キスは、しない

リリリリーン、けたたましく鳴り響いた電話の音で、俺は、目を覚ました。


「千尋、電話だよ」


「あっ、はい」


千尋の電話だった。


昨日、アレから千尋とかなりお酒を飲んだ。


頭が痛い。


千尋は、電話を切った。


「おはよう、由紀斗」


「おはよう、千尋。俺達、昨日」


「あっ、したのかな?」


あの日のように、体の痛みだけがやけにリアルだった。


「かもしれないな」


「昨日、アレからめちゃくちゃ飲んだんですよ。だから、覚えてません」


「俺もだ。二人に、迷惑をかけていなければいいが」


俺は、パジャマを整えて起き上がった。


下に降りて、トイレに行って、歯を磨いた。


リビングを開けると、梨寿りじゅと真白さんがいた。


「おはよう」


「おはよう」


「昨夜は、うるさくなかっただろうか?飲みすぎて覚えていなくて」


「昨夜?あー。泣き疲れて寝たからわからない」


梨寿は、そう言って笑った。


嘘は、ついていないのがわかった。


「私も、飲みすぎて寝たからよくわからないよ」


真白さんも、嘘はついていなかった。


「別に、二人がそうゆう事していても構わないよ」


朝御飯を持ってきた梨寿が、俺に言った。


「そんな話じゃなくて、俺も昨日飲みすぎて泣いたり怒ったりしてたから…。それで、うるさくなかったかと思って」


「なーんだ。別に何も聞こえてなかったよ。でも、本当に遠慮しないでよ。私達も、遠慮しないから。」


そう言って、梨寿は笑った。


遠慮してくれと思ったのは、俺があの日あんな風になったからだ。


「遠慮して欲しいよね?ごめんね」


梨寿は、俺の顔色を見てすぐに言った。


「いや。俺も、時と場所は考えるよ」


「うん」


千尋が、やってきた。


「おはよう」


「おはよう」


梨寿と真白さんは、千尋の分も朝御飯を置いてくれる。


『いただきます』


全員で、ご飯を食べる。


梨寿の作る味噌汁が、胃袋に染み渡る。


懐かしくて、好きな味だ。


10年間、俺を幸せにしてくれていた味だ。


「お皿洗い頼んでもいい?」


「ああ、かまわないよ」


「じゃあ、真白と仕事行くね」


「うん、気をつけて」


ごちそうさまをして、二人は出て行ってしまった。


俺は、千尋とご飯を食べ終わり皿を下げた。


コーヒーをいれて、持っていく。


「はい」  


「バレてなかった?」


「ああ、遠慮しないからどうぞって」


「あらら、それは、辛いね」


千尋は、ニコッと笑ってコーヒーを飲んだ。


「あんな事になった分、恥ずかしさもあった」


「仕方ないって、夫婦だったんだから」


「昨日、気づけば梨寿を抱き締めていた。」


言う必要のない事を俺は、言ってしまった。


「奇遇だね。俺も抱き締めたよ」


「えっ?」


「だって、悲しいをするから守ってあげたくなったんだよ」


「同じだな。俺もだ。」


「別に、元嫁抱き締めたらダメなんてないよ。俺だって、真白さんだって、そんなのわかってここに住んでるよ。キスぐらいしたっていいんだよ」


千尋に、頭を撫でられる。


「キスなんかしない。梨寿が、嫌だからではない。それをすると、俺達はお互いに優しく出来ないのを知ってる。俺達は、お互いを制圧するんだ。このとんでもなく馬鹿げた世界に、くくりつけて縛り付ける。そして、どこまでも、支配する。俺は、梨寿を、所有物のように扱う。相手の意思など関係ないのだ。そして、俺は、梨寿から羽をもぎ取り自由に飛んでいけないようにする。それが、俺と梨寿の関係」


「由紀斗、そんな言い方しないでよ。」


「千尋だってわかるだろ?無償の愛などない。どちらかが、どちらかに優位に立つ。やってあげてるのに、これだけしてるのにってね。」


「わかるよ」


「でもね、それが人間なんだと思うんだ。大きな話で言えば、それが戦争に繋がってく一つのピースなのかもな。誰かより優れていたい、誰かよりいいものを食べたい、誰かより幸せになりたい。それをなくす事は出来ない。これは、思考をもった人間のさがなんだと思うんだ。」


千尋は、俺の頬を撫でる。


「知らないうちに、マウントとって嫌みを言う。お前より俺の方が仕事が出来ると言う。使えないと影で笑う。確かに、思考をもった人間に無償の愛などない。ほとんどの人間は、自分の血が繋がったものしか愛さない。これも、思考のせいだね」


千尋は、そうゆうとスマホの画面を見せた。





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