【十七】大失態
「ツバサ、あそこの木の陰に隠れていろ。あそこなら安全だ」
翼は背後の木を見遣り、頷きすぐに隠れた。
「来るぞ、団子猫」
「おお」
唸り声をあげ、牙を見せつける狼たちが団子猫のほうへと向かっていく。
団子猫のほうが弱いと判断したのだろう。
団子猫は思っていたよりも動きが素早く狼の攻撃をひらりと
一匹が狼の鼻先を引っ掻き三本の赤い筋を作り、一匹が前足に噛みつき、もう一匹が腹を蹴り飛ばず。
なんという連係攻撃だろう。凄い。
「なめるなよ、狼ども」
団子猫のそんな様子にナゴは口角を上げてニヤリとすると、団子猫とハイタッチをした。次の瞬間ナゴは狼たちに向けて走り出し、次々と蹴散らしていく。
「おまえたちなど敵ではない。おいらたちの力を
狼たちはどこか悔しそうな顔をして退散していった。思ったよりもあっけなかった。狼は実は弱いのだろうか。翼はホッと胸を撫で下ろしたところでハッとした。
「ふん、馬鹿な猫だ。まんまと我らの計略にはまりおって。な、そう思うだろう人の子よ。おまえは我らの主の
翼は熊のような図体の狼に一撃を喰らい意識が遠のいていった。遠くで自分の名前を呼ぶナゴの叫び声が聞こえてきたような気がしたが返事をすることは叶わなかった。
ヒカリに会えると思ったのに。なんで、どうして。
***
「なんて不始末を」
「面目ない」
コセンとムジンが大きな溜め息を漏らして頭を抱えている。
完全に狼どもにしてやられた。翼を
くそっ。あいつ。
攫っていったのは狼のボスのウオルだ。
悪知恵の働く奴だ。ウオルの姿が見えないことに警戒すべきだった。今更言ったところで遅い。
翼を早いところ天魔から取り戻さなくてはいけない。
殺すことはないだろうが、このままだと翼が洗脳される恐れがある。そうなったら、ヒカリの敵となってしまう。心優しきヒカリはきっと天魔の言う通り王座を渡してしまうだろう。すでにもうヒカリは約束してしまっているかもしれない。
おそらく天魔のもとにヒカリもいるのだろう。
んっ、待てよ。ヒカリが天魔のもとにいたとしたら翼を攫う必要があるのか。ヒカリを洗脳してしまえば済む話だ。それともヒカリは殺されてしまっているとか。
そんなこと絶対にあってはならない。お仕舞いだ。
古の神々と仏の戦が
どうしたらいい。
ナゴは頭を抱えて丸くなる。
ヒカリは、ヒカリはいったいどこにいる。本当に攫われたのだろうか。
もしもヒカリが天魔の手に落ちていないとしたら。そうであってほしい。
ナゴはヒカリが消えた日のことを必死に思い出そうとした。
そうだ、誰だかわからない気が残っていた。その者がヒカリを救って
ミサクチ様かアラハバキ様が何か知っているかもしれない。
いやダメか。居場所がわからない。
ここのところ姿を現してくれない。アラハバキ様に会うことは無理だとしてもミサクチ様はもしかしたらあの巨石に現れてくれる可能性はある。確率は低くても行ってみる価値はある。
希望の火はまだ消えてはいない。そのはずだ。
「ナゴ、起きてしまったことはしかたがない。そう悩むな。十二神獣たちにも伝えてどうにか打開策を考えるしかない。狗奴国との戦は避けたいところだが……」
コセンは唸り、また頭を抱えた。
ムジンがコセンの肩に手を置き頷いている。
「俺様が十二神獣に伝えてこよう」
コセンは顔を上げて頷き返し「頼んだぞ」と口にしていた。
「おいらは、おいらは」
ナゴはガシガシ身体を掻きまくりながら
「ナゴ、
確かに何も変わらない。コセンの言う通りだ。わかっている。悔いているわけじゃない。興奮したら身体が
「コセン。会えるかわからないけど、おいらミサクチ様のいた巨石のところに行ってくる」
ナゴはクルッと回転して地面を掴むようにして駆け出した。
背後からコセンの「おーい」との声が届いてきたが振り返らなかった。
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