第4話 蘇る記憶

蘇った記憶。それは中学2年生の時の記憶だった。


中学2年生の4月。私と海斗との出会いは病室だった。私が骨折をして、入院していた時、その隣のベッドにいたのが海斗だった。


海斗は私に話しかけてくれた。


「あなたの名前は?」


「私は真澄。あなたは?」


「僕は海斗。よろしく。真澄さんは骨折ですか?」


「はい。海斗君は?」


「僕は小さい時からずっと入院してて……」


「病気なの?」


「うん。医者からももう1年は生きられないって言われてるんだ……」


その話を聞いた瞬間、私は怖くなった。もし、急に隣のベットにいた人が居なくなったら。


そんな事を考えてしまった。


でも、今の医療技術は凄い。


「大丈夫だよ。絶対に治るよ」


「ありがとう……」


それから毎日、海斗とどうでもいい話で盛り上がった。


それから時が経ち、6月。


突然、海斗は私の隣から居なくなった。


「真澄さん、今日が退院の日ですよ」


看護師に言われた。私の骨折は治り、退院する事になった。


「海斗はどこに行ったの?」


「海斗君は大きな病室に移動したの……」


「そんなに病気が深刻なんですか?」


「うん……」


「あの……退院する前に海斗に会わせてください」


「良いよ」


看護師は海斗のいる大きな病室に連れて行ってくれた。病室に入ると、海斗が静かに寝転がっていた。


「海斗、大丈夫?」


「うん……。大丈夫だよ」


「私、今日退院するの……」


「おめでとう。僕も早く退院したいの」


「ねえ、退院したら私と一緒にどこかに行こうよ」


「もう治らないよ……。僕はもう死ぬんだ」


「お願い。私のために生きて。だって私は、海斗のことが好きだから……」


「ありがとう……。頑張るよ」


「また必ずどこかで会おうね。約束だよ」


「うん」


でも、それが海斗と話した最後の言葉だった。その翌日、病院から入った1本の電話。


「海斗君は静かに眠りにつきました」


その瞬間、私は膝から崩れ落ちた。私は好きだったのに……。


そして、海斗は今、クロンとして私の前に現れた。もう1度海斗に会いたい……。


私はさっき来た道を戻るように走って行った。


お願い……。無事でいて。


私の足は止まった。目の前にゴブリンが5体並んでいた。


1体で反動ダメージが大きかったのに……。


レベルは全員10。回復の薬は2個しか持っていない。全体攻撃出来るのかな……。


「敵全体に炎の魔術!!」


魔法の杖に力を込めると炎は横に広がり、ゴブリンを全員一撃で倒す事に成功した。


でも、反動は今まで以上に強かった。体力はもう無い……。


回復の薬を2個使って全回復した。


記憶のカセットを7枚落としてくれたので、スマホの穴に差し込んだ。2枚目の写真が見え始めた。


また誰かの顔の写真。上半身が写っていた。胸の膨らみは無いことから男だと考えられる。


それより、早くレベルを上げて、反動ダメージを減らしていかないと……。


もう回復の薬は持ってない。それでも、クロンに会うためにまた走り出した。


「クロン、お願い。生きてて」


そう叫びながら森の中を走り回った。


ガサッ


「やっと見つけたよ……」


さっきクロンと戦っていたレベル60の【剣士】だ。


「クロンは無事なの?」


「ああ。この先の切り株で眠ってるよ。この森では倒れて2時間経つと消えるらしいから。早く行ってあげなよ。もう1時間30分は経ってるぜ。まあ俺を倒してからだけどな……」


あと30分しか無い……。目の前にいるのは最強の【剣士】。


「あなたは何者なの?」


「俺はアーサー。10年間、この森に閉じ込められているんだよ。やっと……。やっと……【魔法使い】に出会えたんだ。こんなチャンスもう2度と来ない」


アーサーは剣を強く握って私の所に近づいてきた。アーサーの体力は残り半分。


きっとクロンが半分削ってくれたんだ……。タイムリミットは30分。


〔現在の記憶のカセットの枚数 17枚〕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る