全文解説「穴」

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  匿名コンには共通テーマの他に一種のチャレンジミッションとして、追加課題が設けられています。

  あくまで追加の課題、サブクエストなので、こちらは必ずしも挑戦する必要はありません。

  挑戦した所で得票数に加点はありませんし、ミッション達成により読者評価が上がる傾向もありません。

  場合によっては必須要素(※ホラー要素、内輪ネタなど)を入れることで一部読者が敬遠し、総合評価が下がる可能性すらありますが、基本的には大きな影響はない物とされています。

  その上で、基本的に縛りプレイや追加ミッションというのは挑戦する側にとって「楽しい」ものですから、実質プラス、丸儲けと言えますね。


  チャレンジミッションの例としては、

  ・タイトル『穴』でホラー要素を含む

  ・タイトルまたは本文に「オレオ」を含む

  ・登場人物にアイドル要素を含む

  ・本文中で板野かも氏(https://kakuyomu.jp/users/itano_or_banno)をいじる

  ・冒頭3行を夢見里 龍氏(https://kakuyomu.jp/users/yumeariki)の文体に偽装する

  などがありますが、本作は上述の「タイトル『穴』でホラー要素を含む」を採択したものです。


  以下、2ヶ月以上前に書いた全文を読み返しつつ、うろ覚えで解説します。

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 シェルター内の電灯が切れた翌日、懐中電灯フラッシュライト代わりのスマホも充電が切れた。

 鼻梁に乗せた眼鏡も見えない、密閉された暗い穴倉。

 食料と水も多少は残っていたが、今外に出るべきか。

 手探りで壁の梯子タラップを登り、天井の把手ハンドルを捻って昇降口ハッチを開ける。

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  タイトルの『穴』はこの地下シェルターを指します。

  元は『核の春』という仮題で書き始めたものを、地下シェルターなら「穴」ではあるし、折角なのでタイトルを『穴』にしよう……と、穴要素を強調するために挿入されました。

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 真昼にしては薄暗い日差し。

 七色の雲から薄っすら透けた曇天の陽光。

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  現実的な範囲での核戦争で日光が長期間完全に遮断されるほどの塵は舞わないと言われますが、本作中ではアホみたいにミサイルが落ちているため、逆に薄暗い曇天程度で済むかも疑問です。

  なお、雲(放射性物質を含む)がカラフルなのは黒澤明『夢』のオマージュだろうと思うのですが、随分昔に見たのでタンポポがでかかったこと以外は覚えていません。

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 熱波は過ぎ、氷河期の寒さもない。

 生物など死に絶えたと思っていたが、遠くから鳥の声も聞こえる。


 地上部は消滅したのか、意外に軽い瓦礫を脇によけて這い上がれば、生暖かい風が頬を撫でた。

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  マンションの地下にあるシェルターなんか、瓦礫に埋もれて外に出られないのでは?

  ということで、地上部には消滅してもらいました。

  そんな状況で生きている鳥くん。大自然の生命力に驚嘆せざるを得ませんね(?)。

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 昇降口からの光を助けに食料を鞄に集める。

 この穴倉ともお別れだ。

 持ち込んでいた楽器を回収しながら、私は半年前の日を思い返していた。

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  「シェルター=穴」と伝わらなかったらアレなので、わざわざ「穴倉」と明記しています。

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  センテンス記号としてのハザードシンボルです。

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「速報です。

 先程、株式会社ディフェンスディストラクションの代表取締役社長、内升 角雄うちます かくお氏が同社保有の核ミサイル3発を発射しました。

 また、落下予想地周辺の複数の団体がそれに対応し、それぞれ保有する核ミサイルを発射。

 連鎖的に世界中の核保有企業、核保有国がミサイルを一斉放出した模様です。

 地球は順次滅亡する予定となります」

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  本作のハイライトです。ちょうど140字くらいですし、ここだけでTwitter小説にした方が良かったのでは?

