第16話 やられたらやり返す。倍返しではないけど。

 あの後、数日の移動と決まった場所で宿泊し、多少早く王都に戻ってきたが、集団での移動している一年生の帰還と大差はなく、学園の校庭で荷卸とかしてた皆に無事である事を挨拶し、学園長へ報告する為にプルメリアと学園長室に向かった。

「ご苦労様。教員の使い魔から聞いてるわ、災難だったわね。とりあえず簡潔にお願い。あ、座って」

 学園長はニコニコしながら言い、俺は言われた通り簡潔に説明する事にした。

「隣国との、ちょっと本格的な戦闘に巻き込まれました。どうも軍部が学園に在籍している俺の事を知ってて、緊急性が高いとの事でわざと他の生徒も巻き込んだみたいです。この辺は国王は関わっておらず事後報告らしいので、作戦立案者に降る処分次第で抗議しようと思っております」

「そう。確かに抗議物よねぇ……。で、なんで国王様が出てくるの?」

「自分の知り合いと言う事、学生を巻き込むのを好まないとの理由で、国王は確実にその案は通さないだろうとの事です。その辺りは行商人に扮した、諜報や侵入調査をしている元上官から聞きました」

 破壊工作とかもやってるけど。

「ふむ。一応信頼できる人からの情報って訳ね? 一応この事は既に抗議してるから、報告に戻った上官とやらが情報のすり合わせもして、こっちに使者が来るでしょ。とりあえず一年生は今日の授業はないから、ゆっくり――」

 学園長の言葉を遮る様にドアがノックされ、俺の方を見てきたので軽く頭を縦に振る。

「どうぞ」

「アスター国王が来ました。約束はないですが、待たせるのも失礼なので案内しますって、秘書が言ってた事を伝えに来ました」

 なんか丁寧な言葉使いとは無縁そうな、実技の先生が走ってきて簡潔に説明してくれた。つまりもう学園に来て、こっちに向かってるって事だな?

「わかったわ。貴女そのまま廊下で待機して、秘書が国王様を案内してきたらドアを開けなさい」

「わかりました」

 うん。この人が国王に失礼しない様にするには、そのくらいしかできないよな。クッ殺先生だし。

「国王来ちゃったかー。アイツも行動が早いなぁ」

「そんな事言えるの、お兄ちゃんくらいだと思う。ってかお兄ちゃんが帰ってきたから直接来たんじゃない? 友達なんだし」

「にしても体裁って物があるだろ? 国王だぞ?」

「友達だからでしょ?」

「そう……か? どちらかというと、半分くらいは俺に国から出て行かれたくないのと、学園長への配慮かと思うんだよなぁ。一応? いや、かなりの重鎮だし。それに私情を挟むのはどうかと思うけどな」

 そう言いながら少しだけ頭を捻るとドアが開いたので、アスターが来たみたいなので立ち上がる。

「失礼する」

 そう言って正装のアスターが学園長室に入ってきたので、服装的に俺は片膝を付いて形だけそれっぽくする。もちろん学園長もプルメリアもしている。

「楽にしてくれ」

 そしてドアが閉まった音がしたと同時くらいに、アスターの許可が出たので立ち上がると、片目を細めて凄く面白くなさそうな顔をしていた。

「本当に申し訳ない。もう少しで学生を巻き込むところだった。あと、こちらが悪いのに、恩師や友人に頭を下げられるのは本当に気分が悪いな」

 護衛は見えたが一緒に入ってきていないので、多分廊下で待機しているんだろう。国王が謝っているところなんか見せられないもんなぁ。

「とりあえず心情は察する。ってか気にすんな、やったのは参謀職の奴だ。巻き込んだ云々の事だけど、俺はかまわないんだが……」

 そう言ってプルメリアと学園長を見る。

「生徒を預かる第一人者。良い様に利用されたのを結構怒ってる婚約者」

 もうプルメリアがその気だし、俺も諦めてるので婚約者と言っておく。

「あぁ、わかっている。私の友人関係を巻き込みはしたが、そこに私情を挟むほど王として愚かではない。学園から抗議が来たという事は、それなりの罰は与えるつもりだが――」

「ねぇ? 立ち話しもなんだし、座らない?」

 学園長が腕を組みながら呆れた様に会話に割り込んで言い、ソファの方を顎で指した。

「申し訳ない。女性を立たせたままなのは、かなり失礼ですね」

「すみません。先に答えてしまって……」

「別にかまわないわ。さ、座りましょ」

 国王との会話を遮るんだから、学園長もなんだかんだで凄いけどね。

「じゃ、失礼します」

 そして国王よりも早く座るプルメリア、空気を読んでないのか気にしてないのかがわからない。



「二人の意見の落とし所として、まだ従軍していない一般人である生徒を巻き込んだ。それを知ってたうえで、良い様に既に軍人ではないルークという強大な戦力を巻き込んだ。全面戦争中ではないので、その辺はどうにも言い訳ができない。よって一年間の九割の減俸、退役させずに確実に一年は働かせる。そして私からの口頭での厳重注意。で、よろしいか?」

「えぇ、問題ないわ」

「ないです」

「好きにしてくれ。俺はあまり気にしてない」

 話し合いの結果、アスターが言った事に決まった。確かに民間人を最初から巻き込む様な作戦は、参謀としてどうかしているし、もしもの時に平気で民間人を巻き込む奴という噂が流れた場合、どうしても心証が悪くなる。だからまだ傷が浅い内に釘を差しておけ。ってなった。

