イマジネーションガールフレンド

六花

イマジネーションガールフレンド

 中学1年の中頃にもなれば学校にも慣れてきて、恋愛事にも興味津々。

 やれ、何組の奴が何組の女の子に告白しただの。やれ、誰と誰が付き合っているだの。

 中には恋愛に興味を持たない奴もいたり、興味がないようにしているけど実はめちゃくちゃ気になっている奴もいたり。

 俺はどれかと言うと……ちょー興味がある。

 ただ、俺は隠れ興味津々者。つまり、興味がないようにしているけど実はめちゃくちゃ気になっている奴なのだ。

 7月の中旬の昼休み。俺はいつもと変わらないメンバー、俺、敦貴あつき亮介りょうすけの3人で机をくっ付けて昨日観たテレビの話等をして弁当を食っていた。


「なぁ、もうすぐ夏休みだから、夏休みに何しようか考えようぜ」


 突然、話題を変えてくるクラスのムードメーカー的存在の敦貴。


「夏休みに『何か』ねぇ……」


 俺が考えていると、


「ナンパ! ……いや、夏休みまでに彼女を作ってトリプルデートなんてどう?」


 起きているのに寝言を言う自称『愛の戦士』亮介。流石は愛の戦士。寝言も恋愛に染まっている。


「夏休みまで1週間もないんだぞ? 無理があるだろ。無駄に告って1人で玉砕してろよ、青春小僧」


「冷たいなー、徹は。暑いからってその冷たさは要らないよー」


「そうだぞ、徹。今回はオレも亮介の案に賛成だ」


 事もあろうに亮介の戯れ言に敦貴も乗っかってきやがった。

 こうなると中々めんどくさい。更には2対1で分が悪い。

 さて、どうやってこの玉砕フラグを回避するべきか……。


「そんなのお前ら2人でやれよ。俺は絶対やらん」


 ここは勢いで押し切ろう。


「えー!? いいじゃん、やろうぜ?面白そうだし」


「やらん」


「何でそんなに頑なのさ?」


「別に理由はない」


「怪しいなー。……まさか、もう既に彼女がいるとか?」


「いない」


「本当に?」


「いないったら、いない」


「でも、実は……?」


「いる」


 ヤバッ! つい口が滑ってしまった。


「おい、マジかよ! いつの間に彼女なんて作ったんだ!?」


「いつも恋愛相談は僕にしてって言ってるのに、何で言ってくれないのさ」


「いや、これは、その……」


 俺が取り繕おうとしているのに2人は前のめりになって質問攻めをしてきた。

「で? 何組の子だ?」


「何組って言われても……」


「まさか、他所の学校の子?」


 亮介よ。何故、上級生を省く。


「え、ま、まぁ、それが……」


「おいおいおい、他所の学校かよ! すげぇな! その子は可愛いのか?」


 何が凄いのか教えてくれ、敦貴。


「そりゃあ……」


「身長とか髪型、スタイルは?」


「平均くらいでストレートのロングかな。スタイルはスレンダーで胸が大きいかな」


「芸能人とかで言うと誰に似てるんだ?」


「うーん、そこらのアイドルより1.6倍くらい可愛いから例えられない」


「1.6倍……何か、リアルな数字だね……。その子はタケノコ派? それともキノコ派?」


 それを聞いてどうするつもりだ、亮介よ。


「知らんけど、多分ポッチー派だ」


「なぁ、写真とか携帯に入ってないのか? 入っているなら見せてくれよ!」


 めちゃくちゃ気になってんじゃねぇよ、敦貴。


「写真もそうだけど、名前と学校を聞こうよ! それさえ分かれば見れるし」


 亮介、特定しようとするんじゃない。


「写真は無い! 学校も教えん!」


 詰め寄る2人へキッパリと拒否したが、


「じゃあ、名前くらいはいいだろ?」


「そうだよ! 下の名前だけでも!」


 中々引き下がらない。


「マ……マナ……」


 名前を耳にした2人は立ち上がって大騒ぎ。

「うぉおおっ!何か可愛い感じがする! クソーッ! お前1人だけズルいぞ、徹!」


「マナちゃん……いいね、マナちゃん!」


 騒ぐ2人のせいで教室にいる奴らの視線は全部こちらへ向いていた。


「お、おい!あまり大きな声で言うな! これは俺達だけの秘密にして欲しいんだよ」


 秘密という単語に反応したのか、2人は我に返って何事も無かったかのように椅子へ座り直して小声で話し出した。


「悪い悪い。俺達だけの秘密だな? 任せとけ」