  D&D社の社名は2秒で考えましたが、内升角雄撃ちます核を氏の名前は実在する苗字を検索するなどし、延べ3分半くらいは考えました。

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 投げやりにニュースを読み上げるキャスターを見、私もテレビを消して体を伸ばす。

 遅かれ早かれ、こうなると判っていた。今更慌てるまでもない。

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  初期版ではもう少しぐだぐだしていたのですが、文字数の都合であっさりした反応になりました。

  最初期版ではぐだぐだしすぎて避難が間に合いそうになかったので、神様的な存在に時間を止めてもらうまでしていました。

  ぐだぐだするためだけに超常現象を起こすな。

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 小・中・高の防災週間で何度も、核ミサイルによる世界滅亡シナリオは訓練済み。

 暴力や盗み等の罪をさず、安易な終末論にらず、自暴自棄になってんだりしない。

 合言葉はだ。

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  避難訓練時の「さない・らない・らない」のパロディですが、これ世代によって違うんですよね。

  「さない・けない・らない」で「おかし」と習った世代もいますし、「さない・らない・らない・らない」で「おはしも」なんて語呂合わせでも何でもない標語になった世代もいます。

  地域によっては「おはしも」どころか「学年優先」を加えた「おはしもて」、「寄らない」を加えた「おはしもち」を始め、中には10文字前後に渡る(語呂合わせとしては全く実用性のない)標語も存在するようです。

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 実家は遠く、電話回線もパンクしていたので、とりあえずツイッターに「世界滅亡なう」と呟く。

 直後試しに「"世界滅亡なう"」で検索すると同内容のツイートが無限に並び、恥ずかしくなってツイ消しした。

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  本作の時代背景としては、2000年過ぎに分岐があっての2020年頃を想定しています。

  Twitterでも「なう」が死語とされて久しい時代ですが、何だかんだ「なう」を使いたくなる時はあるものです。

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 父母が子供の頃、核保有国はたった8国だったらしい。

 それがある時期から、我も我もと各国が核兵器を持ちたがり、国連加盟国の3割が核兵器を持った頃には、民間企業も核保有権を主張した。

 友達やライバル、仮想敵、憧れの人。他の誰かが核兵器を持てば、自分だって欲しくなる。

 今では服飾ファッション通販会社の社長からパンクバンドのドラマーまで、ちょっとした資産家なら誰でも核を持っていた。

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  2022年現在、一般に認知されている核兵器保有国は9国とされています。

  10国目が出たら11国目、12国目も出るかなとは思うのですが、流石に民間企業が持ってもそんなに使い道はないのでは。

  セレブの嗜みみたいな奴ですかね。セレブってそういうとこありますよね。(偏見)


  なお、読者の皆さんの中には「服飾通販会社の社長とパンクバンドのドラマーは同一人物ではないか」と疑問を持つ方もいるかもしれませんが、かつて私は前園真聖ゾノ氏を服飾通販会社の社長だと思っていた時期があるので、その辺りの詳細な識別については専門家にお任せします。

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 多くの核ミサイルがあれば、多くの発射ボタンも存在する。

 ボタンを持つ誰かが、1人でも自制心を失うか、精神を患えば、簡単に世界が滅ぶ。

 ボタンが増えるほど危険うっかりも増える。

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  相互確証破壊の面白い(面白くない)所は、睨み合いが崩れて誰か1人でも核ミサイルを撃ってしまうと、他の人も連鎖的に撃ってしまう点ではありますね。

  運ゲーの事故死率を上げないためには、核保有国は増えない方が良いのでしょう。

  とはいえ、一方的に撃とうと思えば幾らでもやりようはありますし、現状でも特に信用できるシステムではないんでしょうけど。

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 今日はたまたまゼミも講義も休講で、自宅にいたのは幸運だった。

 このマンションは地下に、各戸ごとの家庭用核シェルターが用意されている。

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  本文中での解説はありませんが、核兵器が身近な世界観なので、現実の家庭用核シェルターより性能は高めになっています。

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 非常食と水は管理会社が用意しているが、量は最低限。持ち込むのはスマホと充電器、現金、手近な食料。

 少し悩んで、ウクレレとタンバリン、縦笛も引っ掴む。音楽は暇潰しになるだろう。

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  独り暮らしの自宅に楽器が多い気もしますが、確か、ウクレレは大学の先輩からの貰い物、タンバリンは忘年会のために買った安物、縦笛は中学校で使っていたアルトリコーダーを想定していたと思います。

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 私はミサイルが落ちる前にと急いで地下に向かった。

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  斜向かいの国から発射されたミサイルが国内に落ちるまでに、大体10分そこそこかかります。