 既に逃げ場がない様な首都や町に攻め込まれてる場合は、母国や故郷を守るための義勇兵として募るかってのが望ましいしな。

「はぁ……。とりあえずの面倒事の四分の三は済んだ。残りは進軍してきた国に使者を送っての抗議だ……。本当にこの間言ってた胃薬でも調合してもらうか? って状態だ」

「ずいぶんと比率が大きいな。たかが三人に」

「その三人が大きいんだよ……。クソみたいに利益や技術、知識と戦力を持った放浪癖のあるエルフに、恩師であり魔術ギルドの元重鎮エルフ。火遊び爵と血塗ちまみれ笑顔のご息女でハーフヴァンパイア……。派閥とか関係なく、城は蜂の巣をつついたかの様になっていて、私の報告を待っている。だから減俸一年で首が繋がってるだけ凄いんだよ。本来ならそいつの頭を持って謝りに来る水準レベルだ」

 なんだ火遊び爵って……。それに血塗れ笑顔? プルメリアの両親の二つ名? 初耳だぞ?

 少し眉間にしわを寄せてプルメリアの方を見ると、軽く頭を縦に振ったので当たっているのだろう。

 火遊び爵って事は、前にプルメリアが言ってた女性に手を出しまくってるって意味だろうな。けど戦力がわからない二つ名だな。

 血塗れ笑顔ってのは、相手の返り血をあびつつも、あらあらうふふって感じで笑っているんだろうか? あの笑顔で血塗れ? 格闘技教えたのも母親だし、俺の母さんも昔はヤンチャしていたって言ってたし、やっぱりヤバいんだろうなぁ……。

 俺の実家の近所、ヤバい奴多すぎじゃない?

「良く調べたな。今まで普通の街に住んでたプルメリアなんか、無名に等しいだろ」

「私の友人やその関係者は、全て調べられてると思え。悪意ある奴が知り合いになろうと近づいてきたら、暗部が秘密裏に処分する事になっている。過去に数名、ルークに殺された者もいるらしいがな。記憶にないか?」

「夜中に襲ってきた奴なんか多すぎて、記憶に残ってない。殺される前に自殺する手段として、自分に……。特に顔に重点的に火をつける奴は数名いたけど……。アレは国の奴だったんか?」

「多分そうだ。お前の名前や噂が強くなりすぎて、国の脅威になる前に殺しておけという結論が王族派と貴族派から出ていた。その件は知った時に諫めたが、他国で色々活躍したりして、水面下での引き込みの動きがあってな。その時だ。後は顔料の権利や細々した金絡みだ」

 そう言ってアスターは大きなため息を吐いた。心労がやばそう。

「初耳だな。まぁ、長寿種が爵位もってたり、国の利益の……どのくらいだっけ? 青の顔料の奴はデカいだろうな。爵位は悪用してないし、放浪してて領地もないし、税金も払ってないからないのと同じだろ? 爵位や顔料だって、色々と当時のお偉いさんが大勢集まって決めてただろ? 何が不満なんだ?」

「全部だろう? 中にはお前の事を、存在自体が気にくわないって奴がいるんだよ。今回はなかったが、予算会議に毎回追求してくる奴もいるくらいだ。もう十分払っているだろう。友人だからと贔屓しているのでは? とな。ルークの持っている知識や技術を他国に持って行かれ、敵に回られたらどう責任を取るんだ? で毎回黙るが、よほどお前の事が気にくわないらしい」

「そこから暗殺に繋がるのか。王宮内の派閥こえぇな」

「何をのんきな事言ってんだ? 自分の命に関わる事だろうに。それにだ、今回は学園の生徒や火遊び爵のご息女も一緒に巻き込んだって事で、本当に……。本当に大変だったんだからな? 私が謝罪に行くって事で一時的に収まったが、二人の気分次第では参謀のお偉いさんの首が全て飛ぶまであったんだぞ? それが一人だけで、減俸一年で済んだんだ。本当に肩の荷が下りた気分だ。残りは抗議だけだしな」

 アスターはげっそりしながら睨む様に言い、お茶に更に砂糖を足し、懐から折り畳まれた袋を取り出して開封し、それをお茶で流し込んだ。

 胃薬かな? 本当に大変だったらしい。

「私は生徒が無事だったから、コレ以上は特にないけど、巻き込まれてたら本格的に抗議に出向いてたわね。暴れるでしょうけど」

「私は今回が初めてだったので二人に次はないですよ? って脅しただけですが……。次は城の一番高い所か城門に、責任者か作戦立案者の死体が飾られるくらいで済ませますね」

 二人ともヤバいな。アスターが苦笑いしてるじゃねぇか。本当可哀想に……。

 ってかこの世界の当たり前ってこんな感じだったっけ? 強者の多少とか脅しって言葉が、国が滅びるとか、威厳が底まで落ちる感じなんだが。

「本当に巻き込まれなくて良かった……。やっぱり頭を持ってくるべきだったか……」

 アスターは指を組み、うなだれながらボソリとつぶやいた。やっぱり不安材料は生徒だったか。

「そんなんもらっても嬉しくねぇよ」

「だろうな。とりあえずその例の二人から直接聞き取りはしていない。帰ってきたのを確認して直ぐに来たからな。城に戻ったら脅しがどの程度だったか聞き、宰相やお偉いさんと会議でも開きながら今後の対応を話させてもらう。次はないと確約はできないが、あった場合は筋を通させてもらう」

