第3話 元騎士団長の傭兵、あっさりと制圧する

 バナナ盗賊団のアジトはあっさり見つけることができた。


「さすがですね」

「簡単だ」


 近くの茂みからギバはアイラと共にアジトと思われる古い小屋を観察していた。


「見かけない怪しい男がいたから、尾行した。それだけだ」

「それが一番難しいんですよ。王都にどれだけ怪しい者がいるか」

「毎日街を歩いていたらわかる。

 ただ、確かに中央貴族出身が多くプライドの高い騎士には難しいな」

「……返す言葉もありません」

「とはいえこんな夜遅くまでかかってしまったがな。リラ・ブラウンの容態が心配だな」

「えぇ。そうですね」


 真面目な顔をして小声で会話しながらも、侵入するタイミングを計っていた。


「ところで、応援は?」

「ギバさんの手筈通りに。少人数で本当に良いのですか?」

「むしろそれが良い」


 ――ピーーーッ……


 そうやって話していると、どこからか鳥の鳴き声に似た音が鳴り響いた。

 アイラが内ポケットから笛を取り出した。

 音はそこから鳴っていたようだ。


「魔道具か?」

「えぇ。最新の人工の魔道具『通信の魔道具』です」

「便利になったものだな」


 騎士団にある技術班が開発した魔道具だった。

 ギバが所属していた時にはなかったから、新しいというのは事実だろう。


「とにかく準備が出来たようだな」


 そしてその音は応援を頼んだ騎士たちの配置が整ったことを知らせていたようだ。


「今夜は新月。奇襲するには絶好の機会だ」

「えぇ。では、作戦開始の返事を」


 その音に返答するようにアイラも短く小刻みに笛を鳴らす。

 突入開始を知らせる合図だ。

 鳴り終わるのを待って、


「行くぞ」


 ギバ達は盗賊団の元へと走っていった。


★★★


 小屋の扉の前で静かに座る。

 アイラが少し扉を開けて中を確認すると、そこには十人ほどの男達が談笑を繰り広げていた。

 カードで遊んでいたり、酒を飲んでいたり、その表情は油断しきっているように見えた。


「行くか?」

「少々お待ちを」


 ギバが静かにそう聞くと、アイラは手で静止。

 懐から何かを取り出した。

 それを見てギバは「ん?」と喉を鳴らす。


「また魔道具か?」


 アイラは魔道具らしきものを握っていた。

 形状は先ほどの『通信の魔道具』とは異なる。

 ボールのように丸みを帯びていて、色は黒い。

 真ん中には線が入っていて、開けられるような仕組みになっていた。


「えぇ。最新式の人工の魔道具です」

「……またか」

「騎士団の技術班が使えとうるさいんですよ。実戦で利用価値があるか試しておきたいみたいです」


 呆れたようにため息を吐くアイラ。魔道具をギュッと握り、魔力を込めているようだ。


「連絡を取り合うための『通信の魔道具』に、追跡に便利だという『発信の魔道具』と『受信の魔道具』、そしてこの『閃光の魔道具』……今回の事件で積極的に使うよう指示されました」

