第九話 魔王領での生活

 カルアンデ王国と魔王領との戦争が終わったため、俺の役目は終わった。

 条約を結んだ翌日、俺は魔王に会って終戦に同意した理由を訊いてみた。


「俺はただ、魔族領で暴虐の限りを尽くす軍事国家が許せなかっただけだ。他の国を恨んではいない。むしろお前たちが交渉する間もなく、ほぼ同時に攻め込んできたから落としどころを失ったんだ」


 魔王領で彼が頂点に立てた理由は、あるロボット技術者を召喚したことによる。これで国をひとつにまとめ上げた。

 ロボットを作ったのはやはりと言うか地球の日本から召喚された勇者だった。

 彼は定年を迎えた技術者で、漫画原作者による少年型ロボットを作るのが将来の夢だったと言う。

 彼は仕事に専念するあまり、妻子に逃げられたため、もはや日本に未練はないと言う。

 このまま魔王のもとで働き続けて骨を埋めるつもりだそうで、何度か会ったことがあるがなかなかに気さくな人物であった。

 ロボットを罠にかけて捕まえたことを話すと、更なる改良が必要だと言って研究に没頭し始めた。

 余計なことを言ったのかもしれないが、魔王が侵略をしようと思わなければ防衛は盤石ばんじゃくとなり、束の間かもしれないが平穏が訪れるだろう。

 同盟国と魔王軍との戦争がカルアンデ王国との和平条約を結んだことがきっかけで、他国もこれ以上戦い続けるのはまずいと思っていたのか、カルアンデ王国を仲介として交渉の糸口をつかみ、各国首脳が一堂いちどうに会し和平条約を結ぶに至った。

 条約の内容だが、旧軍事国家領の半分を魔王領に割譲かつじょう。残り半分を各国との緩衝地帯とし、各種鉱山の権益を共同管理すること。また、魔王領が保有しているロボットの数を本土防衛分だけ残しての削減が和平の条件に入れられた。ただし、輸送や土木、建設などの利用については対象外とした。

 俺たちは魔王の下で厄介になる間、ウェブルを含めた学園生たちは魔族に対しての偏見や差別をなくすための社会科見学を頻繁ひんぱんに行っている。


「ノリオ、やっぱり見学には行かないのかい?」

「生まれ故郷に帰るから、必要無いだろう。俺にとって重要なのは、向こうでも生きていくためのかてとして魔法技術を磨くことだ。分かってくれ」

「ノリオの人生だからな。無駄な時間を取らせるのも悪い」

「……そうか、そうだね。君の年を考えると寄り道は良くないね」

「ごめんな」

「良いって」


 誘ってきたウェブルを説得する。ルモールはそのことを理解しているのか、俺に加勢した。ウェブルも無理を言っていることが分かったのか納得したようだ。

 代わりに魔王に願い出て、許可をもらって図書館と技術工房を行ったり来たりしている毎日を送っている。

 カルアンデ王国の図書館では禁書扱いされていた本がここでは普通に読めるのだ。

それらの本には、詠唱呪文が主だったカルアンデ王国とは違い、文字列発動、つまり魔方陣による刻印魔法の起動展開が普通だった。

 勉強しながら、試しに魔道具を作ってみると、思いのほか簡単にできた。

 俺につきっきりで指導していた教師によると、詠唱よりも刻印魔法の作成分野に才能があると断言された。

 土属性魔法で粘土にちょこちょこと文字を刻み込んで魔方陣を作成して焼いて固める他、物体に書き込んで魔力を流すと効果が表れるようだ。

 それに加え、どうも無属性魔法は刻印魔法と特に相性が良いらしく、魔力を別のエネルギーに変換させるのに良いらしい。

 これが他の属性に秀でていた場合、相性が悪く使う燃費も莫大だった。

 ところで、なぜカルアンデ王国では刻印魔法がが流行らなかったのかといえば、カルアンデ王国国王陛下の話によると昔の有力貴族たちが刻印魔法は平民でも扱えるため、彼らの立場が危うくなると考え、禁呪扱いにされるようになったらしい。