「わかりました。良い結果になると期待していますし、使者が来れば応じる事もあるでしょうね」

 んー。既にアスターよりプルメリアの方が立場が上っぽい。俺? 友人だから結構雑に扱われてるけど、本当に気にしてないから問題ない。あまりにも酷い場合は嫌がらせとして、他国に情報を売りに行くけど。


「あとだ。ルーク。今回は国の土地に変な事するなよ? あの時は本当に、数年ほど財政難と食料が不足気味だったんだからな? 偉い奴十数人の首より質が悪かったんだぞ?」

「ん? 何の事だ? まぁ、今回はそこまで怒ってない。でも俺の力や知識を国の権力で無理矢理得ようとした場合は、髪の毛が数日かけて抜ける薬を、お前の寝室に忍び込んで頭にぶっかける。と言っておく。あぁ、ついでに城の一角も盛大に吹き飛ぶな」

 ちょっと? なんでミントの種の事をここで言うんですかねぇ? 学園長は多分俺がやったって知らないんだから、余計な事は言わないで欲しいな。なんてったって国から魔法ギルドに、正式に土属性が使える魔法使いの要請があったくらいだしな。

 ほら、学園長が変な目で俺を見てるじゃないか。勘弁して欲しいぜ。

「わかった。それも言っておこう。一応聞くが……。例のアレは、もう持ってないよな?」

「さぁな。持ってなくても制作手順は頭に入ってる。やろうと思えば三十日ほどでできる。あの時は貴族が全面的に悪いってのは知ってるだろ? 今回は絶対ないから安心しろ。やるなら立案者の家か実家が、物理的に傾くくらいで済ませる。死人は出ない」

 ミントは財政難になるうえに国民が飢えちゃうし、労働力がそっちに割かれるからやらない。

 まぁ、その時は身分の関係ない学園内でのことだったし、全部貴族が悪いってアスターが言い聞かせてくれたけど。

「物理的に傾くって何だよ……。その時点で家が倒壊するだろうが」

「基礎部分をちょっとな……」

 確か日本では、一度の傾き、沈下三十センチで全損扱いだったな。こっそり竹でも植えれば面白いかもしれないな。

「地面を均す手間も増えてるだろうに……。ルークを怒らせると、別方向から殴る感じだから質が悪い。素直に人的か物理的な被害の方が処理が楽なんだよ。どうしてそんな変な事ばかり思いつくんだお前は! まったく!」

「木造なら倒壊しない。置いた球や瓶が転がるかもしれんが」

「はぁー……。そう言う事じゃねぇよ。いい加減微妙にズレた回答すんな馬鹿」

 クソデカいため息だな。日本なら衝撃の恐怖映像って事で、置いたビー玉が転がるくらいだから、石造りでも多分倒壊はないと思うぞ?

「ま、今回は本当に怒ってないから安心しろ。けど今後の対応でお前がハゲるか、城に穴が開くか、幽霊か怨霊が住み着くけど。で、その作戦立案者の名前とか容姿とか、どこに寝泊まりしてるとか教えて欲しいんだが?」

「教えると思うか? ってか本当に怒ってないんだよな? ならなんでそんな事聞くんだ? ってか幽霊とか増やすなよ」

「やられたらやり返す。嘗められっぱなしだと癪だろ? 国だって何かしらの報復するだろ?」

「それは、世間では怒っていると言うんだが?」

「怒ってないさ。俺が怒ってたら、ソイツはその辺の路地で顔がわからなくて、指が全部なくなった状態で冷たくなってるぞ? 利用されたで済むから、怒ってるに入らないだけだ」

