第42話 私だけのトゥルーエンド

「ウンディクラン!」


 今年も組み分けクリケットの声が大聖堂に響く。

 王立グランチャリオ魔法学園に入学した新入生達が各寮へ配属され、五年間の学園生活が始まろうとしていた。


「やった! ウンディクラン寮だわ!」

「なんで? 水属性魔法って最弱なんでしょ?」

「大切な人を癒やせれば弱くてもいいんです」


 場所は変わり、ウンディクラン寮の前に立てられた銅像を見上げながら女生徒が鼻息を荒くして熱弁している。


「ウルティア様は勇者レクソス様のパーティーメンバーでアタッカー、タンク、ヒーラー全ての役割を一人で担い、魔王の側近としても勇者レクソス様を何度も苦しめましたの。でも、その本当のお姿は精霊王の御遣みつかいでしたのよ」

「勿論、その話は知ってるわ。それで没落したナーヴウォール伯爵家が爵位を取り戻したって聞いたよ。まさに"奇跡の貴族"だって」

「大いなる存在である精霊の使者であることをひた隠し、自ら悪役を演じて数百年も続く勇者と魔王の争いを終わらせた聖女様ですわ」


 今年の新入生達もこの学園の卒業生であるレクソスよりも、中退したウルティアの話題をよく持ち出す。

 そして、水属性魔法を扱いたいと言って『マジック・チェンジャー』のレプリカを探す生徒もいるとかなんとか。

 そこまでして水属性魔法使いになりたいとは思わないけど、若い子の考えはよく分からない。



 今日も意気揚々と歩き、教室の扉を開いて教壇に立つ。

 初授業は毎年緊張するけど、この緊張感がたまらなく好きなんだ。


「新入生諸君、入学おめでとう。私がウンディクラン寮の寮長かつこのクラスの担任教師、ティアナ・クワイタスだ。共に学び、楽しくも実りのある一年間にしよう」


 生徒達の自己紹介が終わり、今年も癖の強い子が数人いるな、とチェックしていく。

 さて、私が一番最初にする授業の内容は毎年同じだ。


「では記念すべき初授業だが――」

「せんせー、座学なんてつまんねぇよ! 早く魔法をぶっ放したいでーす!」


 生意気にも私の言葉を遮る彼は実に教育しがいがある。


「ではぶっ放してみようか」


 右手に集まった魔力が凝縮してボコボコと沸騰を始める。


 他の生徒達が青ざめているので、仕方なく魔力構築を止めてあげると先程までの挑発的な目は嘘のように消えて歯を鳴らしながら怯えていた。

 そんなに怖いなら喧嘩を売らなければいいのに。


「四年ぶりの勇者候補生だからと言って調子に乗らない方がいい。あまり素行不良が目立つようなら、ボルトグランデ寮ごとぶっ放すぞ」


 ブンブンと聞こえてきそうな勢いで首を振る彼は隔世遺伝で雷属性魔法を扱えるだけのお調子者だ。

 しっかりと教育して卒業させないと道を間違えるかもしれない。

 今の私の仕事は勇者の卵と魔女見習いを監視し、正しく導くことだ。


「言っておくが水属性魔法は最弱なんかじゃない。最強になりうる可能性を秘めた属性魔法だ。よく覚えておくように。では、記念すべき最初の授業を始める」


 訓練場に佇む片腕の無い西洋騎士甲冑がこちらを睨みつけている。

 それは私の気のせいで本当は二人の魔法使いと二人の人間の視線が向けられているだけだ。


「毎年毎年、初日からなにやってんだよ」

「恐喝は四年振りだからいいんじゃない? 今年はまだどこも壊されてないみたいだし。あんたがしっかりと手綱を握ってなさいよね」

「……すまん」

「いいさ、いいさ。彼女のやっていることは間違っていないからね」


 うるさいなぁ。

 人が授業してるってのに。

 生徒達に断りを入れた私は霧の魔法に紛れて、彼ら四人の隣に移動する。


「なんですか、さっきから。学園長まで集まって」

「いやいや、ティアナ先生は今日も熱心だなって話してたところだよ。じゃ、ボクはこれで」

「オレも自分のクラスを見に行くかー」

「あたしも次の授業の準備しなきゃ」


 散り散りになる友人達を横目に彼が囁く。


「ほどほどにしろよ、ティア」

「えぇ、分かっているわ。それに私は貴方との約束を守っているだけだもの」


 どうかしら、ウルティア・ナーヴウォールさん。

 私はこれからもずっと隠れながら、自分の気持ちにだけは正直に生きるわ。


 これが私のトゥルーエンドよ。

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追加ヒロインかつ隠しボスですが、できることなら隠れていたい~やがて氷瀑の魔女と呼ばれる悪役聖女の私はトゥルーエンドを目指します~ 桜枕 @sakuramakura

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