第4話 曰くに振り回されて

     四


 サキは順調に回復していた。

 うさぎは話す機会を覗っているが、楓花は毎日ひとりで、お見舞いに行き回復を日記にしたためている。その情報は月が満ちるようであった。

「リーン・リーン・リーン」

 うさぎがスマホを取り出しでる。

 掛けて来たのは荒井だった。


「どうしたのですか?」

「捜査本部から、朝宮さんの見舞いに行けとお達しが出ちまった」

「お見舞い?。面会の間違えなのでは」

「小っ恥ずかしい、と言ったんだがなぁ~」

「赤瞳でも連れて行け。と言われたんですね」

「あぁ」

「なら、楓花の付き添いで行きますかぁ」

 うさぎはわざとらしく、声を張った。どうせ行くなら、この機を逃すまい、とくわだてていた。

「どうしたの?」

「荒井さんが、お見舞いに行きたいらしいよ」

「じゃあ、一緒に行く?」

「行くいく」

 うさぎはお茶目に言うと、

「迎えに行きますから、署で待っていて下さい」と伝えて、通話を切った。


 赤瞳でも連れて行けと言ったのは、長沼だと理解できた。容疑者を特定する為に、何かが足りないのだろう。うさぎの方も、サキに確認したいことがあった。


 楓花の生活費は、サキを通じて渡されていたが、その継続の確認をしたかった。

 前祝いの席で、上手くはぐらかされた。妖しく思った理由は、結婚までのスピード感からである。

 お見合いをして一ヶ月足らずで結婚式。何かある、と勘繰ったのは、長沼も同じはず。

 事件が起きた、という結果は、現実でしかない。

 長沼がうさぎさんチームに声を掛けた理由をプラスすれば、小杉駅前事変と全てが重なる。ましてや、半グレ集団を壊滅させる、とほざいて終った。闇に葬られた未解決事件をこの期に、と考えられた。

 ただで使われれば、マスメディアの格好の餌食になる。税金の無駄遣いは、国民の注目度も高いから。

 世知辛い世の中のつけはいつでも、弱いものに廻されている。

「行くわよ」

 楓花に促されて、社会勉強に出ていった。



     五


「悪いな、赤瞳」

「乗りかかった舟ですからね」

「御免なぁ、楓花ちゃん」

『ちゃ・ちゃん?・?』

 楓花が驚きを隠せないでいる。

「荒井さんが、楓花を認めてくれたんです。お返事は?」

「問題ないです。毎日行ってますから」

「よくできました」

 うさぎは言って、ポンポンと頭を叩いた。

 楓花はそれで上機嫌になる。笑顔と足取りがリンクして歯止めが効かなくなっていた。

 うさぎが兼ねて、右手を握った。

 荒井は職業病で左側を固める。

 楓花の左手が、荒井の右手を引き寄せた。

 異型ではあるが、団欒が紡がれた。


 万民の通行を妨げる行為。

『違法行為?』

 荒井にとっては、職務規程違反になるが、超法規的 はからいであった。



「来たよ!」

「暇人なんだね、楓花は」

 手に持つ本に栞を挟み、サキが楓花に目を配った。

「具合はどうですか?」

「赤瞳さん」

 サキが慌てた。

「そのまま、そのまま」

「誰ですか?」

「私のお目付役ですが、被害者の安否情報を更新したいようです」

 サキは話しのまとを得ていない。

「ネェ、サキ。談話スペースまでリハビリしない?」

「いいよ」

「トイレに自力で行くようになった。とは、リハビリのことだったのですね」

 うさぎは言った途端、両手で口を押さえた。

 楓花が軽蔑の眼差しを向けるが、サキの動きで相殺された。


 談話スペースはガラガラだった。

 お他人様に聴かれたくない話しをするつもりなのは、隅に陣取ったことで、サキにも伝わっていた。

「コーヒーにする?」

「貴婦人の気分かな?」

「紅茶ね!」

 楓花がそういう言い回しをされても、面倒臭そうに見えない。感じたうさぎは、伴走するように追いていた。荒井に対する恩返しであった。



 計算したかのような頃合いに、楓花が戻って来た。右手にレモンティー。左手にはミルクティーを持ち遊んでいる。隠れるようにうさぎがいることで、サキが笑顔を見せた。

「赤瞳さん、また、怒られちゃったんですか?」

「いい歳こいて、小銭から先に入れるんですよ。なんて言うんだよ」

 うさぎはそれで俯いた。

「短い時間にしては考えたわね。赤瞳さんは、漫才の脚本を書いた方が、生計が立つんじゃない?」

「あたしには、もの書き、って言ったわよ」

「どっちにしても、赤瞳には向いてないよ」

「どうして、そう思うんですか?」

「人には、向き不向きがあるからさ」

「松本のことは、諦めます」

「えっ、もう離婚するの?」

「荒井さんが、刑務所に入ると教えてくれました」

「どういうこと?」

「赤瞳恃む」


 サキさんのウエディングドレスに細工をしたのが、新郎の元彼女です。

 元来、浪費癖の強い松本は、朝宮家の財産目当ての半グレ集団員です。婿養子に入ったことで解りますよね。

 今回の事件で、共同正犯が成立しました。


「ちょっと待って」

「大丈夫だよ、楓花」

「何が大丈夫なの。全然解らないよ」

「赤瞳恃む。楓花ちゃんに解るように説明してやってくれ」



 事の発端は、数年前に遡ります。

 地下に潜む悪の組織が開発した元素兵器で、世界中のテロ事件が変形しました。

 今回の披露宴会場で起きたのが、そのテロ事件なんです。私の仲間たちが事ある度に対応しています。

 私が楓花に、サキさんを連れて帰宅を促したのは、お祝いをする為です。それだけは真実ですから、勘違いしないで下さい。


「それを、長沼さんが利用した、っていうの?」


 真実に向き合う時、何が必要かは、経験済みですよ。楓花自身、何も出来ない現実を知ったはずです。


「それがまだ続いている。ってことなの」


 正確には、終わりまでが、プロローグなのかも知れません。


「まだ何かが起こり続けるの?」


 正義と悪の関係は、『終わりなき戦い』だと、私は考えています。私の遺伝子を受け継いだなら、理解できるはずです。


「あたしが受け継いだならしょうがない。それでも、サキには関係無いでしょ」


 美樹と百合さんが、悪党に魅入られまいと抵抗する為に、『私を引き寄せた』のです。

 !!・荒井さん、サキさんのお父様を保護して下さい。


「解った」


 荒井はいうと、会釈して席を立った。

 小走りに走り去るところを看ると、気が急いているのだろう。備えていても、巻き込まれる際に、被害をこうむるものである。

 


「サキを巻き込んだんじゃなくて、あたしが巻き込まれたの?」


 加藤家の曰く、かも知れませんよ。


 うさぎの言葉に、楓花とサキが納得していた。




 

 

 




 

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