予後、予後、赤い予後——

『予後』とは、病気の経過と回復の見通しを表す言葉です。本来なら、それに『赤い』という形容詞は付帯すべくもありません。
しかし本作に関しては、『赤い予後』という言い回しがこれ以上なく物語の根幹を突いているのです。

この作品は、主人公の小学校教師・敦美が、隣家に住む「菊次おじちゃん」の最後の日々に寄り添うお話です。
豊かな色彩表現で綴られていく本文中、やはり印象的なのは赤い色。スパゲティや夕焼け空の色は、菊次おじちゃんとの時間の中で大きな意味を持ちます。

教師として子供たちと接するうちに、敦美は悩みます。誰一人として同じではない色の見え方を、どう伝えていくのか。
それは「どのように他者と接するのか」という、全ての人にとっての普遍的な問いのように感じました。

菊次おじちゃんとの関わりを通して、敦美は何を得るのでしょうか。
美味しそうなスパゲティの描写もさることながら、その風景に宿る情緒こそ、本作最大の魅力だと思います。
物悲しくも清々しい読後感を、ぜひ味わってください。

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