「無理だ。例えルークでも教えられない」

「そっか。なら仕方ない……」

 俺は軽く首を傾げてため息を吐いた。

「いいか? 何もするなよ? 何かするなら処罰の内容に今から組み込め」

「いや、大丈夫だ。とりあえず殺さないし、怪我もさせない。夜間の警備の質だけは上げておくか、本人に俺が行くと伝えておいてくれ」

「なら一緒に城に来て、そこで処罰しろ。それならお前に罰を与えることはない」

「処罰っていっても軽いから、俺的には問題ない。夜中に忍び込んで、何かするからこそ意味がある。多分平行線だからこの話は終わりだ」

 今までの行動で、どうも俺の言葉は信用されていないみたいだ。

「勝手に終わらせるな。せめて何するかくらい教えろ」

「顔に落書き」

「それだけか? 本当にそれだけなら一緒に城に来い。そもそも城に忍び込むとか重罪だし、警備担当も処罰しないといけなくなる」

「わかったよ。インクと筆を持ってくるから、ちょっと待ってろ」

「待て……。インクと筆くらい城にある。お前が用意すると何するかわからん」

 そう言って俺は学園長室から退席しようと思ったが、アスターに止められた。

 半年は消えない、超強力油性マジック的なインクを用意しようと思ったが無理だった。俺の事を良く理解しているな。

「お兄ちゃんって、時々馬鹿な事するよね」

 プルメリアさん? そんな目障りな羽虫を見る用な目で見ないでください。

「テストで満点と赤点ギリギリ、全て同じ点数、点数を全て並べると一から十まで綺麗に並ぶとか。それを毎回やるくらいには阿呆よ」

 学園長、それはバラさないでください。何回も通ってると遊びたくなるんです。けど最後は絶対十点になるから、赤点が増えるデメリットがあるんですよ。



「行ってくる」

「では、失礼する」

 雑談はなしあいが終わり、アスターが馬車に乗り込んでからそう言って城に一緒に向かう。なんか護衛が俺の事睨んでたが、この前吹き飛ばした奴だろう。

 アレは護衛の方が七割くらい悪いから、小言を言われる事はなかったけど、結構恨まれてんなー。

 ちなみに生徒会長ユリウスには会わないで帰った。アスターはかなり学園のルールを守ってたから、息子ってなだけで会っていく様な事はしないんだろうな。

 俺はムーンシャインに乗って護衛の騎士の後ろを付いて行っている。たまには乗ってやらないと可哀想だからな。


「今すぐ第一会議室に宰相と参謀のモカを呼べ。話し合いの結果が出たから処罰を申しつける。それと責任者も立ち会わせるからそいつも呼べ。公式な文章にするから文官も最低二人だ。早急にだぞ! 後ろにいるエルフは今回巻き込まれた件くだんの張本人で、処罰を執行する為に同行してもらった。何があっても失礼のない様にしろ。後は規則通り魔力封じの腕輪と、インクと絵画用の筆もだ。それと武器は預けろ。それにこいつの口調は気にするな、私の友人だからな」

 城に付き、城門をくぐってアスターはロビーで大声で叫んだ。しかも俺に配慮しているし……。けど規則は規則で腕輪がある。しっかりしてんなー。

 そしてオロオロしている出迎えのメイドさんを無視して、会議室の方に案内もなしに進んでいるので、俺もカランビットナイフと左手前腕のダガーを立っていた兵士に預け、それに同行する。

 そしてアスターは勢いよく会議室のドアを開け、一番奥の椅子にドカリと座り、指を組んでそこに額を乗せて大きなため息を吐いた。

「本当に落書きだけなんだろうな?」

「あぁ。恥辱ちじょくまみれになるかもしれないが、消えるなら問題ないだろ?」

「恥辱って……。お前馬鹿だろ? そんな事の為に城に忍び込もうとしたのか?」

「あぁ。寝てる時にやるから意味がある。ってか城住まいなのは決定っぽそうだな。参謀だから直ぐに動けた方が良いもんな」

「失礼します」

 そんな事を話していたら、この前俺に腕輪を付けたローブの女性がやってきて、机にインクと筆を置き、良い笑顔で腕輪を持っている。

「あれから色々な研究者と有名なドワーフの技術者に頼み、新しく作った魔封じの腕輪です。覚悟してください」

 そう言っているので、俺は素直に腕を出して腕輪を付けてもらった。

「壊せるもんなら壊してみなさい! 取れるもんなら取ってみなさい!」

「今回は何もしないつもりだったんだが……。やって良いのか?」

「できればやらないでください。お願いします。すみません、調子に乗りました。高いんです。本当に止めてください」

「わかった。後ろにいる偉そうな人も睨んでるし、止めておく」

「モカ、入室します」

 そして今回の作戦立案者が来たみたいだが、女性だった。しかも私は悪くない。なんで処罰を受けなきゃいけないの? みたいな態度が出ている。

「文官。記録を取れ。今から学園で決まった処罰を言い渡す」

 そしてアスターが処罰を言い渡すが、モカは不満そうな顔をしている。反省してねぇな? なら遠慮なく行かせてもらう。ボサボサの髪を雑に全て首の後ろ辺りで結ってるから、額も露出してるし好都合だ。

 でも忙しかったのか服の襟部分は変色しているし、ヨレヨレだし、所々汚れている。寝ないと頭回んないだろ? だから今回みたいな作戦になるんだよ。

 よくあるだろ? これ考えた奴って、三日くらいろくに寝てねぇだろ。って奴。

「で、こっちにいるエルフが件のルークだ。直接処罰したいって事で同伴してもらった。皆が見ている前だ、しかも本人から内容は聞いているが、容認できるものだった。今ここで受け入れろ」

「本当なら夜中に忍び込んで顔に落書きで済まそうと思ったが、城に忍び込むのは重罪だし、警備担当が怒られるみたいだから直接来た。動くな。そのまま立ってろ。これは俺からの罰だ」

