04

 砂をまき上げ巨大な角を持った魔物が座り込んでいた兵士へと突進してくる。

「避けろっ、危ない!」

 さっと立ち上がり魔物を避ける兵士、その勢いのままに剣を思い切り魔物に突き立てようとするが振り払われて波打ち際へと放り投げられる。

「おい、大丈夫か!」

「こっちは気にすんな、お前はそっちをどうにかしろ!」

 なぎはらうように振りかざされる魔物の爪からどうにか身をかわす兵士。前を向き、回復魔法をかけて回っていた兵士はくらむ頭を叩く。

 その背後に迫る魔物の牙。

「火炎魔法っ!」

 魔物は炎の勢いに転がっていく。体を覆う毛が燃え上がった魔物は顔をしかめ、腹を震わすような低い唸り声を上げる。

 手を引いて魔女は兵士の方を向く。

「大丈夫? ごめん、回復魔法は使えないの」

「あんたのおかげで助かった。総務さんたちの方を守ってくれ」

「もっちろん、任せといて!」

 海岸の木の方へと駆けつける。その片腕には引っかかれた跡があり、じわりと滲む血に魔女はあちゃぁとこぼす。


「先生、あれはなんなんだ」

 魔物の挙動をじっと見ていた男だったが、苦い顔をして歯を食いしばる。

「分からないが、強さが尋常じゃない……魔王軍の隠しダネか」

「ちっ。狙われてたってことかよ、うかつだったな」

 剣を構え、鎧をまとった髭の男が魔物を睨みつける。

「総務、あんたは帰った方がいい」

「……しかし、このままでは兵士が」

「あんたにどうこうできるなら俺がとっくにどうにかしてるさ。いいから帰れって」

 砂を蹴り、兵士を襲う魔物へと剣を手に突撃する。その瞬間魔物は方向転換、総務達の方へと迂回して駆け出した。あ、と鎧の男は引き返す。

「火炎魔法!」

 再び炎が魔物に吹き付けるも魔物は頭を振ってそれを飛ばす。一瞬後ずさるも、総務は握っていた剣を構え戦闘態勢に入る。

「おいっ、逃げ」

 鎧の男が言い切るより先に、魔物の頭上に影が浮かぶ。


 轟音と共に魔物の叫び声が響いた。

 砂埃が舞い、総務は目を細める。バランスを崩した一角の魔物が足を引きずって、持ち上げた顔で素早く食らいつく。


「ほう、確かに強い気がしなくもないの……戦ったことないのじゃが」

 王様は華麗に攻撃をかわした。

「やっぱり王様が勇者で間違いないな。俺も本気出」

「陛下!? な、早く隠れてください!」

 総務の大声に王は振り向く。その後ろで足を起こした魔物が王目掛けて爪を振った。

 だが飛びのいた王はそのまま振り返ってひのきの棒で魔物の頭を殴りつける。攻撃は命中し、魔物はくるっと白眼を向いて砂の上に突っ伏した。



 砂浜に静寂が残る。

 ……が、すぐに歓喜の声が砂浜中を包んだ。

「ありがとうございます、助かりました!」

「感動しました。しかし王、どこでその技術を」

 鎧の男に問い詰められ、あー、と王はひのきの棒を素早くポケットに押し込んで歯切れの悪い相槌を打つ。兵がいっせいに駆け寄り、入りそびれた魔女は王のいる方を茫然と眺める。

 賑やかな中で囲まれている王の手を、総務がとった。

「陛下。怪我でもしたらどうするんですか」

 王は顔を上げ、不安そうな表情を浮かべる。

「回復魔法を使うが……総務、主こそ顔色が悪いではないか」

「そりゃあ……はぁ、もっと一国の王としての自覚を持ってください」

 持っておるが、と呟く王の肩をどんと鎧の男が叩いた。思わずバランスを崩しかけるも、無事体勢を整える。

「心配性なんですよ。王が強いのは分かったがほどほどにしてやってくださいな」

「おい叩くな、それに転んだりしたらどうするつもりだ」

「この程度大丈夫だっつの」

 鎧の男を鋭く睨みつける総務と、笑っている鎧の男。わらわらと兵士達がばらけ初め、傍で突っ伏している魔物について話し合っている。

「なんつーか、心配性というよりモンペだな」

 で、とひのきの棒がポケットから王に声をかける。

「実力も分かったことだし、いっちょ魔王倒しに行かない?」

「行かぬぞ」

 小声で、しかしはっきりと王は返す。





 ついに城から旅立った王。

 伝説の剣を手に魔王城を目指す王の冒険が今、幕を開ける! 


 次回、

 『王様、冒険の旅に出る』


「予定を捏造するのはやめるのじゃ」

 ひのきの棒のナレーションにすかさず王が否定する。

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