14

「……え」

 するり、と緩んで離された手にひのきの棒が声をこぼす。

 魔王の頭を肩にのせ、抱きしめる王の体が膝から床に崩れ落ちた。両者の胸を貫く二種の剣から血がしたたり落ちる。

「王様……?」

 口と鼻から血をこぼし、息が音を立てた。王のローブの肩がじわりと濡れていく。

「や、だっ。だれ、か……かいふく、を」

 血と涙でぐちゃぐちゃになった顔を必死にあげて、魔王はかすれた声で叫ぶ。王はその背中を、震える指先でそっと撫でる。

「もう大丈夫」

 床に血がどくどくと広がっていく。

 魔王が細い呼吸の中で嗚咽を漏らした。血に濡れた手がローブの端に当たる。


 震える手は少しづつ下がっていき、床に広がる血の中に落ちた。





「ほら、終わりました」

 城下町に群がっていた魔物が一斉に空へ飛び立つ。














 優雅なメロディーの流れる玉座の間。

「おお、よくぞ参った勇者候補よ!」

 玉座の前に膝間づく少年に、冠を被った王はローブのポケットから小銭袋とひのきの棒を取り出した。

「そなたに100Gとひのきの棒を」

「あ」

 勇者候補が顔をあげる。

「いらないです」





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王様「そなたに100Gとひのきの棒を」ひのきの棒「待った」 伊藤 黒犬 @itokuroinu

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