真白の家

キャリーケースに、服をつめていく。


さっき、真白ましろが私の太ももに手を置いた時に感じた。


不安なんだって


あの頃の私と同じ…。


子供が出来なくて、いつ由紀斗に別れを切り出されるかビクビクしていた。


不安で、不安で、情緒不安定で、ヒステリックだった。


足の悪い私を、愛してくれる人なんて現れないと思っていた。


だけど、真白が私を愛してくれた。


真白が、与えてくれる気持ちは、幸せだった。


だから、次は私が真白にちゃんと気持ちを与えてあげたかった。


服をつめて、洗面所に行った。


洗顔、化粧品、化粧水、歯ブラシにシャンプーとリンス、洗面所のものを鞄につめた。


10年間、見つめていたこの鏡ともお別れだ。


「もう、行くんだな」


由紀斗が、玄関にやってきた。


「うん、鍵は、まだいいかな?」


「ああ、大丈夫。いない時にも、とりにおいでよ」


「いい人、掴まえたね。」


「千尋か?うん。」


「由紀斗、市木さんを不安にさせちゃ駄目だよ。子供がいないってね。絆が強くても、簡単に壊れちゃうんだよ。繋ぎ止める為には、ちゃんと言葉にするんだよ」


「わかってるよ。梨寿りじゅ


「うん。私もだけどね」


「気をつけて。」


「じゃあね、またいつかみんなでご飯食べようね」


「そうだな。気をつけて」


「じゃあね、バイバイ」


「ああ」


ガチャ…。


パタンって、扉が閉まった。


「梨寿、持つよ」


「ありがとう」


足が悪い私を気にして、真白は、いつも荷物を持ってくれる。


優しくて、好きだよ。


私は、真白の車に乗った。


「梨寿、よかったの?本当に…。私で…」


「また、そんな事言うのやめてよ」


私は、真白の頬を軽くつねった。


「痛いよ…。」


「いいんだよ。私は、真白のお陰で、呪いから解放されたんだよ。」


唇にキスをした。


「梨寿、恥ずかしい」


「赤くなった、真白好きだよ。」


「梨寿が、幸せでいれるなら、何もいらないよ。」


「選んだ道に、後悔はしないよ。私は、真白を選んだの。由紀斗の事だって、自分で選んだ。だけどね、私達はお互いを思い合うよりも子供が欲しい気持ちに縛られ過ぎていたんだよ。だから、私達は駄目だったんだよ。さっき、由紀斗に話したみたいに…。もっと早くに、二人で生きる道を見つけるべきだったんだよ。真白とは、初めから二人の道を見つけられてる。だから、私は苦しくないよ。」


そう言った私の頭を、真白は、撫でた。


「帰ろうか」


「うん、帰ろう」


二人で住む、真白の家に帰った。


「荷物、そこ置いて」


「うん」


「今日は、私がご飯作るよ。何がいい?」


「豚のしょうが焼きの材料あったよ。作ろうと思ってたから」


「じゃあ、私が作るよ。梨寿、この棚開けてるから、全部はいるかな?」


「いれてみるね」


「うん、じゃあご飯作るね」


私は、ティッシュを塗らして、キャリーケースを拭く。


「そんなのしたことない。」


「本当に言ってる?」


「うん」


「汚いよ」


「そうだね、次からは拭くよ」


「うん」


私は、真白が開けてくれた棚に服をつめていく。


「はいった?」


「全部、はいったよ」


「洗面所、あっちの鞄」


「うん、シャンプーとか色々つめてきた。」


「ご飯食べたら、お風呂はいる?」


「はいる。先に入ろう」


「じゃあ、先にしようか。沸かしてくる」


真白は、お風呂を沸かしてきてくれた。


「梨寿、愛してる」


後ろから、抱き締められる。


「真白、私も大好きだよ」


「指輪、はずすの忘れてる」


「あっ、返してなかった。婚約指輪も…。今、はずすから待ってね」


「待たない」


「ちょっ、んんっ」


「梨寿、指輪買いに行こう。」


「うん、行こう」


そう言って、真白を抱き締める。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る