決死の覚悟6

「来やがったなガキ」


 シフィエスさんの家に命からがらたどり着くと、いけ好かない青年が待っていた。


 その傍らには獣人の少女、マリエスの姿も見える。冴えない表情が気にかかる。


「えっと、シフィエスさんと母さんは……」


 青年はめんどくさそうに答えた。


「死んだ」


「えっ……?」


「だから死んだって言ってんだよ」


 サギカの言葉の意味がわからずに、言葉の意味を反芻する。

 しんだ?


 それは亡くなったと言う意味なのか?


 めちゃくちゃに強いと聞かされていたあのシフィエフさんが?崖から落ちても何事もなくケロッと起き上がって来そうなあのシフィエスさんが?……それに母さんも?


「ロウエ!」


 今にも泣き出しそうなマリエスが僕にすがるようにしがみつく。


 がっちりと僕の服を掴んだ手は震えていた。


 見つめ合ったマリエスの瞳は涙で潤んでいる。


「……なにがあったの?」


「ごめんなさい。ロリエッタさんは私を守ろうとして……私がもっと早く逃げていれば」


 そう言ったあと、マリエスは膝からガクリと崩れ落ちた。


 続けてサギカが口を開く。


「相討ちだ。ロリエッタの奴、魔消薬を服用していたんだってな。そんなバカな事をしていなければ死なずにすんだろうに」


 もはや頭に言葉は入ってこない。ただ素通りしていくだけだった。


「シフィエスは街の子供を庇おうとして白銀に子供もろとも食われやがった。だらしねえ弟子共だよ。本当に情けなくなるね。自分の力を過信した結果だな」


 サギカはただただめんどくさそうに言葉を続ける。二人の弟子を失ったはずなのに全く悲しそうな素振り一つ見せない。


「……とりあえずだ。お前らだけを連れて中央へ行く。なかなか見どころがありそうだしな」


 サギカは僕達に向かって右手を伸ばす。その右手は怪しく紫色に輝いている。


「……ちょっと待ってください。他の街の人々はどうなるんですか!?」


「そんなの知ったこっちゃないね。相手はシフィエスとロリエッタの魔力を吸った複数の白銀だぞ。そんなの命がいくらあっても足りねえよ」


「そんな!あなたが子供たちを助けてくれ━━━━」


「ちょっと、黙ってろ」


 言い終える前にサギカの右手から放たれた光が僕とマリエスを包み込む。


 その瞬間、眠気なんて一切無かったはずなのに、意識は途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

完全魔術主義世界のオワコン剣士 さいだー @tomoya1987

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