第14話 2/2 強い奴は強いんだよなぁ。俺? 普段はやらないだけ。

「えーっと。学園長に呼ばれていた剣聖なんだけど。あ、これ招待状。優勝者と戦うらしいんだけどさ」

 ど阿呆は闘技場の出入り口で、一応受付をしている生徒に声をかけるが、実行委員会の腕章が付いているので多分生徒だろう。

「け、剣聖様ですか!? 話は通っています! か、係りの者が案内しますので、ど、どうぞ! 剣聖様だよ! 控え室に案内してあげて!」

「ありがとさん」

 受付の子は少し焦りながら対応し、誰かを呼んでいたので、多分係りの子がやってくるだろう。

「あ、あの。サインください!」

「名前しか書けないけど。それで良いなら」

「はい!」

「あ、私もお願いします!」

 受付の生徒二人がなんかどうでも良い紙を取り出し、サインをねだっているが、本人が本当に名前を書いているだけだった。

「剣聖様のサインもらっちゃった!」

「嬉しいー」

「お、来たみたいだから行くわ」

 うん。終わったらしい。


「あれさ、ただの記名だよな?」

 控え室に行く時も案内の子にサインをねだられ、凄い人気だってのがわかる。剣聖のイメージって老練ってイメージしかないけど、こいつは若くして剣聖の称号を得られたからな。

「むしろ字が汚いから、更に崩して書くとソレっぽく見えるだろ? もう宣伝に使われちゃって、聖女様アイドルくらい顔が売れてんだよ」

「他国に武力誇示だろうなぁ。抑止力って意味では正しいだろ。古代竜を討伐だったっけ? それを期に大々的にやってたしなぁ」

「そうそう。お前だって一緒だったのにな」

「疲れるから二度とやりたくない。指名依頼がこない様に冒険者ギルドのランクも落とした。超お偉いさんから指名が来たら仕方なく出るよ。あとその時は、称号とか地位とか名誉とか面倒くさいから、討伐後に逃げただけだよ」

 古代竜っていうのは、どんな竜でもいいから五百年以上生きてる奴だ。口から熱線を出したりするやつもいれば、ただ単にでかくて質量で攻める奴もいる。

 基本温厚で思考が戦闘寄りじゃないから、長生きしてる。だから賢くて魔力が多い奴が多いから、ものすごく面倒くさい。とある理由で癪に障り、たまに人の住む場所まで来て破壊活動するんだよ。キレたら怖いって奴だ。

 とりあえず過去に一回だけ理由を聞いた事があるけど、住んでる大きな湖の上流に製鉄所ができて、森林破壊と汚水が原因で破壊する。って、どう考えてもこっち側が悪い状況だったのもある。

 けど人族や魔族側も、大量に燃料があって鉱石類も豊富で、鉄の大量生産の要になってたから引くにも引けず、スーパーファンドサイドみたいに環境も直ぐに戻るわけもなく、結局その地域が廃れた後に別の竜に聞いた話だけど。

 良い奴だったよ。知的でユーモアもあり、最初から襲いかかってくる事もなかったしな。

 別な討伐した古代竜は、どうしても暇だったからちょっと街を破壊して困らせてやろう。って理由の、珍しく自分勝手な奴だったけど。

 で、討伐後は逃げて正解だった。なんかパレードで紙吹雪みたいなのが舞ってたり、音楽とか鳴ってたらしい。しかも城でパーティーもして、覚えたくもない偉い貴族が顔を売りに来たり、商人がすり寄ってきたりで大変だったらしい。

「お兄ちゃん。剣聖さんと組んで、古代竜を倒したんだ」

「そうそう。その時に付いたあだ名がど阿呆だ。酷いだろ?」

「買い物でお釣りを騙されそうになって、試しにちょっとした計算させたら全滅。仕方ないから足し算引き算させてみたら、半分以上解けない。掛け算割り算の正解は一割以下。だからど阿呆だ」

 まさか二桁の足し算も怪しいってのは、中々やばいと思うが、村で識字率が三割、ちょっとした計算できれば凄い方だしなぁ。

「んー。強さが頭を犠牲に……。脳筋ってやつ?」

 プルメリアさん? 貴女も部類上は脳筋なんですよ? わかってます?

