ほんとは、知ってた気持ち

俺は、きゅうへの怒りが押さえられなかった。


ザァー、ザァー。


雨の中、歩く。


さん、俺ね、やっぱりはちに会いたい…」


前日の夜遅くに、息も絶え絶えなたつくんは、俺の耳元で話した。


「今な、竹に調べてもうてるねん。会えるかな?」


「会えるよ」


「死ぬ瞬間は、三にも会われへんと思う。だから、会える時に会おうな」


「うん」


「可愛いなぁー。俺、三のいいとこいっぱい知ってんで」


「俺も、知ってるよ」


「ハハ、死ぬまで付き合ってくれてありがとうな」


「ううん」


「後な、そこの引き出し開けて」


「何、これ?」

 

「日記帳。三と付き合ってからの事、書いてる。死んだら、読んでな」


「いやや」


「後な、これ」


そう言って、枕元から何かを取り出した。


「お気に入りの指輪、三にあげる」


「なんで?」


「俺の最後の恋人やから」


「もう、無理せんで」


「アカン、話さな」


しんどそうにしながらも、俺に話しかける。


「たつくん、愛してるよ」


頭を優しく撫でる。


「薄毛やろ?」


「イケメンやな」


「三、俺からの手紙も読んでな。日記にはさんだから」


「俺が、たつくんの寿命削ったんよな」


「そんな事ないで。俺、病気なってからこんな幸せになれるってしらんかったわ」


「八さんが、よかったんやろ?」


「そんな悲しい顔でゆうたアカン。三の事、大切やったよ。これは、ほんま」


息苦しいのに、ずっとずっと話してくれた。


申し訳なかった。


「三、もう帰るやろ?」


「うん」


「寂しいやん。キスして」


そう言われるままにキスして、抱き締める。


たつくんが、俺の背中に回してくれる腕は細くて、でもまだ弱々しいながらも力があった。


「目瞑るん怖い」


「うん」


「手握ってて」


「うん」


俺は、たつくんが眠るまで傍にいた。


眠ったのを確認して、病室を出た。


指輪は、左手の中指にピッタリやった。


次の日の夕方、きゅうに呼ばれた。


ついた時には、もうたつくんはこの世のものではなかった。


ガタン


「三どないしたん?」


れるんが、怖くて震えていた。


「大丈夫か?」


「うん」


俺は、ジッーと見てるしか出来んかった。


一旦家に帰った、たつくん。


一階の和室の布団の上で寝かされた。


「若ー、何で死ぬねん。まだ、早いやろ。俺、置いてくなや」


竹君が、泣いていた。


「三ちゃん、ちょっといいか?」


「はい」


おばさんに呼ばれて、二階のたつくんの部屋に連れて来られた。


「ずっと、泣かれへんか」


おばちゃんは、そう言って俺に紙を渡してきた。


「なんですか?」


「後で、一人で読んでな」


「はい」


おばちゃんは、たつくんの机の上を撫でる。


「たつが、おったんはここやないからさー。でも、出ていった時のまんまにしてるねん」


「はい」


「三ちゃん、たつとエッチしてたやろ?」


「はっ?いえ、そんなんわ。してません」


「ハハハ、おばちゃんと三ちゃんとたつの秘密な」


「なんでですか?」


おばちゃんは、目を細めて笑ってる。


「今日な、午前中。おばちゃんだけ行ってたんよ。えらいよう喋ってきたで。それが、その紙に書いてる。ほんでな、いつもの漫画読んどったらな。私、おるのになー。「さんとセックスしたい」って言い出したんやで」


「せっ…。」


俺は、目をパチパチさせて顔から火がでそうだった。


「ハハハ、おかんおるのにようゆうなって言ったら、30の男がセックスしてへん方がおかしいわ!やって。」


「おばちゃん…なんか…」


「ハハハ、たっちゃん愛してるゆうてくれたか?」


「好きな人、違う人やったから」


そう言った俺の頭をおばちゃんは、叩いた。


「アホ、そんなん嘘に決まってるやろ!」


「そんな事あらへんよ」


おばちゃんは、そう言って俺の事を椅子に座らせた。


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