鼓動のはやさでわかる事(上映)

タクシーに飛び乗って、俺は、先生の家についた。


ピンポーン、ピンポーン…


何度もインターホンを鳴らした。


ガチャ…


「なに?」


カッターシャツは、はだけていた。


今にも、乳首が見えそうだ。


「先生、何で、何で、誰かを抱くの?」


涙が止まらなかった。


「話、それだけなら中はいるから」


「さっきの人がいるの?」


「央美君は、俺を愛していないのに、何故そんなに必死になっているんだ?」


「先生を愛してるよ。だから、必死なんだよ。わからないのかよ」


「俺は、罪悪感なのにか?」


「先生、鼓動が速いんでしょ?それは、罪悪感じゃない。俺を好きなんだよ」


「クダラナイ事を言うな」


先生は、そう言って玄関に入ってしまった。


「開けてよ、先生。俺は、どうしようもないぐらい先生を愛してるんだよ。鼓動が速くて、速くて堪らないんだよ。先生を愛してるって泣いてるんだよ。わかるだろ?先生。わかれよ。」


鼓動が速いのは、復讐ではなく、貴方を愛しているから。


貴方を思うと、胸が締め付けられるんだよ。


ガチャ…


「央美君」


「先生…」


「嫌だと言っても、やめないけどいいの?」


先生は、俺を引き寄せて玄関に引き入れた。


抱き締められた後、先生ー


「阿久津君、こっちに」


阿久津君の手をひいた。


「桜川先生が、好きなのは彼ですね?」


「阿久津君にキスをされるまで、この気持ちが恋だと気づかなかった。すまない。」


「友達ぐらいには、なれますか?」


「構わないよ。阿久津君」


私は、央美君が見えなくなった頃に阿久津君と離れた。


家に帰り、スーツを放り投げて、ネクタイをはずす。


カッターシャツのボタンをゆっくりとはずす。


ピンポーン、ピンポーン。インターホンが何度も何度も鳴る。


ガチャ…


央美君がいた。


気持ちをぶつけられる程に、心臓の鼓動が速くなる。


央美君を抱き締めたくて、部屋に引き入れてしまった。


「先生…」


央美君の涙を優しく拭った。


「央美君、もう君を離したくない」


央美君の唇にキスをした。


「はぁー、先生」


とろけた顔に、もう止められなかった。


後ろから、央美君を抱いた。


「先生、玄関だから…ぁっ」


「ごめん。押さえられない」


「先生っ、はぁっ」


俺は、夢中で央美君を抱いた。



「先生…」


「ごめん。立ってソファーに」


俺は、央美君をソファーに連れて行った。


俺は、水を差し出した。


「父が、ショタコンって知っていたんですよ。俺」


俺は、ビールを飲む。


「央美君、あれは、冤罪で。お父さんは、何もやっていないよ」


そう言った俺を、央美君は見つめた。


「父は、やっていましたよ。」


央美君は、財布から写真を一枚取り出した。


「その子には、やっていなかったかもしれない。でも、俺にはやっていました。」


「これは…。」


「小さい頃の俺です。」


裸の央美君を抱き締めている。


蔦のように絡まる手…


「央美君は、悪戯されていたのか?」


「はい、そうです。」


央美君は、俺を見つめる。


「お父さんは…。」


「家にあるアルバムに、こんな風に男の子が抱き締められている写真がたくさんあります。蔦みたいに絡められた腕…とろけた眼差しで、カメラを見ている。気持ち悪いですよね。これって、い…」


俺は、央美君の唇を手でふさいだ。


「言うな。それ以上、自分を傷つけるな。」


鼓動が速くなる。


「央美君、感じて」


手を心臓に当てる。


「先生、速すぎるよ。死んじゃうよ、先生。」


「央美君、俺が、綺麗にするから…。何度も何度も、央美君の記憶からそれが消えるまで続けるから」


「先生…。」


「だから、央美君の中では綺麗なお父さんのままにしていて」


俺は、央美君の唇に唇を重ねた。


央美君は、俺の手を自分の心臓に重ねた。


速い…。


速すぎるよ。


鼓動の速さでわかる。


央美君を愛している事を…。


あの日の記憶を私も消去するから


だから、央美君も忘れて欲しい。

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