第4話 追放されてた!


「ライト! すまなかった! パーティに戻ってくれぇぇ!」


 は? 土下座?


 部屋に入った瞬間、短髪の青年に謝罪された。


 わけわからん……。


 とりあえず、こいつを調べておくか。


 ピコン♪


『 キッド 男性 24歳 剣士 』


 ふぅん、剣士で、みっつ年下か。

 赤の鎧で、装備をまとめている。


「ライトが戻ってくれなきゃ、スゥイもミナもパーティを抜けるっていうんだ! 助けてくれー!」

「は?」 


 知らないよ、そんなことっ!


 ん?


 部屋には円卓があり、キッドの他にふたりの女性が座っていた。

 じっとおれを見つめている。

 

 どどどどど、どうしよう?

 

 複数の女性から見られることに、慣れてない。

 

 とりあえず、彼女たちを調べておくか。


 ピコン♪


『 スゥイ 女性 20歳 武道家 』


 ピコン♪


『 ミナ 女性 21歳 魔法使い 』


 ……!?


 コスプレか? ふたりの装備がエッチすぎる。

 ナイスバディのスゥイは、チャイナドレスみたいな防具。

 まるで格ゲーに出てきそうだ。

 一方、幼児体型のミナは、セーラ服みたいな防具。

 スカートがとても短い。プリキュアかな……あはは。


「聞いてよライト! キッドったらひどいのよっ!」


 ミナは、ぷんぷん怒っている。

 ゆれるツインテールが、可愛い。


「セックハラしてくるよ~」

 

 発音が中華系なのは、スゥイだ。

 腕を組んで、おっぱいを強調させてくる。


 デカっ!?


 こんなに胸の谷間みせてたら、セクハラされるよ……。

 一方、土下座しているキッドは、チラッと顔をあげた。


「だから、ごめんって……」


 ガタッと立ち上がったミナは、くびれた腰に手をあてる。ツンツンしてるなぁ。


「キッドったら、宿は相部屋にするし、お風呂はのぞくし、戦闘中のどさくさにスゥイのおっぱいは揉むし……もう最低っ!」

「ライトがいたときのキッド、こんなセックハラしてこなかった。ライト、戻ってくるがよろしい」


 にっこりと笑うスゥイ。

 どうやらライトは、パーティのお父さん枠だったようだ。

 ミナは、おれの顔を見て瞳を潤ませている。

 

 ふぅんなるほど、だいたい追放された経緯がわかったぞ。


「あの……キッドくん、とりあえず立とうか……」

「え? ライト……追放したこと、怒らないのか?」

「いや、怒るっていうか、ちょっとみんなに聞いてほしいことがあるんだ」


 ?


 キッド、スゥイ、ミナは、きょとんとした顔をする。


「おれ……ライトじゃないんだ!」

 

 !?


 キッド、スゥイ、ミナはいっせいに話しかけてきた。


「どうしたんだライト? なんか、やけに優しい口調だな……逆に怖い」

「頭でも打ったか?」

「ライト! あなた腰にダガーなんて装備して……それ、なつかしいわぁ」


 微笑むミナは、赤くなった顔に両手をあてる。


「ほぉ~! このダガーは魔法学校卒業したときにもらった武器ね~」

「ライト! まだ持ってたのか~ひさしぶりにみたぞ」

 

 スゥイとキッドは、ぐいぐいとおれに近づいてきた。

 ミナの洞察力は鋭いようで、おれのことを真剣な顔で観察してくる。

 

 この女の人、めちゃ見てくるんだけど……。


「ライト……あなたレンズは?」


 レンズ? とおれは聞き返す。

 ミナは、こめかみに指をあてた。

 透明だが、なんとなく小さな円形の機器が見える。


「ギルド冒険者がレンズを持ってないなんて致命的よ? どうしたのライト?」

「ライト……俺が追放したばっかりに、頭がイカれたか?」

「レンズを忘れるなんて、おバカね~ライト」


 はい?


 ぜんぜん話がわからない。

 っていうか、まずおれの話を聞いてほしい。 


「聞いてくれ! おれはホシノマコトっていう名前で、地球って星の人間なんだ! どうやら転生したっぽい」


 ぽかん、とするキッド、スゥイ、ミナ。

 

「テンセイって……なんだ?」

「お菓子か?」

「キッド、スゥイ……あなたたちアホね。転生とは、生まれ変わりってことよ」


 おお!