 俺は机に置いてあるインクと筆を取り、モカを睨みながら目の前に立つ。

 そして額に『加虐趣味なので豚野郎常に募集中』、左頬に『今ノーブラです』、右頬に『寝る時は全裸』と書いた。

「これが事実でも、暴露って形になるから良いな。後は城内の人通りの多い場所で突っ立ってろ。じゃあ帰るわ。堅苦しい場所は苦手だし」

 俺はインクと筆、さりげなく腕輪を机に置くと、腕輪を付けてくれたローブの女性は口を開けて驚いている。実は案外簡単に取れた。

 魔法回路とか雑だし、簡単に割り込んで開錠は余裕だった。本格的に口出ししたいレベルで本当に雑。もうボルトとナットで締めた方が確実ってくらい。

 ボルトとナットでも、片方固定してからもう片方を回転する様に魔法かければ簡単に外れるけど。

 けど超が付く微量な魔力に反応しないとか、設定どうなってんだ? だからこうなるんだよ。魔法使う事前提で作るなよ。

「待って。なんて書いたの? 皆笑ってるんだけど! ねぇ? ねぇ?」

「鏡でも見て来い。明日の夕方まで顔を洗うな」

 周りを見てみると、アスターや文官、メイドさんやモカの上官らしき人も笑いを堪えている。

 この世界的にまだセクハラという概念はないので、このくらいじゃ処罰されない。ビンタくらいはされるだろうが。

 ある意味いじめに近いがこっちは殺されそうになってるし、大量に魔石や魔力を使って赤字なので多分許される。だってアスターも笑ってるし。

 あ、魔石代くらい請求しとけば良かった。けど何らかの報償は出るだろ。

「これはサービスだ。顔に落書きは決めてたが、作戦の立案者が女性だとは思わなかったからな」

 俺はちょっとした罪悪感が出てきたので許可なく頭を掴み、髪に回復魔法を使うとボサボサで痛みまくった髪がサラサラになり、結っていた紐がスルリと落ちた。

 なんかトリートメントのCMみたいな感じになったな。

「ほう……」

「これは中々……」

「元々参謀で頭も回るし、外交か特使辺りに転属させた方が活躍できるか?」

「凄い綺麗……。私にもして欲しいくらいです」

 会議室にいた全員がモカに見とれている。顔に落書きがあるけど。

「え? 今度は何? 私ナニされたの? あ、髪がサラサラだ……」

「鏡でも見てこい。んじゃ帰るわ。勝手に帰っても良いけど、怒られるだろうから誰か案内を頼む」

「帰らせると思うか? まだ待ってろ。モカをロビーに立たせておけ」

 アスターがそう命令するとモカはサラサラになった髪を自分で触りながら兵士に連れて行かれるが、なんか動きがぎこちなかった。多分意識しちゃってるんだと思う。

 髪がサラサラになっただけで、かなり綺麗になっちゃったし。

「さて。今の魔法を教えてもらえないだろうか? お願いでも良いし、王命で無理矢理聞いても良い……」

 アスターが低い声で俺を睨みながら言うと、残っていた人達が頭を縦に振っている。ちなみに腕輪を付けてくれた女性なんか、ヘッドバンに近いくらい振っている。

「なんでそんなに必死なんだ? 攻撃系でも欠損再生系じゃないから良いけど、まずは髪の構造説明から必要になるぞ?」

「作戦会議用の紙を持って来させろ! インクと筆はあるから必要ない。それと専属の回復魔術師を数名を呼んでこい! 今すぐだ!」

「了解しました!」

 そして兵士が走って会議室から出て行った。王命ってすげぇなぁ。

「必死になる理由ですが、モカ女史の髪は城内でも控えめに言ってと言われるくらい有名な癖毛で、瞬時にサラサラで真っ直ぐな髪になるのはあり得ないのです」

 モカの上官らしき人が説明してくれた。にしても……、汚らしい癖毛ってなんだ? 濁してるけど陰毛とか陰で言われてたのか?

「つまり癖毛が酷いのに、いきなり女性が憧れる髪になったから……か。罰を与えに来たのに、ご褒美になっちゃったか。変に罪悪感とか出さなければ良かったわー」

「会議用の紙、お持ちしました! 今張り付けます」

 そして兵士が素早く壁にピンで紙を固定し始め、文官が笑顔でインクと筆を渡してきた。

「魔術師が今こちらに向かっていますので、準備をお願いします」

「お、おう……」

 なんか勢いに流され、俺はクラスの女子に教えたダメージヘアの回復方法の図を描き始めると、女性を含む回復術師十人が会議室に入ってきた。

「今このエルフが説明する魔法を、確実に会得せよ。これは国の外交に関わる。主に国の主要パーティーへ出席する女性への強みになり、城には髪をサラサラにする魔法使いがいる事を広める事だ。文官、即魔術ギルドに書類を提出できる様にしておけ。もちろんそこのルーク名義だ」

「「かしこまりました」」

 大事になって来やがった……。けど学校に……。クラスに数名いるんだよなぁ。これ言った方が良いか?

「あ、悪い。既に魔法ギルドに登録してあるし、秘術指定もされてない。何かやばいなら、そっちの権限で正規の手順で捻じ曲げておいてくれ。クラスの女子が結構使えるんだわ……。だから動くなら早めに、そして変えたら報告してくれ」


「ってな訳で髪への栄養が――。洗うと――。乾燥とかで更に――。拡大するとこんな感じになってるからそれを塞ぎつつ、傷を回復させる様に髪にも適用させ――。結果こうなる」

 俺は説明を止め、腕輪を付けてくれた女性の頭を掴み、先ほどと同じようにして髪に回復魔法を使うと、艶が戻っているのが一発でわかる様になった。

「わ! 凄い! 手櫛でもわかるくらいツヤツヤしてます!」

「教師経験もあるから、専門知識がない私でも理解できる。ルークが教師の時に入学したかった……」

 王様? 確かにあの時の教師は、なんか要点のまとめ方が下手だったけど、それなりにわかりやすかったぞ?

