第6話 エピローグ

 Aさんのお母さんは、娘のマンションの鍵を預かって、取り敢えず婿殿の様子を見に行った。こういう時、地方出身の人は困るわ・・・と不満に思っていた。もし、関東の人だったら、親族が来てくれたりするけど、Bさんには誰もいなかったからだ。


 お母さんが鍵を開けて、婿殿の部屋を覗くと中は空だった。

『あれ・・・寝たきりじゃなかったかしら・・・』

 恐る恐る廊下を歩いて、明るい方へ近付いて行った。

 耳を澄ますと、リビングから若い女性の喘ぎ声が聞こえてくる。

『もしかして・・・浮気してるのかしら』

 ドアからそっと覗くと、そこにはパジャマ姿でソファーに座っているBさんがいた。手元を見るとオムツからは黒い物がはみ出していた。よかった、一人で。母親は安心した。

「もしもし・・・」

 Bさんはギョッとした顔でドアの方を見た。慌ててオムツを履いて、テレビを消した。

「どうも・・・」と、会釈した。

「起きてて平気なの?」

「はい・・・すみません。お見苦しい所をお見せして」

 Bさんは穴があったら入りたいほど、小さくなっていた。

「いいのよ・・・浮気してるのかと思ったけど、Bさんが一人でほっとしたところだから」

「はぁ。お母さん、どうしてここに?」

「聡子が入院して・・・博之さんが寝たきりだからって心配してたから来てみたの」

「そうですか・・・今、お茶入れますから・・・待っててください」

「いいの。病人なんだから、気を遣わないで」

 Bさんは姑が意外といい人だなと思った。

「いや・・・僕からもちょっとお話したくて・・・」


 Bさんは、姑に今までのことを話した。それによると、Bさんは、Aさんが薬を盛っていることに少し前に気がついたそうだ。薬がだんだん効かなくなって来ていて、夜中にAさんがやって来て注射を打つこと、その後から急に体調が悪くなることがバレていたのだ。


「でも、すごく頑張って世話してくれるし、『薬盛ってるだろう!』って言えなくて。それに、働きに行かなくても家にいられる生活っていうのが楽なので・・・」

「娘がとんでもないことをして、ごめんなさい。離婚しないであげて」

 お母さんは土下座して謝った。

「いいんですよ・・・私も離婚を申し入れたりして、随分酷い夫でしたから」

「でも、仕事もやめちゃったんでしょ・・・」

「大丈夫ですよ。昼間、株式投資もやってますから」

「じゃあ・・・」

「悩んでるんです。これからどうするか・・・子どもはかわいいし。僕ももう50だし・・・。今さら離婚してどうなるものでもないし」

「夫婦のことだからね・・・これからどうするかは2人で決めてちょうだい」

 お母さんは何も見なかったことにして、そのまま帰ることにした。

 

 お母さんが出て行ってから、Bさんはまたエッチ動画を再生した。嫁が帰ってくるまでに早く・・・あ、そうだ、今日は帰って来ないんだ。子どもたちは、嫁の実家で預かってくれる・・・。

「こんな楽な生活やめられるわけない。まあ、せいぜい頑張って」Bさんは呟いた。

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仮面夫婦 連喜 @toushikibu

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