  今回は日本国内から発射→他国から返礼品、という流れなので、ニュース速報後からも着弾までは案外時間があります。

  貴重品と楽器を持ち出すくらいの余裕はあるようです。

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 3~4人世帯向けのシェルターは1人で入るにはやや広い。

 食料や飲料水は3人で2ヶ月分、4人で1ヶ月半。

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  3人で2ヶ月分の食料なので、1人だと6ヶ月分。

  保存食の補充交換は恐らく年に1度程度なので、空室の分も備蓄食料は置いてあります。

  主人公の部屋は単身用の1Kですが、家族向けの広い部屋であろうとも、シェルターは各戸で同じ仕様です。

  家族世帯から管理組合の会合で文句が出る気もしますが、恐らくシェルター関連の管理業務は専門の企業にお任せで、家賃に同額ずつ管理費として加算されている(空室分の費用はマンション管理会社の持ち出し)ので、そうなると住民が文句を付けるのはお門違いな気もします。

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 平日の昼間だから、住人の姿は少ない。

 互いに名前も知らない入居者同士、軽く会釈をしてそれぞれの縦穴ハッチに消えていく。

 私も自分のシェルターに入ると、出入口を閉じて、この新たな住居たる穴倉を密閉した。

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  定期的な「穴」アピールです。


  なお、平日の昼間なので、マンション内には在宅勤務の人、家事労働者の人、無職の人、平日休みの人、病欠やサボりの人などがいる程度です。

  テレビやSNSで速報を見なかった人もJアラート的な物が届いているので、在宅中なら概ねこちらに避難してきています。

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  前述。

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 シェルター内はそれなりに快適だった。寝起きするだけの場所としては。

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  1人暮らしなら広さに余裕はありますが、4人世帯がフルで入ると共有スペースが狭く感じる程度の広さです。

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 マンション地下に非常電源用の核融合炉があり、明かりや冷暖房には困らない。

 通気孔から若干変な臭いがするものの、1週間もすれば慣れてしまった。

 風呂は無理でも、お絞り温め機タオルウォーマーと節水洗濯機もあり、体を拭うくらいはできる。

 一応ネット回線もあり、ラジオに、小さなテレビ端末もある。ネット回線は数分で断絶し、ラジオもテレビも微かな雑音を流すだけなので、初日以降はつけていないが。

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  2020年頃に民生用の核融合炉というのは無理がある気もしますが、核エネルギーが身近な世界なのでしょう。

  また、通気孔からの変な臭いというのは放射性物質を含む有毒ガスだったと思いますが、1週間で肉体に変化があって適応したようなので問題なさそうですね。

  なお、テレビ局やラジオ局などは、国内外問わず大体ミサイルで吹き飛びました。

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 唯一、外部からの情報を得られる機器は、梯子タラップの隣の壁に埋め込まれた放射線測定器ガイガーカウンターだ。シェルター内に居ながらにして、外の放射線量を教えてくれる優れ物。

 これを眺めるのが私の日課だが、ほとんどの日は針が振りきれており、あまり変化はない。

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  埋め込まれているのは表示機構のみですが、測定機構は何処にあるのかというと、換気口についています。地上にあっても吹き飛ばされるので。

  これが反応していてもシェルター外に逃げ場はないので、本当に見て楽しむ役にしか立たないインテリアです。

  仕様書を受けて実際に設計した下請け会社は、糞仕様を右から左に流した元請けの担当者を裏で散々に馬鹿にしていましたが、実際に使う状況になると本作の主人公同様、「こんなゴミでも無いよりはマシだったな」と感心することになりました。

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 私はひたすら楽器の練習を続けた。

 弦楽器は中古屋リサイクルショップで衝動買いしたきりで、どの弦をどのように抑えればドの音が出るかも判らない。

 譜面もなく、記憶を辿って手探りで音を確かめていく。

 それでも楽器を持ち込んだ私自身の英断を、私は称えたい。

 音楽がなければ退屈で気が狂っていたと思う。

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  ご賢察の通り既に気が狂ってはいますが、退屈ではなく閉所生活による発狂なので、本文内容に誤りはありません。

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 縦笛の音を基準チューナーにウクレレの雰囲気を掴み、1ヶ月でまずは童謡。

 それからもう1ヶ月でゲーム音楽、流行曲も弾けるようになった。

 更に1ヶ月、調子に乗ってタンバリンでリズムを加えていく。やはり打楽器パーカッションが入ると引き締まる。

 もう2ヶ月もすると、笛と弦のハーモニーでそれなりに格好が付くようになった。

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  ラストシーンで急に腕が増えててもあれなので、この時点で既に(段階的に)腕が増えています。

