由紀斗の家族

電車に乗って、やってきた。


俺の家の田舎の風習で、親戚連中にお披露目のような事をする。


「手繋いであげようか?」


「何、言ってんの?」


「だよな、ごめん」


俺は、酷く緊張していた。


ピンポーン


「いらっしゃい」


玄関を開けて、家にあげてくれた。


「お邪魔します。」


「久しぶりね、梨寿りじゅさん」


「お久しぶりです。」


梨寿は、頭を下げた。


「お祝いは?」


「ああ、これ」


コンビニで、5万を下ろしてきてコンビニで買った祝儀袋に入れた。


「あら、ちゃんと持ってきたのね」


母は、そう言うと俺達を案内した。


この家で、一番広い和室で宴会は始まっていた。


「由紀斗君、久々だね」


「はい」


「43歳になって、やっと結婚だよ。」


「おめでとうこざいます。」


「授かり婚なんだよ。いやー。出来なかったら困るからね。よかったよ。」


「そうですね」


俺は、苦笑いを浮かべた。


宴会は、俺と梨寿にとって辛い時間だった。


「双子なんだよ。すごいねー。治療もしてないのに、双子」


「二人は、まだ作らないのか?四十しじゅうなんて、まだまだ若いんだし頑張りなさい」


「はあー。」


「ほんとよ。早く、孫を見せて欲しいわ」


「もっと、毎日ちゃんとしてるか?あっちを頑張らないと出来ないぞ」


デリカシーの、デの字もないおじさん。


「梨寿さんも、ちゃんと体を柔らかくして受け入れないと出来ないからな、ガハハハ」


「はい」


消えてしまいそうな梨寿


「俺達、明日も早いから帰るよ」


「あら、そう。」


「なんだ、まだまだ子作り話があったのにな」


「すみません」


梨寿は、頭を下げた。


「まあ、早く帰って子作りしろよ。ガキなんぞ、すぐに出来る。体柔らかくして、毎日抱けば一発だ。なあ、悟」


「そうだな」


「ふざ」


俺の言葉に、梨寿は腕を掴んだ。


見つめた俺に、首を横にふった。


「帰ろうか?」


「うん」


「じゃあ」


「また、来なさいよ」


「お邪魔しました。」


俺と梨寿は、実家を出た。


「ごめん、守れなくて」


「別に、気にしてないよ」


「ふざけんなよな。俺達の気持ち知らないで。あのおっさんの脳ミソ握りつぶしてやりたいよ」


俺は、涙が止められなかった。


「気にしたら負けだよ。私達、せっかく自由になれたんだから…。右から左に流さなきゃ、ねっ?」


「梨寿だって、泣いてんじゃねーか」


「ごめん。やっぱり、辛いよ」


「俺の方こそ、ごめんな。」


駅のホームのベンチに座った。


「はい、水」


「ありがとう」


俺は、梨寿から水を受け取った。


「何回言われたか、もう数えてないよな」


「そうだね」


電車が来たのに、俺達は見送った。


「その度に傷ついちゃってさ。心臓もたないよな。」


「わかる」


「どれだけ、辛い思いしても手に入らないものが世の中にはあるんだよな。」


「うん、そうだよね。いっぱい泣いたね。」


「ああ。まだ、やめてんのか?」


「うん」


「解禁して、ピザやら揚げ物やらいっぱい食わないか?もう、梨寿は、お母さんの事も、子供にも縛られなくていいんだよ」


俺は、気づいたら梨寿のことを抱き締めていた。


「由紀斗、ごめんね。赤ちゃん一度も出来なくてごめんね。」


「泣かないでくれよ。俺は、ずっと梨寿の隣にいるんだって思ってたんだけどね。俺の方こそ、ごめんね。」


「愛があると大丈夫って言うけどさ。大丈夫じゃなかったね。私達」


「うん、なかったな。」


「愛は、ちゃんとあったよ。ちゃんとあったんだよ。由紀斗を愛してたよ。今だって好きだよ。だけどね、赤ちゃんの事考えたら苦しくなる。れるとそれを考えてね。今日は、私、排卵日かもとかね。そしたら、苦しくなっちゃった。だから、ごめんね」


「いいんだよ。俺だって、そうだよ。楽しめなかったし、優しく出来なかった。今なら、こんなに優しく出来て、梨寿がして欲しい事だってちゃんとわかるのにな」


「由紀斗まで、泣いてどうすんのよ」


いくつも、電車を見送っていた。


愛があればなんて言うけど、お互いを愛する事よりも子供が欲しくなった俺達は、ダメになっちゃったよな。

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