第4話 エピローグ

 そう言えば俺は、25年前に彼女から逃げるために家を引越して、転職した。

 その時に携帯番号を変えたはずだ。

 なぜ、彼女は俺の電話番号を知ってるんだろうか・・・。ずっと、疑問だった。


***


 俺は最近久しぶりに、20代の頃遊んでいた女友達に会った。25年ぶりだ。その子は昔きれいだったのに、ものすごく老けていて、最初は誰かわからなかった。付き合ってないけど、何回かセックスしたことがあった。


「江田君!元気?」

 彼女は大企業の正社員から派遣になっていた。

「ああ」

 俺はびっくりした。俺の会社に派遣で来ていたんだ。

「未央子。忘れちゃった?毎週会ってたのに・・・お昼、ランチ行かない?」

「ああ、いいよ」

 管理職なのに派遣のおばさんと2人でランチに行く。絶対噂になるが、断ったら失礼だ。

「まだ独身なんだ・・・一回も結婚してないの?」

「うん。でも、彼女はいるから」

 あてにされたくないから、俺は嘘をつく。

「結婚願望なくて」


 彼女はバツイチで二児の母になっていた。

 知らない間に俺の知っている人と結婚して離婚していた。大企業のサラリーマンでまあまあのイケメン。旦那の浮気で離婚したらしい。

「あ、そう。あの人と結婚したんだ」

 俺たちは毎週のように合コンをしていた。俺たちのやっていたことは一体何だったのか。空しくなる。 


「江田君が急にいなくなるからびっくりしちゃって。安西瑛子ちゃん・・・のことでしょ?」

「うん。あの人がしつこくてさ・・・俺、電話番号変えて、引越したんだよ」

「でも、死んじゃったから戻って来ると思ったのに」

「え?」

「江田君に振られて自殺しちゃったんだよね」

「え?」

「一緒に住もうって言われて、アパートの隣を借りたのに、振られちゃったからもう生きて行けないって・・・」

「住もうなんて言ってないよ」

 やっぱり異常だったんだと思う。

「いつ亡くなったの?」

「よく覚えてないけど・・・江田君と付き合ってすぐかなぁ・・・もう、2回も立て続けに振られて、生きていけないって。毎日電話かかってきてさ・・・。入院して部屋に戻って来たら、江田君が黙っていなくなってて。会社も辞めてて。こんな裏切られ方したら、もう生きていけない!今から死ぬ!って言うから、慌てて見に行ったらもう亡くなってたの」

「え?まさか・・・」

「私が警察に通報したんだもん・・・」

「安西さんから、俺にいまだに電話かかってくるよ」

「それ、別の人じゃない?」


 俺はその瞬間、「もしもし、元気?今大丈夫・・・?」の声を思い出す。

 25年間変わらない声。

 そんなはずない。

 声も年をとるはずだ・・・。

 でも、俺はすぐに彼女の声だとわかる。

 甘えたような。ためらうような。だめだよね・・・?と確認するようなトーン。


 俺は携帯の電話帳を見る。

 俺の携帯には彼女の番号が5件も登録されていた。携帯を新しくするたびに、俺に電話をかけて来る。俺は試しに一番最近かかって来た番号にかけた。


 何回かコール音がなる。


「はい。安西です。江田君!やっと電話くれたんだ!」


 間違いない。あの女の声だ。

 俺は一瞬で電話を切った。

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リスカ 連喜 @toushikibu

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