「あぁ、力は全てを解決する。力こそパワーだ!」

「何言ってんだ? まぁ、確かに姑息な戦法も真っ正面から解決するし、魔法にも正面から突っ込んでくし、こいつにしかできない戦法でもあるな……」

「魔法耐性が高い?」

「戦闘に関しては天才に近いソレを、全て勘でやれるくらいには頭が犠牲になってる」

「おいおい、そんなに誉めるなよ」

 誉めてないんだよなぁ。

「後ろから見てたけど、その属性の魔力を棘状……円錐? に展開して突っ込むから、魔法系は全て反れるんだよ。だから近接戦じゃないと倒しにくい。けど近接戦がクソ強い」

 俺は紙に絵を描き、丁寧に説明をする。

「で、コレが鋭角なほど本体には届きにくいし、反れやすい。魔法の見た目で放出する魔力量を勘でやってるから、本人的にも他人的にも出してる魔力は最小限に見える。ま、戦闘に関してだけは本当に天才だよ。戦闘に関しては!」

「で、これから私と戦うんだけど、手の内教えても良いの?」

「かまわん! なにせ有名になりすぎて、手の内全部ばれてるしな!」

 胸を張って言う事じゃないんだよなぁ。

「お? 終わったか?」

 歓声が控え室にも聞こえ、何となくだけど色々終わったんだなぁって認識だろう。

 そんな事を思っていたらドアがノックされ、準備が整った事を伝えられて闘技場の方に四人で向かった。

 ちなみに四人目は案内係だ。

「さぁ剣聖の登場だ! 剣聖と手合わせできる幸せな一位から四位までの生徒は、ポーションで回復済み! 全力で戦えぇぇ!」

 拡声器で増大された声が響き、剣聖が手を振りながら四人の方へ歩いていくが、剣を持っていない。

 出入り口にコレを使えと言わんばかりに、刃の付いてない武器が数本立ててあったが、ど阿呆はあえて取っていなかった。

「おぉっと! 剣聖にとっては、我々学園の生徒との戦いは児戯に等しいとでも言うのかぁ! こいつは屈辱だ! 皆! 剣聖の鼻っ柱を折ってやってくれ!」

 ノリノリだな。ただ、実況としては良いと思うよ。盛り上がってるし。

「刃が付いてなくても、俺が持ったら腕くらい簡単に切れるからな。コレは仕方なくだよ。あとトイレ!」

 そう言ってど阿呆は急いで鎧を脱ぎ、入ってきた出入り口に向かって走っていった。

「おーっと剣聖、ここでまさかのトイレだぁー! 控え室で待ってる間に何で行っておかなかったんでしょうか! ここでかっこよく鎧を脱ぎたかったのかぁ? なんか慌てて脱いでる様に見えたけどなぁ!」

 実況の声で皆が笑い出す。ど阿呆あいつは本気で我慢してたのか、受け狙いでやっているのかわからないから困る。

 でも本来なら垂れ流しで戦う為の防具だし、なんであいつはもう少し考えて行動しないんだろうか?

