美ときざ

若の弟が消えた後、私はきざに連絡していた。


『もしもし』


はち君へのネタバラシに若の弟が行ってるから…。きざから、竹に伝えとって」


『わかった。』


「じゃあ」


『あっ、めい。』


「なに?」


『元気してるん?』


「年末会ったやん。芽衣子の場所で」


『せやけど、あんま話せんやん』


「きざと話す事ないもんな、じゃあ」


『待ってって』


切ろうとするのを何度も引き留められた。


「桜並木に、今からこれん?」


『いや、無理やわ』


「話したいねん」


『聞いとる?』


「それでも、話したいねん」


きざは、一度決めたら引かない性格だった。


私は、とっくに桜並木にもどってきていた。


『五分以内にこんのやったら会わへんから。』


「わかった」


プー、プー


「はぁ、はぁ、はぁ」


後ろから、息づかいがして振り返った。


「いつからおったん?」


「さっきフー、そこで、美、見つけてフー」  


頑張って息を整えながら、きざは話し出した。


「大事な話?」


「うん」


きざは、ジャケットのポケットから小さな箱を取りだした。


「結婚して下さい」


サァーっと風が吹いて、桜の花びらが散っていく。


「無理やから」


「何でなん?」


「何でも…。」


「だから、何でなん?」


「排卵してないか、しにくいかってゆわれた。二十歳の時に」


きざは、少し驚いた顔をしたけど


「それが、何なん?」


と言ってきた。


「きざ、子供好きやん。できたら、5人は欲しいってゆうてたやん」


「そんなん。何人欲しいって聞かれたから答えたにすぎへんし。それに、俺、今、中学生の担任やってんねんで!子供やったら、学校にたくさんおるで」


「自分の子供ができんでもいいん?」


「自分の元を巣だってく生徒は、いっぱい見れてるで」


「きざ、アホやろ?」


「アホやで、10年間、美を待ってたで。それにな、美が、結婚せんのやったら5年ごとにプロポーズしよう思っててん」


きざは、もう一つの指輪を開けた。


「なに、それ?」


「これ、二十歳の時にプロポーズした指輪。ほんで、今のが30の時。ほら、似合う形が変わってくやろ?だから…」


「アホやろ?」


「アホなぐらい、美が好きやねん」


「きざ、子供は望めんよ。100%じゃなくても」


「別にいらんよ。俺は、美が欲しいから。それに、俺、子供出来ても可愛がられへんかもしれん」


「なんで?」


「生徒と美にあげる愛で両手うまっとるし、親と友達への愛で両足うまっとるし、だから、あげれへんわ。俺」


「頭あるやん」


「頭は、美とあの子への愛でうまっとるから無理やな」


きざは、そう言いながら私を抱き寄せた。


「二人で、あれから、行けてないから行かへん?」


「ほんまやな。一人でばっか、行ってたな」


「うん」


私ときざは、駅で電車に乗る。


暫く乗って、辿り着いた駅前の水子供養がやってる神社にきた。


「久々やな。さなちゃんに二人で会うんわ」


さなちゃんとは、私ときざが勝手につけた芽衣子の赤ちゃんの名前だ。


芽衣子は、お腹の子を嫌がった。


でも、きざが調べてきたのは、愛されなかった子は生まれ変われへんって話があるねんって言った。


名前をつけてあげて、呼ぶのが愛やねんてと言われた。


17歳、きざと私は結婚したくて堪らなかった。


私達は、赤ちゃんの骨壺を引き取り、この場所に供養しにきた。


お坊さんは、若いのに偉いですねと私ときざを褒めてくれた。


別れてからは、別々にきた。


でも、さなちゃんには私ときざが両親なのだ。


芽衣子が、私に言った。


「もし、産む事になったら美ときざが育ててよ。うちは、いらん。こんな子いらん」


私は、生きてる芽衣子に約束した。


だから、さなちゃんの両親は生きてても死んでても、私ときざなのだ。


きざは、お菓子を供えてる。


「おかんとおとんは、結婚する事なったんやで。10年もバラバラにきててごめんな。さなちゃん、心配かけたな」


きざは、絶対いい父親になる。


だって、死んだ芽衣子の子供に毎年一人で会いに来てたんやから。


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