「僕達だけの秘密って何かカッコイイね」


 何とか大事になる前に鎮める事が出来て良かった。


「徹。秘密はいいんだが……」


「何だ? 敦貴」


 急に敦貴は真剣な顔で更に声を潜めて話す。


「秘密にする代わりに……その……」


「何だよ、ハッキリ言えよ」


「俺達にマナちゃんの友達とか紹介して貰えないか?」


 はい、きました。彼女の友達を紹介してパターン。


「それいいね。マナちゃんの友達ならトリプルデートもやりやすそうだし」


 告白する前から良い返事を貰っている前提での発言も頂きました。

 ガバガバではあるけどプランを立てて言ってきている2人には悪いが……。


「無理だ」


「「え?」」


 見事にハモる2人。


「マナは友達が居ない設定だ。それにインドアだから、デートは大体おウチデートだ」


 俺の返答に2人は青ざめる。


「マジかよ……。友達1人も居ないのか……?」


「さすがに誰かの家に6人で集まってデートなんて出来ないよね……」


 このまま大人しく諦めてくれと願った矢先、


「ん? 設定? おい、徹。設定って何だ?」


 敦貴が余計なところに気付きやがった。クソッ! 設定とかポロッと言ったばかりに……。


「アレだよ、アレ。マナが言ってたんだよ。多分、中二病? ってやつだよ」


「なーんだ、そういう事か。マナちゃんって結構痛い子なんだな」


 大きなお世話だ、敦貴。


「そうなんだよ。全く付き合うこっちも苦労するぜ。ま、俺ら思春期の中学生にはよくある事だから仕方ないけどな」


「そりゃそっか。アハハハハ」


「ハハハ……はぁ……」


 ちっとも笑えねぇよ。

 俺と敦貴が笑っていると亮介が物欲しそうな顔でこっちを見ていた。


「どうした? 亮介」


「徹は彼女いていいなーって思ってね」


「そうか?」


「うん、そうだよ。ね? 敦貴」


「まぁ確かにオレも話していてちょっと羨ましいと思った」


「でしょ?」


「でもなぁ……」


 少しばかりトーンダウンして重くなる空気。この真剣さ……コイツらは本当に彼女が欲しいようだ。

 俺にはどうする事も出来ないが、この重苦しい空気はやめて欲しい。


「そうだ!」


 重苦しい空気を打ち払うかのように、亮介が声をあげた。


「当初の予定通り、僕達はナンパで彼女をゲットしようよ!」


「そうだな、そうするか」


 それでいいのか敦貴よ。


「おいおい、ちょっと待てよ。わざわざナンパしなくても、ウチの学校の女の子じゃダメなのか? 特に敦貴は先輩にも人気だろ?」


「人気だから付き合えるってワケでもないだろ。それに学校外の方が何かワクワクしないか?」


「何だよ、それ」


 敦貴はチャレンジ精神旺盛だ。わざわざリスキーな方を選択するのは冒険心みたいなものだろうか。


「決まりだね! じゃ、各々ナンパするって事で! 彼女が出来たらちゃんと報告してね」


「おう」


「俺は?」


「徹は夏休みにトリプルデート出来そうな場所にリサーチだよ」


「めんどくせぇ」


「仕方ないでしょ! 徹は僕達に内緒で彼女作っていたんだから!」


「わーったよ」


「よーし! そうとなったらやる気が出てきたぞー!」


「じゃ、徹よろしくな」


「あ、ああ……」


 なんだかんだ話して昼休みが終わり、自分の席へ戻っていく。

 そして、1番後ろの席の俺は2人が席へ着いたのを確認して頭を抱えた。


「どうすんだよ、これ……」


 頭を抱える理由はデートの場所探しではない。彼女、つまり『マナ』の事だ。

 俺に彼女? そんなの居るワケがない。マナはナンパをしたくなさすぎて咄嗟に嘘をつき、更には見栄まで張ってしまったが故にポロッと出てきてしまった俺の心にいつも寄り添うイマジネーションガールフレンドだ。

 今更「嘘でした」なんて言えねぇし、こんな話誰にも相談出来ない。

 自業自得とはこの事だ。

 こうなったらもう奴らのナンパが失敗する事を切に願うだけだ。

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イマジネーションガールフレンド 六花 @rikka_mizuse

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