第11話 竜と人間の子供

コロン


何かが落ちた音が城中に響き渡る。


海斗が落としたのはスマホだった。


海斗を倒さずに鍵を取る方法。


「これしかない……」


私は自分のスマホから記憶のカセットを10枚抜いた。


記憶のカセットを抜けば、勿論自分の思い出した記憶のどれかを無くしてしまう。


何を忘れるかはランダム。私が忘れたのはお父さんの事だった。


それでも海斗に記憶を取り戻してほしい。


そう思い、海斗のスマホに私の記憶のカセットを入れた。海斗のスマホに現れたのは私の姿だった。


「海斗、私を思い出して!!」


海斗はスマホに写った私の写真を見て少し顔が青ざめていた。


「真澄、、」


私達は抱き合った。その間にこっそり鍵をポケットから取った。


「もう居なくならないでよ……」


「分かった……」


海斗の唇が私の唇に触れた。


これって……キス!?


初めて男の人にキスをされて私の体は震えていた。


海斗の唇は温かった。唇が離れると


「来てくれてありがとう……」


そう言ってくれた。


「うん。それより無限転生って何なの?」


「転生は基本的に2回しか出来ない。でも、2回した人でももう1度転生できる薬を作った研究者が地下で捕まってるんだ」


「その薬を飲んだの?」


「うん」


「でも、何で海斗がその薬を持ってるの?」


「……実は昔、僕は初代ヴィラン女王に助けられたんだ」


「え……」


海斗は全てを語ってくれた。




僕はワイバーンと人間の間に産まれた子供。


ワイバーンがお母さんで名前はクロウ。


人間のお父さんの名前はケン。


この2人の名前を取ってクロンと名前が付いた。


でも、ワイバーンの血はあまり受け継がれず、どちらかというとお父さんの血が受け継がれた。


その結果人間として生きることになった。


そんなある日、お母さんとお父さんが喧嘩をしていた。


「何で私の血が受け継がれてないのよ!!」


「そんな所に怒っても仕方ないよ!!」


「私にひとつも似てない……。あいつは私の子供じゃないわ……」


「俺たちの子供だろ!!そんな事言うなよ。これから育てていけばいつかお前に似るかもしれないだろ」


「もうあの子供はあなたに任せます……。あなたと結婚したことを今でも後悔しています。もう別れましょう」


「どうしてそうなるんだよ!!俺はお前の事が好きなんだよ……」


「私は全て知ってますよ。あなたには好きな人がいることを……」


「居ないよ。お前だけを愛してる……」


「それなら、この写真は何ですか?」


お母さんの手元にはお父さんのスマホがあった。


そこには人間の女の姿があった。


「あなたの記憶の中にはこの女の人が居るんですよね?」


「その女は……私の、、姉だよ……」


「嘘つき……。そうやって誤魔化すなんて最低。私はずっとあなたを愛してたのに……。もう大嫌い」


「ちょっと待ってくれよ……」


「サヨナラ……」


そう言ってお母さんは家を飛んで出て行ってしまった。


それから3日後、空は突然暗くなり、豪雨が起きた。


その中現れたのは正気を失ったワイバーンだった。


レベルは100。


町中を暴れ回り、世界中を脅かした。


「クロン、絶対に家から出るなよ。今、ワイバーンが暴れてるらしいから……」


「ねえ、あれお母さんだよね……」


僕のお母さんには大きな特徴があった。それは赤い目だ。お父さんもその事には気づいていた。


「俺が全て悪いんだ」


それだけ言ってお父さんは豪雨の中、外に出て行った。


それからお父さんは帰ってこなかった。


この時、まだ僕は5歳。1人で生きていくなんて出来ない。


ピンポン


インターホンが鳴り響き、中に入ってきたのが1人の女の人だった。


「こんにちは。私はヴィラン。あなたを助けに来たの」


僕はヴィラン女王に保護され、ヴィラン城で過ごす事になった。





「ねえ、さっきまで記憶が無かったのにどうしてそんなに記憶を取り戻したの?私が記憶のカセットに入れたのは10枚だけだよ……」


「バレたか……。ごめん。第3代ヴィラン女王に記憶喪失を演じろって命令されてて……」


「今もヴィラン女王に従ってるの?」


「うん。従わなかったら来世は無いと言われてるから……。僕、怖いんだよ。死ぬのが……。来世があると分かると少しだけ気が楽になるんだ」


「そうなんだ……」


海斗は胸ポケットから小さいノートを取り出して、何かを書いて、ポケットにしまった。


「だから記憶のカセット返すよ……」


「ありがとう」


記憶のカセットを返してくれたおかげで再びお父さんの事を思い出した。


「お父さんを助けに行かないと……。海斗も一緒に来てよ」


「ごめん、今は1人にさせてほしいんだ」


何かあったのかな……。


そんな事を思いながら、私は地下に向かった。


地下ではお父さんが捕まっていた。


〔現在の記憶のカセットの枚数 30枚〕

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