第28話 将来
「ねえ、お嬢様」
駅からの道すがら、タカナシさんが尋ねた。
「ご自分のお名前は好きですか?」
「『氷川』が好きか、ってこと?」
「あ、いえ、苗字ではなくて、下の名前です」
「『美冬』?」
「ええ」
「えっと、ごめんなさい。考えたこともなかったから、よくわからない」
「まあ、そうですよね」
タカナシさんは微笑む。
「それならば、将来、お嬢様がご自身の名前を好きになって、そして、お嬢様の名前を好きになってくれる人が現れたらきっと、……」
「きっと?」
「とっても、良いですね」
「何が!?」
私は散々尋ねても、タカナシさんは何が良いのか教えてくれなかった。
その代わりにこう言った。
「大丈夫、その将来は必ず来ますから」
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