 そういや、丸い蓋が一ヶ所だけピン留めしてあって、開閉できる鎧とかあったな。問題は本当にそこから出せるのかって構造だけど。

 太股までのグリーヴとか胸当て、覆面でも良かったじゃん。


「いやー申し訳ない。さっき飲んだお茶が急に……」

「挑戦者達の緊張も解れたみたいですので、良いんじゃないでしょうか? ねぇ? 解説のヨシダテルカズ先生」

「えぇ。剣聖がトイレに行った時に皆の顔が少し緩みましたので、気を遣ったんではないでしょうか?」

 ん? 解説もいるのか? 俺が在学中は実況だけだったけどな。ってかヨシダ先生が解説かよ。あの人は有能だし、見てるところはちゃんと見てるしな。

「ないない。本気で漏れそうだったんだわ。ここで漏らしたら、お漏らし剣聖として国に怒られる。さて、いつでも何人でも良いぜ?」

 ど阿呆は指をクイクイとして、勝ち残った生徒を挑発するが、なんか近寄り難い空気を纏っている。

 多分無意識に殺気でも出しているんだろう。なんか圧みたいなのを感じるし、古代竜と戦っている時にも出してたから、奴なりの戦う時の礼儀みたいな物だろう。

「どうした? ビビって近づけないってか? もし戦場で強い奴と出会っても、相手は――」

 俺は足下にあった小石を掴み、ど阿呆に投げつけたが途中で。自動で迎撃って感じか。背中は俺が守ってたから、こんなの知らなかったわ。

「おい。相手は学生だ。手加減しろ馬鹿が」

「冗談だよ冗談。ちょーっと殺気と魔力を混ぜた奴を当てただけだって」

 ど阿呆は笑いながら顔の前で手を振り、本当に冗談だったって事はわかる。けど学生は動けずに、変な汗が出ているのが見える。

「萎縮してんだろうが。やる前からやる気削いでどうすんだ」

「戦わないで勝つって、すばらしい」

「言ってることは正しいけど、勝ったご褒美で剣聖との手合わせだって言われてんだろ? 少しくらい学生にサービスしろよ」

「んー。なぜか暇潰しで、この学校に何回も通ってるルーク君と言い争ってますね。知り合いなんでしょうか?」

 ここで解説のヨシダ先生の声が入った。何回も通ってるとか、ばらさなくて良いから……。

「えーっと。学園長の情報ですと、古代竜退治の時に一緒にパーティーを組んでいたと……。えぇ、はい。はい。面倒だから倒した後にそのまま逃げたみたいです。どうしようもないエルフが当学園にいたもんだ! もうお前が戦っちゃえよ!」

 おっと? 実況が余計な事言い出したぞ? マジで勘弁だ。ってか学園長隣にいるの?

「俺、中距離から遠距離。あいつ、近距離特化。装備も祭り中だからナイフしかねぇよ?」

 そう言って俺は、カランビットナイフを取り出し、指にはめてクルクルと回す。

「じゃ、私がやりまーす」

 そう言ってプルメリアが歩き始め、剣聖を通り越して生徒四人側に立った。

「おっと。あの美少女は誰でしょうか?」

「ルーク君の婚約者のプルメリアさんです。エルフと一緒で長寿種ですね。聞いた話では、学校に通いたいって事でで来たみたいですが、あの子は強いですよ」

 なんとなくを強調してるなぁ。この学園は、何となくじゃ入れないくらいレベルは高いんだけどねぇ。

「みんなぁー! あの美少女は強いらしいぞ! 強すぎて実戦系の部活は全て断られたみたいだぁー!」

 プルメリアは両手で手を振りながら、その場で周りながらアピールをしている。こっちもノリノリだ。

「「「うおおおぉぉぉ!」」」

「盛り上がってんなー」

 俺はこめかみ辺りを押さえ、渋い顔をしてプルメリアの方を見るが、この間のならず者と戦闘する時みたいに、つま先をトントンとやって靴の調整をしていた。癖なんだろうか?

「よし! お願いします! あ、先輩方、先に行きます?」

 プルメリアは礼をし、振り返って四人の方を見るが、全員首を振って拒否している。もう心が完璧に折れて戦闘の意志はないらしい。

 ってか、あの四人ならプルメリアの事は知ってそうだから、文句を言わずに譲った可能性があるな。

「うっし。来ないならこっちから行きますよー?」

 プルメリアは指を組み、手首や首も回して軽く準備をしているようだ。

「おう、どんとこい! とりあえず胸は貸してやる」

「あざっす!」

 そう言った瞬間に全力かどうかわからないが、もの凄い速さで距離を詰めで蹴りかかり、あっさりとど阿呆に足首を掴まれてて止められていた。

 それからプルメリアの目つきが変わり、掴まれた足首をそのままにして空中で回転する様に顔の側面を狙って蹴りを放つが、それも避けられた。

 そして二人とも一息で距離を少し離し、軽く膝を曲げて重心を低くし、両手を顔の前に持ってきてファイティングポーズを取った。

「は、速い! これは部活から断られるのも納得だ! ソレを止める剣聖も剣聖だ! 剣がなくても十分に強いぞ!」

 あれが本気じゃなくても、学生の身からしたら十分にヤバイ部類に入るわな。あんなの映画でしか見た事ないわ。

 ってか、プルメリアが構えてるの初めて見るな。今まで手加減と言うか、舐めて戦ってたな? 相手を見て何となくで戦ってる俺も、人の事言えないけどさ。

 そのまま俺は二人を眺めていたが、二人ともジリジリと近寄って一定の距離で止まった。多分お互い間合いギリギリなんだろう。実況も余計な事は言わずに、黙っているし、観戦者も静まりかえっている。