「ふん。相変わらずだな、技術班は」

「まったくです。自分達の技術にしか興味がないんですから。こんなことしなくともすぐに制圧できるのに」


 恨み言を吐いてはいるが、騎士団の技術班の力はそれなりに認めている。

 彼らのおかげで魔道具開発は大きく発展し、安価な魔道具も量産された。

 天然ものの威力にはやはり劣るが、誰でも使いやすく規格化された道具には一定の価値がある。


「まぁ今回は少し特別みたいですけど」

「…………?」

「ギバさんが作戦に参加するとどこからか小耳に挟んだようで。自信作をぜひ使ってくれってアピールされちゃいました」


 ギバさんの人望ですね、とアイラは苦笑した。


 騎士団長時代、技術班に異様に懐かれた記憶が確かにある。

 予算が足りず貧相なモノしか出来ないと嘆いていたから、開発予算を大幅に上げただけなのだが。

 今でもそのことを恩義に思っているらしい。

 だが、技術班は変人の巣窟。そんなところに好かれても、何となく戸惑ってしまい、


「そ、そうか……」


としか言えなかった。

 そんなギバの気持ちを知ってか知らずか、アイラは真剣な顔になる。


「さぁ。準備が整いました。ギバさん、耳を塞いで目を閉じて!」


 小声でそう言うと同時に『閃光の魔道具』を扉の隙間から投げつける。

 ギバは素直にアイラの言うことを聞く。


「ん? なんだ?」

「……!! 伏せろ! 魔道具だ!」


と言う叫び声が扉の奥から微かに聞こえたが、すぐに掻き消された。

 耳を塞いでもつん裂く爆音と目を閉じても辺り一面が強烈に光る!

 不意打ちを食らった盗賊団は堪ったもんじゃないだろう。

 徐々に閃光が鳴りを潜めたのを感じると、同時に目を開ける。

 横を向いて、アイラとアイコンタクトを取ると、扉を蹴破った。


「な、なんだ!! いったいなにが!?」


 中には目を開けられず、何かを探すように手を前に向ける男や――直前に伏せたのだろう――床で丸くなる男達がいた。


「騎士団だ! 貴様らが攫ったリラ様を返してもらうぞ!」


とアイラが叫ぶが、盗賊団には聞こえないだろう。

 とても大きい音だった。耳鳴りが酷いに違いない。

 ……と考えていたが、


 ――ガチャ

「なんだ? うるせぇ――」


 どうやらまだ仲間がいたらしい。

 奥の扉を開けて入ってきた男達。

 驚きの表情でこちらを見ていた。


「な、何で騎士団がいやがる?」

「マジかよ! そんな位が高い人間だなんて聞いてねぇぞ!」

「ってかここは見つからない。安全だって言っていたじゃねぇかよ! なんですぐに見つかるんだよ」

「おい。リーダーはどこ行った!? いねぇのか?」

「いねぇよ! 今日は用があるとかでどっか行っちまったぞ? どうすんだ、これ」


 まさにてんやわんやの大騒ぎ。

 突然の出来事に対応しきれていない。


(まだ四年だからか、それともここにいるのが雑魚共だからか、突発的な事象に対応できていないな)


 その慌てようにギバは冷静に観察する。


「チッ! 仕方ねぇ! こうなったら俺達だけでも逃げるしか――」


と言いかけた瞬間、持っていたナイフを弾く。


 一瞬の出来事で何かわからなかったみたいだ。

 身体も反応できておらず、衝撃でビリビリとしているのか震える手を眺め、その後、ナイフが突き刺さった天井へ視線を動かしていた。

 その後、下へ恐る恐る目を向ける動作。

 漆黒の大剣を持ったギバと目が合った。

 黒いオールバック。眉間に皺。鋭い眼が光っている。


「逃がすと思うか?」

「ひっ……ひぃいいい!」


 声に殺気をめいいっぱい込めると、男は全身に駆け巡った恐怖で思わず叫んでいた。

 その瞬間、大剣を振り上げ、逃げようとした男の鳩尾へと一直線へ向かう。


「こ、殺され――グフッ……!」


 強い衝撃。大剣が鳩尾にめり込んだのだ。

 男の意識は刈り取られた。


「捕らえろ!」

「「はっ!」」


 それを皮切りにアイラが部下達に号令を掛けると、彼らも盗賊団を捕縛し始めた。

 その素早い動きに盗賊団は蜘蛛の子を散らすように外に逃げようとする。

 だが、さすがに実力に差があり過ぎた。

 騎士達は逃げる男達を難なく捕まえ、ギバもアイラ達に加勢して、盗賊団の逃げ道を塞いでいった。


 中には


「あぁあああっ!!」


 最後の抵抗と言わんばかりに悲鳴を上げ斧を振り回しながら、ギバに向かってくる男もいたが、


「ッ!!」


 振り上げた斧を難なく避けると、大剣を素早く振って斧を落とした。

 そして、怯んでいる男の首の後ろを大剣で叩いて容易く気絶させる。

 小屋の制圧をあっという間に終わったのであった。

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