第25話 警告
中層。入り口付近。
深淵の遣いさんに助けられた僕らは、彼女のスキルで作った結界の中にいた。
「ありがとうございます。助けてくれて」
「いえいえ。もし、あなた達が殺されていたら大問題になっていましたから」
「あの。深淵の遣いさんは雪芽さん達と知り合いなんですか?」
その問いに対して彼女は首を横に振る。
「じゃあ、なんで僕達の事を知っているんです?」
「ダンジョン内で噂をよく聞くもので」
「噂ですか?」
「浅層では人間達のダンジョンに対する介入が強くなってきていること。そして中層も同じようにしようとしていることも」
と言う。
「なにか行けないことですか?」
「ええ。その件で警告したいことがあってここまでお呼びいたしました」
「警告?」
「はい。あなたにはモンスターとの交渉を止めていただきたいのです」
「お互い悪い話ではないと思うんですけど……」
「ダンジョンのバランスが崩れるからです」
「生態系には配慮しますよ」
深淵の遣いは首を横に振る。
「それより遥かに根本的な話です。ダンジョンとは巨大なからくり装置のようなものですから人間が手を加えるとそれが狂う可能性がある」
「人間が手を付けたらダンジョン自体が狂ってしまうと?」
「はい。それが行き過ぎてしまえば、我々にも、あなた方にも手が負えないモンスターが生まれてしまうことでしょう」
「それは考えたことがなかったです」
「このダンジョンの仕組みを知るのは深層に住む者だけですから仕方ないことです。しかしこの意味を理解したなら諦めて欲しいのです」
「けど。この交渉が成功しなければ人間達がダンジョンブレイクを閉じようとしてくるんです」
「それなら我々深層の者と手を組み、人間に攻撃を仕掛けましょう。あなたも人に対して良い感情を持っていないでしょう?」
「最初から見てたってことですか」
「はい。我々深層の者達の戦力は雪芽、沙羅、ヴェノムスパーダの三人より遥かに高い。人間をここに近づけさせなくすることくらいは容易いでしょう。交渉を打ち切り、我々に協力するというのならば相応のポストと安全を保証いたしましょう」
深淵の遣いさんに協力することにメリットはありそうだ。
けど違う。そうじゃない。
誰も傷つけないために必死こいているんだ。なのに、それを否定することはできない。
「ごめんなさい。深淵の遣いさん。お断りします」
「そうですか。交渉不成立ということですね……」
「はい。でも、ダンジョンの環境が変化しないように話し合いながらやってみたいと思います」
「諦めてくれませんか。でも、あなたを殺せば誰もモンスターと交渉しようなんて考えませんよね」
深淵の遣いさんの身体から殺気が溢れてきた。
僕がそれに身じろぎしていると、彼女は美也さんの胸倉を掴み持ち上げた。
「なっ、何をする気ですか?」
「この人には人質になってもらいます」
深淵の遣いさんの身体が紅蓮の光を放った。
その光は彼女から美也さんの方へと移っていく。
すると意識を取り戻す。
「美也さん。命令です。冴内さんを攻撃してください」
「分かりました~」
美也さんは正気を失っているようで、彼女の言う事を聞いてしまっている。
彼女は僕目掛けて飛び出してくる。
どうにかして逃げなくては……
結界の外に出ようとするが阻まれてしまう。
それと同時に彼女は簡単に外に出て行き、僕がやられるのを見つめている。
「これも命令だからさ。頑張って苦しんでね」
美也さんはブンブン拳を振り回して攻撃してくる。
まさか正気を失うなんて想定外だ。
ハウス。
わしと沙羅、エリ―にヴェノム、変態雷娘が集まった。
「私は孝雄を取り戻したい。残念雪女、いえ雪芽さん。孝雄との事は諦めます。なので私に協力してくれませんか」
と変態雷娘はわしに頭を下げた。
「おぬしはなぜそこまでするのじゃ。あのいじめっ子ピンクから取り戻せたとしても振り向いてくれないかもしれんのじゃぞ」