「「おぉ……」」

「「「羨ましい……」」」

「自分でもきっと使っているんだろう。けど髪型がな……」

「おい、羨ましいとか言ってるが、これを覚えるんだぞ? もう自分でかけ放題だ。今から魔法陣を描くから、キーワードとなる言葉や魔法回路は確実に覚えろ。お互いに使用して練習しろ。あと髪型は好きでやってんだよ」

 俺はそう言って紙に当てるような感じで魔法陣を出し、上からなぞって模写していく。

「ハゲを治療する魔法はありますか?」

「多分部位欠損を治療するより難しい。俺が考えるに、いわゆる蘇生魔法に近い物になるぞ? それでも必要か?」

 誰が言ったかわからないが模写しながら答え、今入ってきた人達にハゲっていたっけ? と思い出す。

「ハゲを治すのには、聖女様の大魔法クラスじゃないと駄目なのか……」

 なんかもの凄くゲンナリした声が聞こえたので、模写が終わった隣に頭皮の断面を描く。

「毛の生える構造ってのはこんな感じで、この根毛ってのが死んでて栄養を吸わなくなって生えなくなる。だから俺は毛生え魔法ってのは蘇生魔法の一種だと思っている。だから栄養のある物を塗り込んだり、髪ではなく頭皮を洗ったり、ストレスのない生活や食生活の改善が重要だと思う。けど何やったってハゲる時はハゲるし、遺伝……先祖の性質的な物もある。先代、先々代が……。だから母方の家系の方に当たったんだろ」

 そう言いながら毛根の断面図を描き終わらせてアスターの方を見ると、ドヤ顔で髪をかき揚げていた。

「確かに母上のご義兄弟やお義父上は、未だにフサフサだ。つまりそう言う事だろう?」

「あぁ。つまりユリウスがハゲたら、先代の……。つまり父方の血筋が強いんだな。って言ってやれ。ハゲなかったら私に似たんだな、で済む。それか聖女にでも今描いた絵を見せて、どういう物なのか説明し、毛根に蘇生魔法をかけてもらえば十日後くらいには髪が確認できるだろ。寄付金を払って誰か実験台にでもした方がいいな。保証できないし。何か髪へのダメージでわからない事があったら、今手を上げて質問しろ。じゃないと俺はもう学園に戻るぞ」

 俺は筆を置き、必死に魔法陣を書き写している、超エリートと言われている宮廷魔術師と言われている人達を見る。

「いないな。帰るから門までの案内を頼む」

「私にも使っていただけないでしょうか?」

 俺の事を案内しようとしたメイドさんが、国の重鎮のいる前で言った。凄い度胸だ。

「あぁ、別に俺に対して失礼って事はないし、実演するって意味では今いる方々に対しても失礼って事で攻められる事もないだろう。な?」

 俺はアスターの方を見ると、無言で頭を縦に振った。

「でもお前は、少し遠慮って物を覚えた方がいい」

 駄目だったみたいだ。やっぱり重鎮が多いと、内心穏やかではないんだろう。

「申し訳ない。以後気をつけますので、寛大な処置を……」

 メイドさんの頭を掴みながら回復魔法を使いつつ、何となくそれっぽい言葉で誤魔化しておく。

「態度や行動もな」

「以後気をつけます」

「ふ、ふああぁぁぁぁ! 凄いです! 何ですかコレ。サラッサラですよ! 明日からどんな髪型にしようかしら?」

「んん゛っ」

「では、城門までご案内いたします」

 なんか偉そうな爺さんが咳払いをするとメイドさんが無表情に戻り、会議室のドアを開けてくれた。

「失礼します」

 俺は一度会議室を見渡し、特に何もなさそうなので廊下に出るとメイドさんが先行してくれ、ロビーで預けたナイフとかを受け取ろうとしたら。モカに言い寄っている男がいる。

「俺を罵って下さい!」

「はぁ? 場所を考えてよ。ここをどこだと思ってるのよ!」

「存じております! ですがこのチャンスを逃すと、次に会う機会がいつになるかわかりません。なので恐縮ですが、所属とお名前を!」

「うっさい! 毎日の様に会ってるでしょ。モカよモカ! あんた今朝まで一緒に作戦室にいたでしょ!」

 モカは指でクルクルして髪を遊ばせている。あれは照れ隠しな気もする。

「う、嘘だろ……。モカさんだっていうのか? いったい何があったんだ。この短時間に……」

「私、鏡見てないんだけど? どうなってるわけ? きっちり説明しなさいよ」

「恋に発展しますかねぇ?」

 俺はそんなやりとりを見て、前を歩いていたメイドさんに何となく話かけた。

「どうでしょうか。体九十点、顔八十点、髪三点……。最悪マイナスとか言われてましたし。その髪が九十五点とかになればライバルは増えるでしょうし、意中の男性に告白する勇気も出るでしょうね。なので常日頃一緒にいて、言い合っていたあの方の事をどう思っているか……。が重要だと愚考します」

 メイドさんも足を止め、モカと言い合っている男の方を見て言った。

「同姓でも、点数を付けるってどうかと思うが?」

「男性の方も良くしていたはずですが?」

「ストレートすぎる皮肉って、どうかと思う。俺はしてないけど」

「貴方は髪型十点くらいですけどね」

「コレは好きでやってるから良いんだよ。エルフで一括りにされるから髪型で差別化だ。外まで一緒に行ってくれないと、俺が城内でウロウロするかもしれないとか言われるから、早く外へ先導してくれないか?」

