第2話 冒険者ギルド

「はぁ、はぁ……ここが冒険者ギルドですか? 屋敷の二十分の一もないんですね」


 カノンは疲れ果てた状態で、冒険者ギルドにたどり着いた。

 基本的に馬車移動で、パトラッシュの散歩も屋敷の庭で十分だった。

 お嬢様には散歩も重労働になる。


「おいおい。せめて犬は外に繋いでくれよ」


 酒場と宿屋を合わせた三階建ての木造建物に入ると、40代の男が苦情を言ってきた。

 食事中なのに、ボロ服のカノンと犬は勘弁してほしかった。


「すみません。どこに繋げばいいんですか?」

「おい聞いたか? どこに繋げばいいんですかってよ」

「ぷっははは! 来る店間違えてんじゃねえのか」


 カノンが上品に謝ると男に聞いた。他の男達が珍妙な少女に笑い出した。

 ボロ服を着ているのに、物腰や口調だけが上流階級の令嬢みたいで変だった。


「パトラッシュ、良い子に待っててね」

「クゥーン」


 男に馬小屋の場所を教えられると、空いている場所にパトラッシュを座らせた。

 首輪まで没収されたから、首輪の隙間にロープを通すことも出来ない。


「あの、こちらで泊めてもらえると聞いたんですけど……」

「はぁ? ここは冒険者専用の宿屋だ。一般と浮浪者はお断りだ。他所の宿屋を探しな」


 再び建物に入ると、小さなカウンターに座る30代後半の男に聞いた。

 ギルド職員の男はカノンの服装を見て、失礼な態度で断った。


「お金ならあります」

「これっぽっちじゃ一日で無くなる。最安値のうちでも、飯抜き一泊で500ギルドだ」


 カノンがカウンターに置いた全財産2500ギルドを見て、職員は呆れた。

 街の安い宿屋でも一泊1000ギルドはする。

 泊まる所を気にするよりも、食事代に使った方がマシな金額だ。


「親切な人に、ここなら泊めて欲しいとお願いすれば、面倒見てくれると聞いたんですけど」


 困った顔でカノンはもう一度聞いた。ここ以外に頼れる場所を知らない。

 金貸しの男は、男冒険者に女として面倒見てもらうように紹介した。

 だけどギルド職員の男は勘違いした。


「ん⁇ もしかして冒険者になりに来たのか?」

「その冒険者さんになれば、面倒見てくれるのですか?」

「いや、面倒は見ねえよ。仕事を紹介して、上の宿を利用できるぐらいだ。まあ今は全部部屋が埋まっているから、相部屋になるけどな」


 宿屋は二、三階になる。男性率100%という男臭たっぷりの宿屋だ。

 女冒険者は普通に、宿屋か安い貸家を女パーティで借りている。


「お嬢ちゃん困っているみたいだな。俺の部屋でよかったら、タダで泊めてやるよ」

「えっ! いいんですか?」


 困っているカノンを見ていた男冒険者が、チャンスと思って近づいて来た。

 親切そうにしているが、下品な下心しか持っていない。


「グゥヘヘヘヘ♪ ああ、いいぜ。冒険者のことを色々と教えてやるよ」

「おいおい、抜け駆けするなよ。俺の所に泊まりなよ。食事も食べさせてやるよ」

「この二人はやめておいた方がいいぜ。一日で追い出されるだけだ。俺の所にしな」

「えっと、えっと……」


 突然の大人気にカノンは混乱した。

 取り囲んでいる男冒険者の誰を選んでも、乙女の貞操のピンチだ。


「うるせいなー。おい、女。お前の武器は何だ?」

「はい?」


 誰が部屋に連れ込むか冒険者達が争っていると、錆色の髪、褐色の肌の青年がカノンの前に現れた。

 不機嫌な青年に武器を聞かれたが、カノンは意味が分からずに首を傾げた。


「何だよ、武器も持ってないのに冒険者になるつもりか。案内してやるから付いて来い」

「あ、はい。お願いします」

「あの野朗っ~!」


 獲物を横取りされた冒険者達の怒りの視線も気にせずに、青年はカノンの腕を引っ張って外に連れ出した。

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