 ミナだけは、論理的に考えてくれそうだな。

 

「し、信じられないけど……あなたはマコトって名前の異世界の人間なのね」

「ああ、そうだ!」

「ふぅ~リンカちゃん怒るだろうなぁ……」

「え? リンカさんのこと知ってるの?」

「もちろん! リンカちゃんは友達よ」

「そうなんだ」

「あなた……本当にライトじゃあないのね……」

「うん」

「レンズは忘れる! ダガーを装備してる! その優しすぎる口調! やれやれ……転生した事実を受け入れるしかなさそうね」

 

 ミナは、こめかみに指を触れた、その瞬間……。


 ブンッ!


 いきなり画像が浮かんだ。

 おれが使えるARと似ていた。

 しかし、みんなこの画像が見えているらしい。

 ミナは画像に触れて、何やら操作している。


「ライト……いいえ、マコトさん」

「は、はい」

「よく見てて」


 ピッ!


 !?


 いきなり、空中に杖が出現した。


「わっ! な、なんだこれー!?」


 おれはびっくりして、大声を出してしまう。

 演技なんかじゃない。

 キッドもスゥイも不思議そうな顔をして、おれを見ていた。 

 ミナは、杖を持ちあげてふり払い、浮かんでいる画像を消す。


「亜空間に物質を保管する魔導技術よ……この世界では常識だわ」

「うわぁぁぁ、リアルで見るとすごいな! 異世界やばぁぁぁ! なんでも保管できるのかな? 生き物は無理とか、重量や体積の制限があるのかな?」


 ピコン♪


『 レンズ 保管容量は魔力に比例する 生命体は不可能 』

 

 ARの説明だ。


 うーん……。


 やっぱりこの拡張現実は、みんなには見えないようだ。


 このことを話しておくべきだろうか?


 いや、まだやめておこう。話が複雑になりそうだ。

 見えないものを説明するのは、ややこしい。

 ミナは、杖を亜空間に戻した。

 

「す、すげぇ……」

「マコトさん、感動しているとこ悪いけど、もうランチの時間よ。話は食べてからにしましょう」

「え? もうそんな時間?」

「10時がランチタイムなのよ」

「そうなの?」

「惑星アトラスの1日は20時間」

「短っ! 地球は24時間あったよ」

「へぇ……チキュウって星とは、太陽の周期が違うわけね……」


 あっ! と叫ぶスゥイがミナの肩を叩く。


「ミナー! 今日はラーメンを食べにいく約束よ~」

「そうだったー! じゃあ、そういうことで!」


 ふたりは出て行こうとする。

 しかし、キッドが扉の前に滑り込んで、通行止めにする。

 

 スライディング土下座かっ! 


「ライトじゃないかもしれんが、とりあえずパーティーに戻ってくれー!」

 

 いいけど、とおれは答えた。

 

「やったぁぁ! じゃあ、スゥイとミナ、これからもよろしく!」


 喜んだキッドがふたりに抱きつこうと、両手を広げて突進した。

  

 サッ!


 しかし、ふたりともキッドをかわした。

 笑顔のままのキッドは、ブワッと滝のように涙を流す。


「ぐっ……俺の何がダメなんだぁぁぁ!」


 逆に、ぐいぐいとおれに近づいてくるミナとスゥイ。

 にっこりと笑った顔は、まるで天使だ。


「まぁ、身体はかっこいいライトのままだし……まいっか! ああん、ひさしぶり~」

「え?」


 いきなり、ミナはおれの腕に抱きついてきた。

 

 な、なんだこの展開は?


「おまえのこと、なんて呼んだらいいか? ライトのままでいいか?」


 スゥイはそう尋ねながら、もう一方の腕にからみついてきた。

 おっぱいが……おっぱいがあたってる!

 

 わぁぁぁ! 


 か、身体があつい……。

 生まれて初めて、モテてる……。


「そうね、他の人からあやしまれると面倒だわ。ライトと呼びましょう……ん? 顔がまっかね……やだ、可愛い」

「ほぉ~これはこれで、ありよりのありー!」


 ちょっ、あんまり顔を見ないでほしい。

 

 現実世界でモテたことのないから、堂々としていられない。

 いつものライトなら、どうしていたのかな?


 おれは、ミナとスゥイに腕をひかれ、部屋を出ていくのだった。

 後方からキッドの声が聞こえる。


「ま、待ってくれー!」

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