別れ

次の日の夜、私と梨寿りじゅは梨寿の家にやってきていた。


「あの、その…。」


旦那さんは、話しにくそうにしていた。


「こちらは?」


梨寿の言葉に旦那さんは、恥ずかしそうにしながら…


市木千尋いちきちひろだ。」


「その方が、何故ここに?」


「あのね、梨寿、実は、俺達、付き合ってるんだ。」


梨寿は、少し驚いた顔をしたけれどニコッと笑った。


「よかった。由紀斗が、一人だったらどうしようと悩んでいたの。私、真白ましろと一緒に住もうと思っていたから」


その言葉に、由紀斗さんは泣いている。


「そんな風に言ってくれるとは、思わなかった。」


「何故?私達は、お互いをちゃんとまだ思っているじゃない?嫌いなわけじゃない。だから、由紀斗が幸せになりたいと思える人を見つけたならよかったと思ってるよ。」


梨寿は、そう言ってニコニコ笑った。


「市木さん、由紀斗をよろしくお願いします。私じゃ、幸せに出来なかったから」


「そんな事ないですよ。俺なんかと付き合う前から由紀斗さんは幸せでしたよ。」


市木さんは、そう言って梨寿に笑いかける。


何故か、こいつは嫌いだ。


きっと、両方いける人なんだ。


梨寿をとられたくなくて、梨寿の太ももに手を置いた。


「井田さん、梨寿をよろしくお願いします。これから、幸せにしてあげて下さい。」


「梨寿さんも、ずっと幸せでしたよ。私に会う前からずっと…。でも、幸せにします。約束します。」


梨寿は、私に微笑んでくれて、ギュッと手を握りしめてくれた。


「由紀斗、私、今日から真白と住むから…。今まで、お世話になりました。ありがとう。幸せだったよ。ずっと…。でもね、子供に縛られる期間が長すぎちゃったよね。本当は、もっと前から二人で歩き出す人生を考えるべきだったよね。ごめんね、お父さんにしてあげられなくて。由紀斗は、いいお父さんになったよ。だって、体調が悪い私の為に家の事をしたり、ご飯を作ってくれたり、眠るまで看病してくれたりしてくれたじゃない。簡単に出来ないよ。そういうの…。」


梨寿の言葉に、由紀斗さんは泣いている。


「俺も、今までありがどう。お母さんにならしてあげれなくて、ごめんね。梨寿も、いいお母さんになったよ。ご飯もうまいし、優しいし、グッピーがいなくなった時も何日も泣いてさ。俺が、熱でた時も何時間も起きて看病してくれたり。結婚してる周りでも、そんな人少なかったよ。みんな、薬飲んで寝とけって感じだったから…。俺は、梨寿と一緒になれてよかったよ。」


強い絆で、結ばれているのに…。


二人は、その絆を固くは結ばなかった。


スルスルとほどけてしまう程、緩く結んでいたのは、こんな風にいつかを考えていたから?


こんなに愛し合ってるのに、子供が出来ない。ただ、それだけで…。


二人の絆は、簡単にほどけてしまった。


わかるよ。


私だって、市木さんだって、しっかり手を繋いでいないと簡単に離されてしまうんだよ。


それだけ二人の間を繋げる、接着剤こどもの存在は、他人である夫婦にとって強いものなのだ。


「ゆっくり、荷物片付けたりとりにくるから」


「わかった。」


「じゃあ、真白。私、服とかつめてくるね。」


「私は、車で待ってるから」


「うん、わかった。」


「失礼しました。」


「また、会いましょう。井田さん」


「はい」


私は、頭を下げて梨寿についていく。


私と梨寿も、簡単に離れていっちゃうのかな…。


「真白、心配しないで。大丈夫だよ。」


「梨寿」


「こうやって、ちゃんと掴まえておくから」


何かに気づいて、梨寿はそう言って、手をしっかりと握りしめてくれていた。



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