九と八

「そろそろ、俺帰った方がええよな」


はちは、ベッドから立ち上がる。


「僕、兄ちゃんとの約束で実家に帰る事なってんねん。せやから、途中まで一緒に行くよ。自転車押してくし」


「ほんまか、ほんなら一緒に行こう」


八は、わかりやすいぐらいに目をキラキラと輝かせた。


僕は、鞄を詰め替える。


「その日記帳、二冊もあるんやな?」


「えっ?」


バサッと二冊の日記帳が、僕の手から落ちて床で開いた。


才等八角さいとうはっかくは、腹違いの姉弟である事がわかった。えっ?姉弟?」


「何もないよ、気にせんとって」


僕は、八から日記帳を取り上げた。


「八とキス以上の関係になりたいのに、下半身が邪魔をして先に進めない。唇を重ねる度に、八の傍にいたいと思う」


「こっちも、気にせんといて」


僕は、八から兄ちゃんの日記を取り上げた。


きゅうの日記やないよな?この、二冊なんなん?」


「えっと、これは、なんとゆうか…。まだ、話されへん」


「無理して話さんでええよ」


八は、くしゃっと笑った。


本当は、八が知りたがっているのに気づいてる。


「自分の名前が、書かれてんのに知りたいよな?」


「九が、話したなってからでええよ」


八は、そう言って頬にチュッとしてくれた。


「あー。ズルいわ。そうゆうん」


僕は、頭を搔きながら日記を鞄にしまった。


「まだ、九もちゃんと消化しきれてないんやろ?その日記」


「あー。うん」


「ほんなら、消化できたらいつか話して」


「わかった。」


八は、そう言うとスマホを差し出してきた。


「んっ?」


「番号教えて」


「あー。それな」


僕は、スマホの番号を入力して鳴らした。


「可愛いなー。猫飼ってるん?」


「あー、それな。龍子たつこと国夫。」


「龍子と国夫?」


「そう。兄ちゃんの癌がわかって二つ目の病院に診察行った帰り道に公園で拾ってん。二匹、段ボールにいられて、捨てられとってん。今まで生き物なんか飼いたい言わんかった兄ちゃんが、どない事しても飼うってきかへんから。実家で飼ってんねん。おかんもおとんも、猫飼うん初めてやから家ん中ビリビリやで」


僕は、思い出し笑いをした。


「ええなぁ。九の家は、幸せそうで」


「あっ、ごめん。」


「ええやん。幸せなんが、一番やん」


「八は、不幸やったん?」


八は、カッターシャツを脱いで、Tシャツから二の腕を見せた。


「痛い?」


「今は、いたないよ。」


二の腕に、刃物で出来たような傷が何本も走ってる。


その傷を指でなぞる。


「母親にやられた。腹も刺されたしな。」 


「お腹も?」


八のお母さんは、八を愛してなかったの?


平凡な家庭に、育った僕には理解できなかった。


「無理して、わかるフリせんでええよ」


「八、ごめん。」


「何で、謝るん?さっきもゆうたけど、幸せが一番やん」


「そうかもしれんけど。八の気持ち少しでも知りたい。後、これは兄ちゃんには見せたん?」


「お腹の傷は脱いだ事ないから九が初めてやで」


兄ちゃんに初めて勝った気がして、心の中でガッツポーズをしていた。


「もっと、見せて」


八のお腹の傷をもっと見せてもらうように頼んだ。


「いつやられたん?」


「18歳ん時」


「なんで?」


「卒業して、一人暮らしするゆうたらお前も私を捨てんのかーってえらい怒って。グサリやな」


「生きててよかった。」


僕は、八のお腹の傷を撫でる。


「八、産まれてきてくれてありがとう」


八は、涙を流す。


「どないしたん?」


「そんなんゆわれたら、もっと好きになってまうやん。」


「なんでやねん。ゆわれたやろ?今まで、付き合った人に。」


「若と九だけやで。そんなんゆうてくれたん。でも、生きててよかったゆうたんは、九が初めてやで」


「八は、いっぱい慣れてるからズルいわ。僕なんか何もしらんのに…。」


「俺かてしらん事、いっぱいあるよ。あっ!!」


「なに?急にデカイ声だして」


「ハンバーガー潰してもうた。」


八は、しゃがんだ瞬間にハンバーガーを潰したと紙袋を机の上に置いた。


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