市木千尋《いちきちひろ》一部訂正しました

明日から、三泊四日の出張だ。


「いっち。大宮先輩とペアでいいな」


「ラッキーだったわ」


「俺なんか、鴨池先輩だよ。ダルいわ」


「大変だな。」


仕事終わりに、村瀬と飲んでいた。


「あの人、自分の子供の話ばっかで嫌なんだよな」


お前もなって言いたい気持ちを我慢した。


「大宮先輩って、四十だけど子なしだろ?種無しか、嫁がポンコツかどっちだと思う?」


「言い方、酷いな」


「いっちは、知らないだろうけどさ。会社で、子なしはあの人だけだよ。みんな言ってるよ。子供授かれないなら、独身の方がマシだよね。遺伝子レベルでポンコツって事だろ?」


ガンっ…ジョッキを机に置いた。


「ごめん。トイレ行くわ」


何で、酷いこと言うんだよってなんで、怒れなかったんだよ。


洗面所で、顔を洗う。


大宮先輩は、優しい人だ。


なのに、何でそんな風に言われてるんだろうか?


ハンカチで、顔を拭いた。


「ごめん」


「いいよ、別に。いっちは、結婚しないの?」


「興味ない」


「子供は、かわいいよ。俺は、後2ヶ月で会えるのが嬉しいよ」


「男?女?」


「聞かない事にしてるの、嫁さんとね。」


「へー。名前、中途半端になりそうだな」


俺は、焼き鳥を食べる。


「中性ネームな。それで、決めてる。」


「へー。」


「性別なんてさ、産まれてきた子供が決めるんだよ。俺も奥さんも、それでいいと思ってるし。恋愛対象もどっちでもいいと思ってるんだ。」


「村瀬は、ゲイやレズでもいいって思ってんの?じゃあさ、大宮先輩の事言えないよな?だって、そんな子供ならガキは望めないだろ?」


「いっちー。酔ってる?産まれもってそれと…。結婚してからそれは違うから」


「村瀬、俺、明日、早いから帰るわ」


「俺もだ。帰ろう」


お会計をして、店をでた。


嫌み言ったのに、かわされたな。


ダルいわ…。


「いっち、じゃあな。頑張って」


「じゃあな」


俺、大宮先輩庇えなかったな。


家に帰ってからも、ずっと嫌悪感は払拭出来なかった。


次の日、大宮先輩と一緒に新幹線に乗った。


奥さんの事を、大宮先輩は何も話さない。


それが、何故かずっと心地よかった。


一緒の部屋になったのには、驚いてしまった。


男同士だし、まあ、いいよな。


一緒に居酒屋に、行った。


奥さんの事、愛してるんだな。


子供だけが、全てみたいな言い方しないでよ。


大宮先輩………。


ベロベロで、部屋に戻った。


梨寿りじゅ、梨寿」


「はい、はい。つきましたよ」


ベッドに、先輩を置いた。


「水飲みますか?」


「うん」


俺は、水を先輩に渡す。


バシャッ


「先輩、こぼしちゃだめですよ」


「梨寿」


先輩は、奥さんと間違えて俺にキスをしてきた。


酔いが、いっきに回って所々しか記憶は残ってなかった…。


先輩の叫び声で、目が覚めて、俺も驚いた。


シャワーを浴びながら、昨夜の出来事を思い出そうとするけど…。


手繰り寄せられなかった。


ただ、先輩を抱いた。


何となくだけど、わかる。


「梨寿」って、キスをされて、とろけた顔をした先輩に我慢が出来なかった。


自分自身に、嫌悪感が走る。


風呂から上がる。


コンビニで会計をした時に、避妊具が一枚減ってるのに気づいた。


俺は、常に五枚いれていた。


女も男も抱ける俺は、酔っぱらうと性に対して開放的になるのだ。


エロい、抱きたい、そう思うとしてしまう。


だから、俺は常に避妊具を持ち歩いている。


ただ、一枚使用したということはやはり先輩を抱いたということに

なる。


ホテルに戻ると部屋が、別になり助かった。


なのに、先輩は俺を誘ってくる。


部屋にいれてしまった。


興味本位でも構わない、今この人から手を離せば、二度と抱くことは出来ない。


素面しらふで先輩を抱いてしまった。 


「市木、ごめんな。」


全てが終わって、ベッドの上に寝転がる先輩は、そう言った。


「俺が、先輩を抱きたかっただけです。」


「本当、ごめん」


「謝るのはなしです。」


先輩は、奥さんを愛している。


わかるよ。


俺を愛してない事ぐらい。



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