 俺は兵士からナイフとかを返してもらい、元の位置に戻し、急かす様にメイドさんに言った。

 ってかマジでこの髪型って、この世界ではまず見ないしな。

「申し訳ありませんでした。では、引き続きご案内します」

 メイドさんが直ぐそこに見えてる観音開きの大きなドアに向かって歩き出したが、案内も何もないんだよなぁ……。

 あと、何かを勢いよく肉を叩く音が聞こえたので振り向いたら、モカが俺の事を涙目で睨んでいたが、言い寄っていた男性に説明されたんだろう。けど無視しておいた。



 俺はムーンシャインに乗り、のんびりと学園に戻って厩舎に預けて寮に戻った。

「ただいま。特に変わった事はなかった?」

 仕事から帰った夫みたいな事を言ったが、いなかった時に何かあったなら、対応が必要になってくる。

「ないねー。見学中は途中で下着とかは洗えたけど、体は拭くだけだったしさっさとお風呂に入りたい」

「俺もだ。ってか辺境伯が代替わりしたとか、情報入ってなかったのかって今更ながら思ったわ」

「秘匿してたんでしょ? だから今回この作戦が使えた訳だし」

「そもそも前提がおかしいんだよ。使えればいいや。って程度の考えしかなく、偶然使える手札が増える程度だったんだろうけど、今回は切れたから切った感が強い。ったく、運に頼って手札増やしとく前に、対策して確実性を上げとかないと、いつかどうにもならなくなるってのがわからんのかねぇ」

「そうだよねー。最悪戦場で囲まれるね。で、どんな落書きしてきたの? 少数魔族独特の奇抜な模様?」

 俺は作戦立案者が女性だった事、どんな落書きをしたか。罪悪感が生まれて髪を綺麗にした事、なんか速攻で男に罵倒してくれって言われていた事を説明した。

「酷い落書きだなぁ……。そういえばさ、インク取りに行くとか言ってたけど、特別な奴で書こうとした? 洗っても落ちないとか」

 鋭いな……。ってか俺の事をよくわかっているじゃないか……。

「この話はもう良いだろ?。それより俺はおじさんやおばさんの二つ名を始めて聞いたんだけど、そんなに有名なの?」

 さっきは聞けなかった事を、インクの事を誤魔化す様に何となく聞いてみる。

「お父さんは噂程度には流れてたけど、お母さんの二つ名っておばさんから聞いたんだったかな? 昔はヤンチャしてたって」

「それは俺も聞いたな。にしてもヤバい二つ名だ。血塗れ笑顔ってよっぽどの事がないと付かないぞ? よっぽどの事があったんだろうけどさ」

「おじさんとおばさんなんか、結構簡単な二つ名だったけどね」

「なにそれ……、俺知らないんだけど」

 プルメリアが爆弾発言をした。俺の両親って二つ名持ってたの?

「目貫きと、ただの通り魔。だったかな?」

「確かに簡単だけど、よく考えなくてもヤベーな」

「おじさんの方は、いくら遠くても目を狙って脳を破壊。おばさんの方は、気が付いたら死んでる。一キロくらい歩いたら倒れるとか、指摘されて初めて切られてたってのがわかったり? まぁその時にはもう遅いんだけど」

「何それ怖い……」

 完璧に師事する人を違えたわ。両親に稽古付けてもらえば良かったわー。俺が一緒に住んでた時に、一切そんな噂聞かなかったわ。

 プルメリアと旅に出る前に、地竜の単独討伐とか、気が付いたらナイフ持ってて切られたのしか記憶にない。プルメリアの母親とは、どんな感じで知り合ったんだろうか? 父親の方はわからないけど、強い者同士引かれあったんか? あの良い笑顔で親指立ててるのしか脳内に出てこないけど。

「お兄ちゃんは大隊殺しとか言われてるし、同じだって」

「全然違うからな? なんだよ、殺してるのに一キロも歩けるって」

 八丁念仏とか言われてる刀とかあったけど、切られたお坊さんが八丁約870mほど念仏唱えながら歩けたとか逸話だけど、一キロはそれの上を行ってる。控えめに言ってやってる事がおかしい。

「量か質の違いだって。やってる事は似た様なもんだし? 私も二つ名欲しいなぁー」

「まぁ、付いちゃった物は仕方ないとして、プルメリアは強くてもまだ実績がないしなぁ? 鉄球とか投げてたし、城門とか城壁を壊したら破壊者デストロイヤーとか付きそう」

「女の子にそれは酷いね。けど相手や味方から勝手に付くからなぁ……。今度から気をつけよう」

 プルメリアはベッドに仰向けになり、足を上げて靴下を脱ぎ始めている。俺からは見えないけど、はしたないからやめなさい。

「気をつけても敵に恐怖を与える為に、味方が勝手に付けるもんだ。別な事してそっち方面に逸らすしかないな」

「んー。破壊者ってのは、スラムのドワーフのお姉さんみたいな人に付く二つ名でしょ」

「確かにそうだけど、軍隊ともやり合ってるからなぁ……。良くて追跡者チェイサーとか圧倒的破壊者ジャガーノートってのが付くだろうな」

 どの文献を調べても、二つ名はなかった気がする。だってその辺壊しまくって、軍隊が出たって印象が強すぎだし。

「軍隊の規模にもよるけど、大隊ならお兄ちゃんと一緒だね」

「一人相手に大軍だして、無理なら少数精鋭しかないぞ? 雑兵ぶつけても同じだし、疲れ知らずっぽいし。多分商品の何か使って、一時的に色々体力とか力とか色々強化してたって言われても納得できる」

