あの日の真実

「酔った、市木を誘った。ちゃんと、鍵はかけたから大丈夫だって。」


「盗撮されてたのか?」


「うん。鍵も、開けられた。市木は、してくれたよ。俺の為に…。でも、辰己先輩が、ルールはルールだからって裏切ったのはどっちからって聞いたから。俺だって言った。殴られて蹴られて、やられて。最後があいつ等だよ。二度と俺は、出来ないんだよ」


「早坂、ごめん。守ってやれなくて」


俺は、震えてる早坂の手を握った。


「死ぬって思った時に、市木が目を覚ましたんだよ。だから、守ってくれたんだよ。市木は、俺を。じゃなきゃ、今生きてない。」


「初めてをくれて、ありがとな。」


俺は、早坂に笑いかけた。


「市木は、かわらないね。その目を見ればわかる。動画で、脅されてたんだろ?」


「会社もクビだよ」


「違うって、俺から」


俺は、首を横にふった。


「違わないよ。だって、否定したって早坂の体は戻らないだろ?」


「市木に会えたお陰で、俺。しみちゃん。今の彼氏との関係かわるかもしれない。一緒に昼御飯食べない?四人で」


俺が由紀斗を見つめると由紀斗は、頷いた。


「いいよ。食べよう」


そう言って、笑った時だった。


「早ちゃん、帰ろう」


「しみちゃん。」


「友達?」

 

「うん。みんなで、昼御飯食べない?」


「いいよ。」


そう言って、近くのうどん屋さんに入った。


「えっと、自己紹介だよね。俺は、早坂友はやさかともです。俺の彼氏の、清水健太しみずけんたさんです。」


「初めまして」


清水さんは、頭を下げた。


「俺は、市木千尋いちきちひろです。俺の彼氏の大宮由紀斗おおみやゆきとさんです。」


「初めまして」


由紀斗も、頭を下げた。


「しみちゃんはね、今、介護の資格をとりに行ってくれてて、休職してるんだ。俺より、5つも下なんだよ。」


「すごいですね。」


「全然、すごくないですよ。」



「俺達は、失業中で無職ですよ。ね、由紀斗さん」


「そうだな」


早坂は、何かを感じ取った。


「あの動画でじゃないのか?」


「まあ、そうだけど。ほら、やっとあいつ等から解放されたからさ。気にしないでよ」


「動画って、早ちゃんが、この体になったやつだよね?」


お待たせしました。と一種類しかないうどんランチセットが運ばれてきた。


「しみちゃん、怒らないでよ」


「市木さんは、その場にいた一人だって事だよね?それなら、助けられたよね」


その言葉に、俺は頭を下げた。


「本当に、申し訳ありませんでした。」


早坂は、笑った。


「だから、さっきも言ったけど俺を助けてくれたのは市木だよ。あそこで、目覚めてくれてなかったら死んでたから」


「でも、足がこんな事になったんだよ」


清水さんは、早坂の手を握りしめる。


「それでも、生きてるから。伸びるから食べようよ」


そう言われて、うどんを食べた。


「ここのコーヒーが絶品なんだよ。」


食べ終わると、早坂はそう言って笑った。


「ちゃんと話してよ。市木さんのせいで、そうなったんでしょ?」


「違うって、こうなったのは、先輩のせいだから」


「でも、その場にいたなら」


「酔っぱらってたから、無理だよ」


コーヒーが、やってきた。


「人間がしたんだよ。早ちゃんの足は…。」


「わかってるよ。そんな事。どれだけ、恨んだと思う?だけど、市木の事は一度も恨んだことはなかったよ。」


その言葉に、俺は泣いていた。


「だって、市木といると楽しかったよ。すごく、楽しかったよ。初めて、お酒飲んでさ。加減わからなくて酔いつぶれた市木を誘ったのは俺だよ。このまま、市木と付き合えたらハッピーだなーって考えていた。」


「早坂…」


「しみちゃんと大宮さんの前で言うのは違うかもしれないけど…。あの時、体がこんな風にならない人生を選べてたとしてもね。俺は、絶対にその道は選ばないよ」


早坂は、真っ直ぐ俺を見つめる。


「俺は、何度だって市木に抱かれる選択肢を選んで、何度だってこの体になるよ。何故かわかる?」


俺は、首を横にふった。


「俺にとっての初めては、それだけの価値があったって事だよ。市木だって、感じていただろ?一番目を通りすぎたら何度されたって同じだって」


早坂の言葉に、俺は理解した。


あいつを許せないのは、俺の一番目だったからなのか…。


「でも、今は違うよ。しみちゃんに出会って違うって知った。後は、全部同じじゃない。しみちゃんは、違う」


清水さんは、見つめられて照れ臭そうに笑っていた。



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