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クセノフォンは重ねて、トゥキュディデスに尋ねた。「あなたが書きためたこれらの書簡には、史学的な価値があります。あなたはこれをどうなさるおつもりですか、もしよろしければ、これを私にいただけませんか、」と。

トゥキュディデスは自分の手元にも書簡の写しを残しておいたのだ。

トゥキュディデスはあきれた。「どうするつもりだ、こんなものを。」

「出版します。もちろんあなたの名で。あなたの経験は必ず後の世の人の役に立ちます。私があのヘロドトスのように、これを歴史書にまとめてみます。」

「あなたは歴史を書いたことがあるのか。」

「いえ。ありません。ですから今から書きます。あなたはアテナイの民会に立って民衆に訴えようとしておられる。アテナイ人らしいやり方です。でも私は違います。私は、雄弁術は得意としませんが、書物は好きです。私は歴史書を残して、後世の人たちにあなたや私の考えを訴えたいのです。」

トゥキュディデスは笑った。「あなたの好きにしなさい。」

そう言って二人は別れた。


終わり

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トゥキュディデスとクセノフォンの対話 田中紀峰 @tanaka0903

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