第3話 実戦訓練をしてみよう


魔獣に傷をつけられてから1年が経過した。

あれからも色々な事が起きた。


まず食糧は最初の2カ月で底を尽きた。

柵の外にあった木の実を取り少しの間だが凌ぐことが出来た。あの狼の魔獣たちは夜行性のようでおもに日が沈んでから行動する。だから日が沈む少し前、気温が低下し始めたタイミングで外に出ていた。当然魔獣に遭遇する事もあったが、この通り運よく生き延びている。


木の実も無限にある訳ではないから徐々に散策範囲を広げた。活動時間も日が昇っている時間帯にくい込んでいく。


あの魔獣がどれ程この山にいるか分からなかったし、あいつらに追いかけまわされるなら激烈な暑さの中を行動した方がましだと思ったからだ。


こんな日々を過ごしなんとか半年は生き抜く事が出来た。

そう、半年までだ。


半年が経過した時にとうとう魔獣よけの効果がきれた。

当然、魔獣たちはテリトリーに侵入してきたおれを排除しようと躍起になる。


おれはその頃には日中に活動する事が出来るくらいには暑さに慣れていた。水を得られる川も見つけていた。だから日中に休みながら食料を調達し、夜は魔獣たちから逃げる生活を送っていた。



そんな生活して更に半年が経った頃、いつものように日が昇り、夜の疲れから回復する為寝ていた時だ、あの死神が突然現れた。


「よ!まだ生きてたか!」


突然現れた彼女に少し驚くもおれは手を上げて返事する。

「えーっと確か」


「ネラだ!まあ1年ぶりだもんな、忘れてもしゃーねぇか」

頭をポリポリかきながらネラは話す。


以前みた黒いボロ布ではなくちゃんとした服を着ていた。


「よしよし、結界の効果が外れても上手く逃げ延びてるみたいだな」

彼女はおれの肩を叩いてそう言った。


「必要最低限の肉はついてきたな、だがまだまだ!」

「何しに来たんだ?」

当然の質問を投げかける。


「ああ、そろそろ戦闘訓練でもしてやろうと思ってな」

彼女は口角を吊り上げそう言った。


「お前が相手にするのは牙や爪を持つ動物だけじゃない。武器を持った奴だって相手にする、だからその練習をそろそろ始めておこうと思ってな」


彼女はそう言って二振りの折りたたまれた武器を取り出す。

その武器は重たい金属音をたてて展開し、鎌の形になる。


相手の武器に対してこっちは護身用に作った石の斧と槍だ。

一応斧と槍の形をしているが、魔獣に使う時は殆どが叩きつける打撃。


「おれこれしか無いんだけど」

「あるだけまし、だろ?」


ネラはそう言って高く跳び、斬りかかって来た。

横に転がりそれを避ける。


「あんたッ!!」


「なんだ?命が危険に晒されるなんて今じゃ日常だろ?」


彼女の目、間違いない、魔獣が自分に向けたあの目つきと似ている。

重たい刃のような殺意。だが彼女のは魔獣のそれよりも息が詰まるものだった。


これが人が放つ殺気なのか……


「なによそ事考えてんだ!!」

彼女が一瞬で距離を詰める。


下に潜り込んで斬り上げてきた、それをなんとか回避。だがその一撃で斧と槍が斬られてしまった。こんな棒切れに石をくくりつけただけの道具じゃ当然か。


「ちょっと待った!おれ武器ないんだけど!」

ネラにそう訴えかけるが一切手を休める事はなかった。


「敵が待ったなんて聞いてくれるかよっ!」


周囲の石を広い投げる、魔獣相手によくやっていた手だ。しかし相手はそれを簡単に弾き返す。


石を投げつけたり、逃げ回ったり、だが最後には体中傷だらけで地面に転がっていた。


「今日はここらへんにしておくか。ほら、これ使いな」

ネラは小瓶をおれに向って投げた。


「なんだこれ」

「止血剤」

瓶の蓋を開け傷口に塗る。


「ありがとう」

「良いんだよ。それよりお前早くしないと魔獣が血の匂いでわんさかやって来るぞ」


「え?」

全く気付かなかった、日が沈みあたりが暗くなり始めていた。


「そんじゃあまた明日。今日から1週間これやるから。そんじゃ」

そういって彼女は立ち去って行く。


アオオオオオンッ!!


その直後、魔獣達の雄叫びが。


「1週間って!マジかよ!」

そう叫び走り始めた。



戦闘訓練ではネラは一切容赦なく、戦闘が終われば傷だらけ。毎回殺されないようにするので精いっぱいだ。これが過ぎれば今度は魔獣たちとの追いかけっこが始まる。


それ以前にも死ぬかもと思ったことは何度もあったが、この一週間はその比ではなかった。疲労で食事をする腕も重い。


なんとか1週間最後の戦闘訓練を終えた時、おれは泥のように地面に倒れ息を切らしていた。


「よく生き残れたなー、殺す気でやってたのに」

サラッととんでもない事をいうコイツ、その内に絶対一発ぶん殴る。


「つーわけでぇ、こんな感じの事をまた半年後にやるから。んじゃ」

それだけ言い残し彼女は姿を消す。


魔獣たちが吠えているのが聞える。


「ちくしょー、休む暇なしかよ。あの死神、絶対いつかぶっ飛ばしてやる」


そうおれは強く決心した。

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