第14話 コボルトサイド
あの方達はなぜ、我々の動向など見張るのかと。
「首長。使者様がいらっしゃいました」
「ああ。分かった。今すぐに行く。それとあれもわしの子だ。呼んでおけよ」
「分かりました」
知らせに来たコボルトは命令に応じ、その場を去っていった。
コボルトの巣に行くことになった。
孝雄がモンスターに情を持っていなければ巣を半壊して引き籠らせてやったのに。
獣臭いし、掘立小屋すらない。野生の獣の巣みたいな、下劣な品性が丸出しの巣だった。
「おお……使者殿。お美しい。遠路はるばるいらしていただき、感激でございます」
二足足の狼はリーダーかなにかだろう。
安いお世辞を言ってくる。
「この巣。獣臭い。燃やしていい?」
「すぐに燃え広がるのでやめていただきたいのですが……」
「ならこれをかける」
私は自分の服が獣臭くなることを見越して、ファ〇リーズを持ってきていた。何の対策もしないで何日も滞在するという最悪な事態になったら巣を焼き払ってしまうかもしれないからだ。
ファ〇リーズを吹きかけると、リーダーは顔をしかめる。
「なっ。くっ、臭い。鼻が曲がる」
「嫌ならなんとかして」
「しっ、しかしこの匂いは自然界ではおおよそ嗅ぐことのない強烈な匂いですな」
「鼻に直接吹きかけてあげる。そしたらすぐに慣れるかも」
「かっ、勘弁してください。というか、なんであなたはそんなに攻撃的なんですか……」
「モンスターが……」
喉元まで本音が引っかかったけど、その先を言うのをぐっと飲みこんだ。
「ところであなたがリーダー?」
「はい。私が
「そう。それなら巣を案内して」
「中に入るともっと臭いですよ。大丈夫ですか?」
「ファ〇リーズのストックは沢山ある。片っ端からかけまくる」
「巣を破壊するつもりですか。あんたは……」
「あんた? 言葉遣いがなってない」
「もっ、申し訳ございません。使者様。どうかご無礼をお許し下さい」
「よろしい」
私は調子に乗ってきたコボルトに圧力をかけた。
我ながらに友好的な外交方法だ。
「おいおい、親父。女一人にビビり過ぎじゃねぇの?」
と言って二本足で歩く狼がもう一匹やってきた。
いや、バカ息子という表現の方がもっと適切だろうか。
「なにこいつ?」
「こら。ハリク。使者様に失礼なことを言うな」
「親父。俺は全面戦争でもいいんだぜ。古参だからってふんぞり返ってる野郎どもをぶっ殺して成り上がるの、いい話じゃねぇか」
「コボルトごときが腹黒ナイスバディと残念淫乱雪女と男の娘ドラゴンを殺せると思ってるの?」
「使者様。目上の方のあだ名にしては悪口に塗れていませんか?」
「なにがたがた言ってるんだ? 調子づいてると犯すぞ!」
なんか、このバカ息子。いきり始めてる。
「決めた。焼く」
そうだ。コボルトの巣を占領してしまえば媚びへつらう必要はない。
私はコンパクトから
「馬鹿息子。お前には地獄のような苦しみに遭ってもらう」
僕はラティナと交流していた。
彼女はゴブリンの中で二番目に偉い
「そうなんですね。人間の世界にはそんなものがあるんですね。建築、歴史、文化、芸術……全てのものが高い水準でまとまっているなんて。感心させられます」
「僕も本当に驚きましたよ。イメージと全く違う」
ゴブリンの巣は僕達のイメージするものと違っていた。僕のイメージは洞穴があって、そこに集まって暮らしているみたいな感じ。
建物を作って、そこに住んでいるなんて考えもしなかったのだ。
「タカオ様にそう言われると恥ずかしいです。私達ゴブリンは様々な種族の文化や建築を参考にしながら巣を作って言っているのですが、全然です」
とはにかむ。
「それはいいことですね。ラティナさんみたいな考えの人が増えてくれれば、モンスターと人間も共存できるかもしれないですね」
「はい。すべてのモンスターが手を取り合うことができたらダンジョンの外に出ることができるかもしれませんね」
「そしたら図書館に来ませんか。人間の文字が分かればもっと学ぶことができますよ」
「タカオ様が教えてくれるんですか?」
「国語の先生じゃないから保証はできないけど、ラティナさんがよければ……」
「是非!」
とラティナさんは僕の手をばっと取った。
僕は一瞬驚いたが、手を握り返した。
「勉強熱心ですね、ラティナさんは」
「いえ。そんな……タカオ様はその、異種族での付き合いをどう思いますか?」
「話ができている時点で同じかなと思います。争いが起きてしまうのは考えに違いがあるというだけで、根本的に理解し合えないというわけではないと思うんです」
人間同士でも迫害し合ったりすることはあるけど、分かり合えたりすることもある。
今すぐには難しいとは思うけど、こうしてモンスター達と話し合えることができるからきっと分かり合えるはずだ。
「本当に素敵な考え方です。タカオ様。あなたの名前の書き方を教えてくださいませんか」
勉強熱心なラティナさんの熱意に飲み込まれる形で、僕は日本語の平仮名を教えることにしたのである。
コボルトの巣。
「
と
コボルトの巣を征服したことはいいとして、ここで生きていくにはきつい条件がいくつかある。不衛生な環境、住人が臭いことだ。
水は? と問われるとあるにはある。
ダンジョン内に川が流れていることが幸いして飲み水や生活用水を確保すること
はできている。
しかし、臭い。シャワーする習慣がないと言われればそれまでだけど、
それにしたって臭い。
臭い問題は私にとっては我慢ならない問題だ。
いくらこれが終わったら孝雄が私の婿になると言ってもだ。
「もっ、申し訳ございません。
「素っ裸で適当なところに寝っ転がってるだけなのに? 残ってる所に住めばいいんじゃない?」
「今まで通りの生活を望んでいる者が一定以上いまして……なるべく元通りにしなくてはならないと思いまして」
「ふぅん。それなりに間引いたから丁度良くなるような気がするんだけど」
「
「被支配者が、支配者に逆らうの?」
「もっ、申し訳ございません。
「それより。馬鹿息子に任せた件はどうなった?」
「ゴブリンはこの浅層の中では優れた技術を持っているので、女王様の所望しているシャワールームは生産できるかと思います」
「できなければこの巣のコボルトが間引きされ……労働力が減る。どうしよう」
「かっ、必ずやシャワールームを作り上げますので。どうかお怒りをお納めくださいませ」
「そうよ。もしものことがあってはいけないのよ。孝雄に獣臭いと言われたらこの巣を壊滅させるから」
「はい」
私の激励により、
人間として、労働することの喜びをコボルトに教えてあげる。
モンスター嫌いの私にしてはよく頑張った方だと思う。
コボルト側の使者が訪れた際にガザッグさんに同行させてもらうことにした。
コボルト側の使者と顔なじみになっておきたいと思ったからだ。
「私は使者のハリクです。コボルトのリーダーが入れ替わりまして。挨拶に参った次第です」
と若いリーダーのコボルトがゴブリンの巣に訪れていた。
「しかし皆目見当がつきませんな。シャワーなんてもの」
「そうですか。我々にも皆目見当がつかないのです。コボルトの巣を侵略したのは人間の女ですから」
「人間の……女?」
ガザッグさんは使者の言葉に驚いていたようだった。
僕達の敵がいるのか?
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