守ってあげたい朝

朝、目が覚めると隣に由紀斗が寝ていた。


「おやすみ」


俺は、ベッドから起き上がって、一階に降りた。


「おはようございます。」


梨寿りじゅさんが、キッチンに立っていた。


「おはようございます。井田さんは?」


「まだ、二階で寝てますよ。お水ですね」


お水をくれる。


ゆっくりこの人と話したかった。


「ありがとうございます。」


「梨寿さんは、子供欲しかったんですよね」


お味噌汁を作ってる梨寿さんに話しかける。


「欲しかったですよ。すごく」


「諦められましたか?」


「諦められてませんよ。今だって」


「ですよね」


梨寿さんは、火を止めた。


「少し話しますか?」


「はい」


「コーヒーいれましょうか?」


「ありがとうございます」


梨寿さんは、コーヒーをいれてくれる。


俺と向かい合わせに座った。


「辛かったですよね?ずっと」


「そうですね。私は、由紀斗に優しく出来なかったから…。」


「そんな事ないですよ」


「私達、罵り合ったりするんですよ。私が、ヒステリーおこしちゃってね。」


そう言って、コーヒーを飲んでる。


由紀斗さんも、言っていた。


「お互いに、子供が欲しいのがわかりますよ。だから、喧嘩したりしたんでしょ?」


「かも、しれないですね。今、思ったら何であんなに必死だったのかな?だって、必死にならないと引き寄せられない気がした。頑張らないと手に入らない気がした。」


「何もしなくても、出来てる人はたくさんいますよ。俺の知り合いで、毎日浴びるほど酒飲んでて妊娠した人知ってます。梨寿さんも由紀斗さんも、自分に厳しすぎたのかなって思うんですよ。でも、それが二人のいいところだってわかってますよ。」


俺が笑うと梨寿さんは、泣いた。


「私達は、見えない小さな檻に二人で引きこもって過ごしていたんだと思います。私は、特に外の世界なんて、見ようともしなかった。毎日、毎日、家の事をしてるだけ…。私は、いつの間にか友人達のsnsに振り回されていくんです。今だって、そうですよ。友達が、四人目が出来た。胎動の動画、エコーの写真。見るなと言われても、見てしまいます。その全てに振り回されるんです。馬鹿ですよね?千尋さん」


俺は、首を横にふった。


「わかりますよ。俺だって、振り回されてる。」


「千尋さんも、愛する人の子供が欲しいですよね」


「そうですね、無理ですが…」


「そうですよね」


梨寿さんは、泣いてくれる。


俺の気持ちと自分の気持ち、その気持ちに押し潰されているのがわかるよ。


俺も、泣いてしまった。


「当たり前の幸せが、みんなにあるって思うんだよな。そういう人って…。俺ね、昔から幸せです。って全身でだしてる人間が大嫌いだった。だから、由紀斗さんは不思議だった。梨寿さんと結婚してて、幸せなはずなのに…。そんな話しを一つもしない。不思議な人だと思った。」


そう言った、俺を梨寿さんは見つめてる。


「幸せって、人に見せびらかすものじゃないんだなって気づいたんだ。」


「そうだと思いますよ」


梨寿さんは、涙を拭って言った。


俺は、やっぱり二人には幸せになってもらいたい。


「これからは、もっと、もっと、幸せになれますよ。」


そう笑った俺に、梨寿さんも微笑んでくれた。


「ありがとう、千尋さんも由紀斗と幸せになっていいんですよ。私の事は、気にしなくていいんですよ。」


「幸せには、みんなでなりましょう。俺は、梨寿さんにも井田さんにも、幸せになって欲しいです。」


「優しいですね。千尋さんは…。由紀斗が、いい人を見つけれて嬉しいですよ。私は、駄目な人間だったので」


「そんな事ありません。梨寿さんは、素敵な人ですよ。だから、由紀斗さんはまだ梨寿さんが好きなんですよ」


「素敵な人間じゃないですよ。朝御飯しますね。」


そう立ち上がった梨寿さんを抱き締めてしまった。


やってしまった、俺だった。




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