第30話 幼馴染の初お泊まり①
その日の夜、時刻は既に9時を過ぎた所だった。
「……え? 今からこっち来るの? 何で?」
『何でって、行っちゃ駄目なの??』
突然スマホに姫子から電話がかかってきたので、とりあえず通話を開始してみたんだけど、何故か姫子が今から俺の家に行くとか言い出してきた。
「いや別にそんな事は言ってないけどさ。 でももう夜遅いじゃん? 姫子一人でこっち来るとか危なくね?」
(一応)姫子だって女子なんだし、こんな時間に一人で歩くのは痴漢とか危ないんじゃねぇかと思ってそう言ってあげた。
『あはは、何言ってんのよ? アンタと違って私は女なんだから別にこれくらいの時間に外歩いてても何も起きないわよ』
「え? ……あー、そっか」
そういや色々と逆転してるんだっけか。 確か前にも不審者が現れたって聞いたけど、それも痴漢じゃなくて痴女だって姫子言ってたもんな。 じゃあ、まぁ夜遅くに姫子が外を出歩いてたとしても問題とか無いんだったら別にいいか。
『そっかって何よ?』
「あぁ、いや何でもないよ。 まぁそれなら別に来てくれても全然構わないんだけどさ、でもこんな夜遅くに何の用なんだ?」
という事で俺は一番気になってる理由を聞いてみた。 何か大変な事でも起きたのかな?
『あぁ、えっとね、親戚の農家さんから収穫したての野菜が送られてきたからさ、アンタにもおすそ分けしてあげてってお母さんから言われてさ。 アンタ料理得意でしょ? 良かったら料理する時に使ってよ』
「え、本当か? いやそれはめっちゃ嬉しいな」
自炊をしてる身としては食材のおすそ分けはかなり嬉しい話だった。 姫子のご両親は元々北海道に住んでいて、親戚には農家さんがとても多いんだ。 それで、これまでも姫子のご両親から野菜とかお米とかを時々頂いていたんだけど、毎回本当にとても美味しかったので、今回のおすそ分けにも期待大だ。 でも……
「でも用事がそれなら別に今日姫子が届けに来なくてもよくね? それに結構重かったりするんじゃないか? それだったら土日に俺が姫子の家に取りに行くぞ?」
『いや何言ってんのよ。 せっかくの取れたて新鮮の野菜なんだから早く食べてあげなきゃ勿体ないじゃないの。 重さもそこまでだし全然問題無いわ。 って事で今からそっち行くからね』
「うーん、まぁそこまでいうなら別にいいけど」
こうなった時の姫子はもう何を言っても聞く耳を持たないから、もう俺はつべこべ言わずにさっさと同意する事にした。 だってこれが一番平和なんだもん。
(うーん、でもこんな夜遅くに姫子がこっちに来るって初めてじゃないか?)
元の世界だったらあり得ないシチュエーションだよな。 だって元の世界だったらこんな夜遅くに女の子一人で出歩くような行為をするわけないもん。 でもこれってつまり……姫子とも距離を近づけるチャンスってことか? それなら姫子ともワンチャンを狙っている俺としてはこの機会はちゃんと大事にしなきゃだな。 よし、それじゃあ……
「あ、でもさ、今からこっち来るとさ、帰るの結構遅くなるんじゃね?」
『え? うーん、まぁちょっと遅くはなるかもだけど……まぁでも別に心配する程じゃないでしょ』
「いやいや、そんな事はわからないじゃん? もしかしたら電車が止まる事だってあるじゃん?」
『い、いやそんな事は流石にないと思うけど」
「まぁまぁ、そこはそんなにツッコまないでくれよ。 じゃあ、まぁ大きな荷物持って俺の家に来るのって結構疲れるだろ? その後に自分の家にまた帰るのって大変だよな?」
『う、うーん、まぁそれは多少は思うかもしれないけど……?』
「だろ? そうだよな? それじゃあさ……良かったら俺の家に泊っていけば?」
『え……えぇっ!? な、何言ってんのアンタ!?』
俺の家に泊れよと提案してみたら、姫子はビックリしたような大きな声を出して来た。 いやこんなにも大きな声を出す姫子は見る(聞く)のは久々かもしれないな。
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