 そしてど阿呆が、右手でクイクイと挑発する様な仕草をするが、プルメリアは乗ろうとしない。多分あんな事をやっているのに、隙がないんだろう。

「おいおい、胸を貸してやるって言ったんだから、ちょっとはかかってくる気になったらどうだ?」

「重心が動いてないんで、もう少し浮かせるか崩してもらえば行きますよ」

 んー。どうも二人とも決め手に欠けているみたいだ。さっさと終わらせて、見回りしながらホットドック作りに戻らないと、俺がクラスの連中に怒られる。

「二人とも、怒らないでくれよ?」

 俺は胸ポケットから屑魔石を取り出し、魔力を過剰に込めて二人の中央辺りに投げる。

 そして二人ともお互いに視界から消えるくらいの炎が上がった瞬間に、プルメリアが炎の中から現れて攻撃を繰り出した。

「大振りの攻撃がなくなってるなー」

 パンチやキックがいつもより小さいというか、掴まれるのを警戒している様な、素早く腕や足を戻している。

 それを全て受けているど阿呆も凄いけど、体感で十数秒くらい続くプルメリアの連撃ラッシュも凄い。

「ははは、凄いなプルメリアちゃん。軽そうに見えて、全部クソ重くて手足がしびれてき――」

 ど阿呆が一人で喋り始めたが、プルメリアの腰辺りを狙った中段蹴りが重力に思い切り引っ張られる様に下がり、ふくらはぎに良い感じに当たって膝を付かせた。

 それでもプルメリアの攻撃は止まず、どんどん追い打ちをかけていくが、さっきより速度が上がっている。

「ははははは! わざと遅い攻撃ブベ。目を慣らさせてオゴォ。いきなり速い攻撃ウボァ。とか。魔物よりやべ――」

 ど阿呆はプルメリアの攻撃を半分ほど食らいながら喋り、止めに振り下ろし気味の重そうな右を顎に受けて、そのまま地面に倒れた。親指を立てながら……。

「やっぱりあいつはど阿呆だわ」

「「「うおおおぉぉぉ!」」」

 そして静かすぎた観客席から歓声が上がり、それに答える様にプルメリアが両手を上げた。

「手加減されてたけど勝ったー!」

 なんとも締まらない終わらせ方だ。プルメリアらしいけど。

 これでプルメリアは、学園で有名人になっちゃった訳だ。

「おーっと! 手加減されてたとはいえ、剣聖に勝ってしまったー! やべぇ! プルメリアちゃんヤベェ! しかも可愛いぃ!」

 実況はそんな事を言いながら、なんか興奮している。語彙力が下がってるぞ?

「お兄ちゃん。折角だからちょっと付き合ってよ。場が盛り上がってるしさ?」

「お前は何を言っているんだ?」

 プルメリアは何かスイッチが入っちゃったのか、ど阿呆と戦っている時のような目つきになり、構えて腰を少し落としている。

 その後は少しだけ無言でプルメリアを見ていたが、構えたままの姿勢から、あり得ないスピードで突っ込んできた。

 俺はそのまま自然体の姿勢で息を吐きながら、力を入れない様にプルメリアのパンチを受け、体を少し反らして衝撃を逃がし、ユリウスに言われたとおりなんかウネウネした感じで二撃目も受け流し、時間的にあまり魔力を込められないので、現在の筋力の一割くらいしか筋力強化魔法が使えなかったが、右手で二の腕の袖辺りを掴んで肘を捻りながら後ろに回った。

 そしてプルメリアを引きながら右足で膝の裏を蹴って無理矢理膝を付かせ、そのままふくらはぎを踏み続け、左膝に体重をかけながら背中を押してうつ伏せで地面に倒し、カランビットナイフを抜いて首に軽く当てた。

「いきなり襲いかかってくるとか馬鹿じゃねぇの!?」

「ん゛ーなんか殴った時の感覚が変な感じしたー。あと冗談なのにー」

 俺はカランビットナイフを戻し、ふくらはぎから足をどけて立ち上がった。まぁ、本気だったら、服を破りながらでも掴みを外してくるだろうし、確かに冗談なんだろう。けど洒落になってないのは確かだ。

 踏んでたふくらはぎに全体重をかけても、プルメリアなら筋とかを痛める様な事はないだろうけど、一応女の子だしね? そもそもここまでやるなって話だけどさ。襲ってきたなら仕方ないよな?

「おーっと。近接系が得意ではなさそうなエルフなのに、剣聖に勝ったプルメリアちゃんを一瞬で押さえ込んでしまった! いったいお前は何なんだー!」

「暇つぶしを探すのが大好きなエルフですね。ルーク君の元同僚の当学園の先生から聞きました。生徒やってるのも五回目くらいとかなんとか」

「学園に何回も通うとか暇すぎだろ! ってか暇つぶしでここまでやるエルフが怖い! 何年くらい鍛えてんだー? ってな訳でお前が一位だ!」

 なんか会場が更に盛り上がっているけど、視線だけ動かして、なんか面倒になりそうだから無言で逃げ出す事にする。

「あ! 逃げ出しました! 何を考えているんでしょうか?」

「面倒になりそうだから、逃げ出したってかんじですねぇ。古代竜討伐の時も面倒そうだから逃げたみたいですし。まぁ、こんだけ観客のいる闘技場でやっちゃえば、今日から噂が広がるでしょう。いやー、うっかり学園一位になっちゃったルーク君は、明日からどう過ごすのか楽しみです」

