第5話 貴族の娘になった傭兵、傭兵になった貴族の娘と会話する
「あの方を見つけ、元に戻る?」
リラはギバの言葉を復唱した。
その意味がよくわからなかったようだった。
「逃げた殿方を探すことで何故、わたしたちが戻れるのでしょうか?」
「可能性がある、というだけだ」
ギバは組んでいた手を更に力を込めて握る。
「入れ替わった原因が何か。それはおそらくこれだろう」
とギバは手に持っていた何かをベッドの上に投げた。
「これは……魔道具でしょうか?」
リラの目が丸くなり、その物を凝視する。
大きさとしては、手に握れるくらいで色は艶やかな黒。丸みを帯びた形状で、角度を変えると光に反射して黒く光っていた。
一見、綺麗な石に見えるそれは見る人からすれば魔道具。それも天然のものによく似ていた。
しかしギバは首を振った。
「わからない」
「……え?」
「あの部屋を騎士団が調べた結果、魔力残滓が残っていた。つまり何かしらの魔道具を使われたのは事実だ。
だが、この石に魔力を込めても反応を示さなかった」
「そうなのですか?」
とリラはその石を握り締め、魔力を込めようとする。
「……確かに反応しませんね」
「あぁ。だが――」
「ですけど、魔力を吸われた感覚はあります」
「……その通りだ」
リラがそう口を挟んできたのに少々驚く。
今までどこか怯えていた態度だったが、今は興味津々で魔道具を観察していた。
慣れてきたのだろうか?
まぁ今は話を進めよう、とギバは口を開く。
「最後に何者かが投げた石だ。これが発動して私達が入れ替わった可能性があるが、発動条件がわからない」
「……だからあの方を見つけ尋問すれば、魔道具の発動方法がわかり、元に戻れる、ということでしょうか?」
ギバは首を縦に振った。
「その通りだ。あくまで可能性の話だが、それが元に戻る一番の近道だ。
念のため、入れ替わった私達に原因があるかと考え、身体検査も行ったが、私達からは検出されなかった。
何らかの魔道具というのは確実だろう」
「そうですか……え!? 身体検査?」
聞き捨てならない言葉を聞いて、リラはギバを、正確には彼女自身の身体を二度見する。
ギバが――中身中年のおっさんが、自分の身体を弄っている様子を想像したのだろう。
徐々に顔が真っ青になり絶望していくのがわかる。
「ま、まさか……そんな……」
「ご安心を」
その思惑を察したのか、アイラがフォローを入れた。
「リラ様の
「そ、そうですか。ありがとうございます」
アイラの気遣いにホッと胸を撫で下ろして、窓の外を見た。
ギバもそのリラの様子を見て、安堵する。
騎士団の中に女性がいて、本件の担当であったのは不幸中の幸いだった。
「続きを良いか?」
「え? あ、はい」
安心するのも束の間。ギバは眉間に皺を寄せてリラを見た。
「これからどう動くかだが……その前に君に一つ確認しておきたいことがある」
「どのような?」
「単刀直入に聞くが、逃げた者と面識はあるか?」
リラはその質問に顔を強張らせる。
「ど、どういう意味でしょうか?」
そして恐る恐る口を震わせながら、その意図をギバに聞こうとしたところで、素早くアイラがギバの肩に両手を置いた。
「念のための確認です。
別にリラ様を疑っているわけではありませんので、お気軽にお答えいただければ」
口角をやんわり上げて優しく諭すように話すアイラ。
そんな彼女を見てリラは少し落ち着きを取り戻して、首を横に振った。
「いえ。初めてお会いした方です」
「……そうか。
ではこれからについての話だが、まず私達はなるべく共に行動した方が良いと考えている」
「そうですね。お互いのことよくわかりませんし、別々に行動していると、わたしやギバ様しか対応できないトラブルがあっても対応できません」
「あぁ。それに私達は性別も異なるからな。さっきの身体検査のように、不都合が多い」
「え? あ、そうですね」
リラは先ほどの身体検査の話を思い出したのか、赤面していた。
あの時はアイラがいてくれたから良かったものの、次こういう場面があった時に都合よく同性の人間がいるとは限らない。
ギバとリラが一緒にいることでそういうケースを回避できるならそれに越したことはない。
「……私の顔でそうころころと表情を変えて赤面してほしくはないのだがな」
「え? なんでしょうか?」
ボソッと言った言葉をリラは聞き取れず、聞き返す。
だがギバは眉間に皺を寄せたまま険しい表情をしたまま、
「なんでもない」
と一言呟き、話を戻すことにした。
「次に、私達の直近の目的についてだが、まずはあの人物の居場所を突き止めることをしたい。
あの場所にいたことから、おそらく『バナナ盗賊団』のメンバーの一人。
そのため、あの盗賊団の
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