りを見せる。

 依頼続行となるということは、リラは自分と一緒に行動をするから、家に帰ることはできない。

 家の方に事情を伝えるならば、自身の姿を実際に見てもらうしかない。

 あの親が納得するかどうかだか。


(だけど……これが一番の最善だろう)


とギバはリラの返答を待った。

 やがてゆっくりとリラは口を開くと、


「お断りさせてください」

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