「お兄ちゃんのピアスみたいに?」

「まぁ、それは置いておいて……。あまり振れられたくない話題なんだ」

「……わかった。付けてても似合うね。綺麗なピアスだね。程度に止めておく」

「助かる。んじゃ、風呂に行くか」

 俺は着替えを用意し、ドアの方を親指でさして風呂に行こうとプルメリアに 促した。


「いやールーク、大変だったみたいだなぁー」

「本当です。私はよほどのことがない限り、戦場なんて経験したくありません」

 体を洗い、湯船に浸かって魂の叫び声を上げると、両隣に先生が座ってきた。

「色々あって疲れてるのに、両隣におっさんとか勘弁して欲しいっすわ」

「この後プルメリアとしっぽりするんだろ? 少しは我慢しろ。で、何があったんだ?」

「ういーっす。まぁ、アレっす。なんか有名な俺っていうエルフが学園に入学してて、偶然前線基地見学だから、報告しなければ戦力として使えるんじゃないか? って理由で俺達一年生は巻き込まれたんですよ」

 俺はタオルを頭に巻き、ため息を付きながら簡単に説明した。

「なんだそれ! ふざけんじゃねぇよ! そんな理由で国は生徒を危険な目に会わせたって言うのか!」

 ディル先生は湯船から立ち上がり、良く響く浴室内で叫んだ。

「その辺は学園長が抗議し、慌てて王様が謝罪に来ましたよ。一応俺の友人で元クラスメイトの俺もいましたし。ってか立ち上がると目の前に先生の破城槌が来るんで座って下さい。あと他の先生方もこっちの事気にしてるんで、続き言っても良いですか?」

「あ、あぁ。すまん」

 ディル先生は大人しく座ってくれたので、風呂の縁に両肘を乗せて上を見た。

「でー、話し合いの結果、一年給料九割減俸、その間は辞めさせないし、王様直々に口頭注意。コレでまとまりましたが、の事だから、教師と一年生全員に迷惑かけたって事で、宰相辺りの名義で減俸した奴の金で粗品でも届くと思いますよ。まぁ、こういう事ペラペラ喋る様な事じゃないですが、そのうち生徒から情報が漏れますし。さっさと処理して反王政派の攻撃材料もなくすと思うんですよ」

「お、おう。ずいぶん軽いな」

「いやー重いですよ。学園長と俺に貸しを作ったのと同じですからね。今後何かあったら……ね? ほら、二人とも長寿種ですし」

「「「あー」」」

 浴室にいた数人の教師が、なんか納得している。

「今回の件は隣国の辺境伯の代替わりの情報が遅れたのと、偶然が重なった結果なんで戦争にはならないかと思いますが、何かしらあるんじゃないんですか? 政治には関わりたくないんで知りたくもないですが、手っ取り早く功績が欲しかった為に暴走した。辺りで片が付くと思いますよ」

「ふむ。落とし所としては妥当じゃの」

 副学園長が顎に手を当てて頭を縦に振っている。確かこの人は王宮勤めもしてたはずだから、その辺りはなんとなくわかっているんだと思う。なんだかんだでエリートなんだよなぁ。

「にしても……。本当今回は散々でしたね」

「あぁ、まったくだ」

「処罰が少なすぎる。粗品が良いものじゃないと割に会わねぇ」

「むしろなんで強く出ねえんだよ」

 一年生を担当している先生方が、不満を漏らしている。これは巻き込まれたんだから仕方ない事だと思う。

「いやー、王様から謝罪され、本来なら首を持ってくるべきだったとか言われてみて下さいよ。学園の生徒は結果的に全員無事。国境を守ってる兵士の損害は軽微。なら立案者にそれっぽい罰しか与えられませんって」

「にしてもよー」

「軽くないか?」

「大丈夫です。俺が顔に落書きしてきたんで。あと作戦立案者は女性でしたので、あまり強く出られませんでした」

「落書きって……」

「やっぱり軽いですよ」

 俺はどんな落書きをしたかを言うと、なんか拍手が上がった。それって良くやったって意味なのか、良くそれだけで済ませたって意味なのかわからねぇよ。

「ブラしてないとか、寝る時は全裸かぁ。女性としては凄く恥ずかしいだろうな」

「だな。良くやったルーク!」

「お前はいつも斜め上の成果を上げてくれる良い奴だ!」

 良くやったって意味だったわ。



○月××日

 学園に戻ってきたら、見計らったかの様にアスターが来た。

 なんか表情だけ五歳は老けた気がする。


――

書き溜めのストックがこれで切れます。

次話投稿は期待せずにお待ちください。

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暇なエルフが暇つぶしの為に幼馴染と数回目の学園に通う(仮) 昼寝する亡霊 @hirunesurubourei

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