 出入り口辺りで、背中から拡声器越しにそんな話し声が聞こえた。本当プルメリアのせいで余計なことになった。マジで明日からどうすかな……。


 そして教室に帰るとクラスメイトから遅いと愚痴を言われ、ホットドックを焼いていたら学園長が校内放送で俺の事を名指しで、しかものに逃げ回ってんな、闘技場の表彰台に来い! 的な事を言われた。

「お前、見回りついでになに優勝してんだよ」

「ちょっとルーク君、なに遊んでたのよ! こっちは大変だったのよ?」

「いや。見回り中に剣聖に会ってな? 知り合いだったから闘技場まで案内したんだよ。そしたらプルメリアが剣聖に勝っちゃって、そのまま襲われたから勝ったら、お前が一位だぞって事になって……」

「遊んでんじゃん! 百歩譲って案内まではいいけど、なんで非公式試合にまで出てんだよ! さっさと帰ってきて、ホットドック焼けよ!」

「だからぁー、最初っから飲食店は面倒くさいって言っただろうが!」


 その後、武道大会実行委員が、生徒会と衛兵を連れてやってきて、忙しい事を理由に闘技場に行くのを拒否し続けてホットドックを焼いていたら、無理矢理連行された。抵抗しなかったのに縄で縛られて。

 で、連れられて闘技場に入ったら入ったで、ど阿呆が上位四人としっかり戦っており、時間稼ぎをしてくれていた。

 プルメリアも五位以下の希望者とも戦っていた。

 なんか盛り上がってたけど、俺が来たので渋々切り上げた感じがするが、なんか笑顔が怖い学園長に襟を掴まれ、表彰状と優勝商品を無理矢理服の中にねじ込まれた。

「絶対受け取らないでしょうから、無理矢理渡しました」

 そう言って表彰式が終わり、ど阿呆が笑顔で肩を小突いて来たので俺も小突き返し、笑顔で拳を付き合わせて無言でわかれた。

 多分だけど、学園長室にでも呼ばれているんだろう。だって学園長が隣に立ってたし。

「私もああいうのに憧れるなー」

「そのために学園に来たんだろ? 親しそうな友達もできてるし、それくらいできる様に親睦を深めればいい」

「あー……うん。女の子はああいう事しないし」

「……そうだったな。女の子はあまりしないな」

 ってか長いエルフ生で見たことがない。前世でも。

 基本何かが違うんだよなぁ。男勝りな女性冒険者なら、男性としてるのを見た事があるが、同性同士では見ないな。

「もしわかれる事があったらしてやるよ」

「多分ないね。お兄ちゃんと結婚するだろうし、もし嫌いになってわかれる様な事があったら、そんな事しないだろうし」

「そうか……」

 そんな事を言いながら闘技場から出てクラスに向かうが、戻ったら戻ったで、闘技場に行く条件として、代わりにホットドックを焼いておけと言っておいた生徒会の奴に滅茶苦茶睨まれた。

 未だに列ができてて客足が減らないし、凄く忙しかっただろう。

「お、戻ってきた。こいつ手際悪くてさ、やっぱりルークじゃねぇとダメだわ」

「代わりだから仕方ない。身代わりにして悪かったな。どれ、変わろう」

「当たり前だ。なんで僕がソーセージを焼かなきゃいけないんだ!」

「俺の代わりだからだろ? 野菜刻めないって言うし、良いところのお坊ちゃんでも、料理くらいできないと卒業後に何もできねぇぞ? いいからエプロンと頭のタオル返せ」

 身代わり君は、投げてエプロンとタオルを返してきたが、ちゃっかり自分用に焼いておいたホットドックを鉄板の隅の余熱のあるところから持って行き、食べながら教室を出ていった。

「あーい。プレーン三つねぇー」

 そして教室に入る時に、廊下に並んでる列を思い出し、盛大にため息を吐いた。



○月××日

 学園祭当日だ。気が重かった。ホットドックは売り出す前から学園内で大人気。廊下にお客様がクソ並んでいた。見回りも頼まれていた。クソが!

 とりあえず古代竜退治の時に出会ったど阿呆が、武道大会上位とお試しで戦えるって事で見回り中に会った。相変わらず二桁の計算が怪しいらしい。

 その後なんやかんやあってプルメリアとやり合ったが、どっちも最初は手加減してて、最後まで本気ではなかったがプルメリアが勝った。その後に無理矢理戦いに持ち込まれどうにか組み伏して勝ったが、多分初見だったからだろう。次は絶対に対策されてる。

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