第8話 お化け

 目が覚めた時、私は葉っぱで縁取られた不思議な形をした空を見上げていて、私の体はゆっくり左右に揺れていた。


 だんだんと意識がはっきりしてくると、後頭部がひんやりとしているのに気がついた。

 寝返りを打つ。

 私の頭が氷枕の上にあることがわかった。


 起き上がり、あたりを見渡す。

 そして、自分の体が揺れている理由を理解した。

 私は森の中にしつらえられたハンモックの上に横になっていたのだ。


 えっと、私は確か木に登って……。


 状況を必死に理解しようとしていると、


「あ、お目覚めですか、お嬢様」

 背後から声をかけられて振り返る。


 若くて綺麗な女の人が立っていた。

 男の人みたいに短い黒髪で、白い襟付きのシャツにデニムのズボンを履いている。

 切り株に腰掛けて、手には本を持っていた。


「びっくりしましたよ。森の中を歩いていたら木の下で可愛い女の子が伸びているんですから」


 女の人は楽しそうに言った。

 私はまだ状況をよく飲み込めず、恐る恐る尋ねる。


「あの、ここはどこですか?」

「あ、そっかわからないか」


 女の人は木々の向こうを左手で指差した。

 そこには見慣れた三角屋根。東の塔だ。

 と、言うことは……、


「ここはお屋敷の敷地なの?」

 女の人はにこりを笑った。

「そうゆうことです」


 だとしたら、おかしい。

 だって、私は目の前の女の人の顔を知らないのだから。

 当然のことながら、氷川家の敷地に部外者は入れない。必然、敷地内で会うのは見知った家族や使用人だけになる。


「あなたは誰?」

「あ、私は……」


 ほんの一瞬だけ女の人は悲しそうな顔をした。

 そして、彼女は少し考え込んでこう言った。


「タカナシ。……タカナシです。どうぞよろしくお願いします、お嬢様」


 そう名乗った女の人に私は聞きたいことが沢山あった。

 私が口を開こうとすると、


 ピピピピッ、ピピピピッ。


 どこからか電子音が鳴り響いた。

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