わしはなにがそこまでさせるのか知りたかった。
「そんなのは分かってる。けどなにより辛いのは孝雄が不幸になること」
「そんなのはわしも同じ気持ちじゃよ。けど……あやつに任せたのは、単純に強いだけではないのじゃ」
そう。わしらはこのダンジョンではかなり名を売ってしまっている。
派手に動けば武力行使していると誤解されて、講和条約を結べなくなる可能性がある。
ハウスの子達と孝雄の二人を天秤にかけた結果、わしは子達を選んだ。
「それにあのピンク髪と派手に事を構えれば人間と敵対したとみなされることもある。私らもそんな気軽には動けないよ」
と沙羅もわしの味方をしてくれた。
「ジャッジ、手伝って」
「いいぜ、くりくりちゃん。組んでリベンジマッチと行こうじゃねぇか」
エリーは再戦を望んでいるようじゃった。
「こらエリ―。この変態雷娘の誘いに乗ってはいかんのじゃ!」
「なんでだよ」
「おぬしが動けばヴェノムスパーダが動くことになる。だからおぬしには留守番をじゃな」
「ババア。私はよぉ、本音を誤魔化し続けているあんたなんか見たくないぜ」
「もし。わしが動いて……それでモンスター達に敵認定されたら……孝雄達の、皆の努力がパーになるのじゃ。あやつの努力を無下にすることなど、わしには……」
いきたいに決まってる。わしだって孝雄の傍にいたい。
「雪芽の言う通りだ。私達がおいそれと動くわけにはいかない」
沙羅は毅然とした態度を取って言う。
「なら……これをすればいい」
変態雷娘は怪しげなキラキラの付いたアイマスクとカツラを投げてきた。
「なんじゃこれは?」
「これで正体を隠せる。一個しかない。誰が付ける?」
「私が行こうか、ババア?」
「いや。わしが行こう。エリーは沙羅と一緒にハウスを守って欲しいのじゃ」
「決定。雪芽さん。外に運転手を置いておいてあります。行きましょう」
「わしのことは呼び捨てでよい。わしも知里と呼ぶことにするのじゃ」
孝雄や。わしはおぬしをどうしても取り返したいのじゃ。許してくれ。
一撃一撃が重い。
入る度に死を意識してしまう。
躱そうとしても躱せない。
相手は格闘のプロ。しかも超人的なパワーアップをしている。
当然だ。
「今の状況を招いたのは僕だ。本来なら僕は責任を取るべきでしょう」
「そうだね。責任取って殺されるべきだね」
「でも……倒れることは出来ません。何故なら……僕はモンスターと人間の繋げるという責任があるからだ」
「本当にできると思ってるの?」
「思ってます。だから僕は倒れる訳には行かない」
「君、本当に馬鹿だね。でもセクシーだよ」
そういうと美也さんは吠えて、洗脳を解除した。
足に思い切り力を入れて自分の下半身を埋めた。
「まさか私の洗脳を解くなんて。なら私直々に」
深淵の遣いさんが結界の中に入ってくる。
僕を直接殺す気だ。
彼女の身体からオーラのような紫色の光が放たれる。
「もう。止めてくれることはないんですね……」
「王子は我々の思想を理解してくれると思ったのですがね……」
「僕が王子?」
「深淵の王。覇龍王様の子でございます」
「深層に住む者として……ダンジョンを荒らすあなたを許せません」
深淵の遣いさんはオーラを拳に集中した。
僕は一目見て分かった。これを食らえば死ぬと。
「王子。さようなら」
僕は彼女の一撃によって死ぬ。
覚悟した時。結界が敗れた。
そして僕と彼女の間を稲妻が走った。
動揺した彼女は後ろに飛ぶ。
すると辺り一帯の気温が下がり、彼女の足が凍った。
「久しぶりじゃのぅ、孝雄」
「ふふ。孝雄。ピンチを助けられて惚れ直した?」
「二人共? なんでここに?」
僕の前に現れたのは雷霆を構えた知里と、謎のアイマスクとカツラをした雪芽さんだったのだ。
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