第19話 段ボール箱

 屋敷の敷地から出る道はたった一つしかない。

 正門から市街地へと続く坂道だけだ。

 そして、正門と坂道はいつも使用人の誰かによって見張られている。


 私は正門に近づくだけ使用人が飛んできて連れ戻されてしまう。

 タカナシさんも『仕事』の関係で勝手に外に出ることは許されていないという。


「そこで、これを使います」

 タカナシさんは本の森の奥から大きな段ボール箱と台車を引っ張り出してきた。


「本を入荷するときに使う台車と段ボール箱です。お嬢様はこの箱の中に入ってください。」


 私は戸惑った。

 いきなり、箱に入れと言われても。

「大丈夫ですよ、上手くいきます。タカナシと一緒に花火を見にいきましょう」


 タカナシさんの言葉で私は決心した。

 タカナシさんが大丈夫というのだから、きっと大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。


 私は箱の中に入る。

 私の頭上で蓋が閉められると、私の視界は真っ暗になった。

 なるほど、この状態なら私の姿を正門の監視から隠すことができる。


 しかし、タカナシさんはどうするのだろう?


 暗闇の中でタカナシさんの声が聞こえた。


「いいですか、お嬢様。タカナシがいいというまで、決して出てきてはいけませんよ。また、絶対に声も出さないでください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る