  放射性廃棄物を浴びた恐竜が、熱線を噴く怪獣になったりもするらしいので、場合によっては人間も腕くらい増えるんじゃないでしょうか。

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         ☢

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  前述。

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 そして現在。

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  ここで言う「現在」は冒頭シーンの時間軸です。

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 気付けばシェルター生活も半年。

 2~3ヶ月程度の滞在を想定されたシェルターで、半年も電力が保ったことにむしろ驚く。

 利用者数が想定より少なかった故か。

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  前述の通り平日の昼間だったこともあり、居住者数>利用者となっています。

  民生用の核シェルターは文明崩壊レベルの核戦争は想定していないので、それほど長期間籠るようには作られていません。

  電力については、非常用発電機が使用量に合わせて何かいい感じに発電量を調整する仕様だったんじゃないでしょうか。

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 最後に調べた時も、放射線量は基準値を遥かに上回っていた。閉じ籠っても未来はない、と外に出てみたが、案外平気なものだった。

 気温は多少生ぬるいが適温。

 周囲のシェルターにも、いくつか昇降口の扉が開いた物がある。覗き込めば小さな獣の一家と目が合った。ここの住人は随分前に外に出たのだろう。

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  上述の獣は、タヌキか何かを想定していたと思います。

  本文中では「獣の一家」とありますが、暗闇で光る目が6つくらいあるだけで、実際には1匹だけしかいなかったかもしれません。


  本文の記述からすると、ミサイル落下時はシェルター外におり、後から食料か巣穴を求めて人里(跡地)に降りて来たようですが、よく生きてましたね。

  生命の神秘ですね。

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 シェルターの中、私は“核の冬”なる物を想像していた。


 大気を覆う死の灰が太陽光を遮断し、気温が低下。

 地上や海中の植物が死滅し、それを餌とする動物も滅び、地表は雪と氷に閉ざされる。


 過去には非現実的な空想シミュレーションと指摘されたそうだが、今は核兵器の威力も上がり、何より弾数も多い。粉塵が地球全土を覆うくらい雑作もない。

 事実、空を覆う妙な色の雲はその残滓だろう。

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  そういえば例のタンポポがでかい映画では、放射能には人工的に色を付けていた(都市ガスに臭いを付けるみたいな?)はずですが、ミサイルに色を付けてどうするんですかね。

  風で自国に流れて来た時に警戒しやすくするため、とかでしょうか。知りませんが。

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 20XX年、世界は核の炎に包まれた。

 大気を覆う死の灰は放射線を撒き散らし、あらゆる動植物の遺伝子を変異させる。

 鳥獣は浮かれて歌い踊り、花実をつける草木は年中を通して咲き乱れるようになった。

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  今更ですが、「春夏秋冬に関わる語句、定型句」を考えていた際、「冬」から連想した「核の冬」を元に「核の春」「核の夏」「核の秋」をそれぞれ考え、比較的人類が死滅しなさそうな「核の春」をベースに書かれたのが本作です。

  「核の夏」は何となく想像できる通りの焦熱地獄ですが、「核の秋」は「スポーツの秋」と同列に語られていたような気がします。

  人類は愚かですね。

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 かくして――世界には“核の春”が訪れた。

 鳥や獣は不気味な声を上げながら、複雑な関節をくねらせて踊り狂う。

 草木はそんな鳥獣を鋭い牙でむさぼり食らう。

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  恐らくこれを書いた時点では『FINAL FANTASY S』の37億次元編と『おぼっちゃまくん』の「へけけな宇宙でヘポ~ン」辺りが影響したのだと思われますが、先ほど原典(たぶん)を確認してみたところ、特にこのような描写はありませんでした。

  とはいえ、よくあると言えばよくあるポストアポカリプス描写なので、過去に見た様々な創作物が融合した結果なのでしょう。

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 空は七色の死の灰に覆われ、どこまでも鮮やか。

 私は瓦礫の山に腰掛け、5本に増えた腕で、陽気にウクレレとタンバリンと縦笛を奏でた。

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  主人公の腕が増えたのは雑にホラー要素を追加するためでしたが、最終的に本人が楽しそうなので良かったのではないでしょうか。

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