 もし刻印魔法がカルアンデ王国で普通に使われることがあって、そこで才能を開花させていれば別の道を辿ったのではないだろうか。

 カルアンデ王立魔法学園で学ぶ限り、芽は出なかったろう。

 魔方陣が製品全体に刻み込まれた電磁でんじ調理器ならぬ魔導調理器に、同様に魔方陣が刻印された薬缶やかんをのせて湯をかすのを見ていると、思わず独り言が漏れる。


「美しくない」


 家電製品ならぬ魔導製品のほぼ全てが魔方陣がびっしり刻み込まれており、見栄えが悪い。


「要改良だな」


 魔族の技術者たちから訊くと、一般的に魔方陣が大きければ効果も高いと考えられているそうだ。

 小さくても一緒ではないのかと思い、技術工房である物を製作した。


◆     ◆     ◆


「で、話とは何だ?」


 執務室で書類を決裁けっさいしていた魔王と別の机で仕事をしていた副官が、俺と世話係のローナを迎える。

 さすがに寝室は別になったが、相変わらずローナは俺の身の回りの世話を手伝ってもらっている。


「色々お世話になっているので、俺が工房で作った物をおくりに来ました」


 ローナが箱をテーブルに置くと、副官がそれを開ける。


「ポットですね。魔方陣が刻まれていない」

「それでは不便だろう」

「そのポットの底を見て下さい」

「……何か見たこともない文字が刻まれていますが、これは何ですか?」

「まずはそれに水を入れてみて下さい」


 首を傾げていた副官が隣の給湯室で水を入れて来た。


「ポットの中で水が沸騰ふっとうしています。……まさか、そこに刻まれていた文字は?」

「魔方陣です。大幅に小さくしてあります。沸騰が済んだ後は一定温度に保ち、即座にカップに注げる優れものですよ」

「まあ」


 沸騰が終わった湯を、ティーバッグを入れたカップに注ぐと、ほのかな香りが立ち上る。


「……ふむ、味も悪くありません。魔王様もどうぞ」

「……確かに、今まで飲んでいた茶と変わらん。一体どうやった」


 簡単に説明すると、魔法に精通していると言われる副官が驚いていた。

 実は同じ性能を持つ代物があったのだが、ポット全体に文字がびっしりと書き込まれており、見栄えがものすごく悪かった。それを無属性魔法の視力拡大で顕微鏡けんびきょうの如く細かく文字を刻み込み外見をよくさせたのが画期的だったらしい。

 おかげで、単なる道具を芸術品へと昇華しょうかさせた。


「ヤスタケよ。これは魔王領内の製品に革命をもたらすものだ」

「特許を与えます。貴方はそれだけのことをしたのです」

「ありがたき幸せ。……具体的には、報酬として換金できる宝石が欲しいのですが……」

「うむ。ルビーとサファイアの小さな鉱山ひとつずつでどうだ? ダイヤモンド鉱山はカルアンデ王から賜ったと聞いたからな」

「ありがとうございます」

「ところでヤスタケよ、折り入って話があるのだが……」

「はい、何でしょう?」

「我が妹を貴様の嫁に迎え入れてもらえないだろうか?」


 魔王の傍らで控えていた妹の副官とローナが息を飲んだ。彼女も魔王の提案は予想外だったらしい。

 俺と打ち合わせをする中で、魔王領が群雄割拠の戦国時代だった頃から優秀な人材があまりおらず、権限が集中して精神的に疲弊している兄の魔王を彼女はしきりと気遣う様子がある。それだけ兄想いなんだろう。


「どうしていきなりそんなことを?」

「ヤスタケが編み出した刻印魔法の件、これだけで魔王領が発展する。それだけの価値があるのだ。是非受け入れてこの国に骨を埋めてほしい」

「それは願ってもない申し出です。……ですが、私が召喚される前、故郷は隣国と戦争になっていて心配なのです」

「故郷が無事であれば戻って来るのか?」

「いいえ、両親の面倒を見なければいけません。土地の管理もあります」

「そうか。……いや、妹は優秀だぞ? 才媛と持てはやされている。まあ、俺にべったりで人付き合いがあまりないのが難点だが」

「私の故郷に連れ帰っても良いのなら受け入れます」

「それは駄目だ。……ううむ、残念だ」


 今の仕事量が魔王にのしかかったら彼は潰れてしまうから却下だろう。


「刻印魔法の改良点は技術者たちに伝えました。彼らが発展させてくれるでしょう。私がいないと成り立たないということはないので安心してください」

「いや、そういうことを言いたいわけではないのだがなあ」


 俺たちの会話に安堵した副官と不安そうな表情のローナが印象的だった。

 そういえばと俺は魔王に話しかける。カルアンデ王国が魔王領に工芸品を輸出しているそうだが、その中に決戦兵器が入っていると聞いたが本当なのかと。魔王は首を傾げる。


「聞いたことがない。似たような発音で穴洗器けっせんきならあるが」

決戦機けっせんき? どういう物ですか?」

「カルアンデ王国で見たことがないのか?」

「……申し訳ありませんが決戦機といった物は知りません」

「直に見た方が早そうだな。ついてこい」

「はあ」


 魔王を先頭に副官と俺、それにローナが付いてくる。


「ここだ」

「何故にお手洗い? ……水洗便所?」


 洋風便器が設置されているところを魔王が指差した。


「これだ、この部分だ」

「……ノズル? ウォシュレットじゃないですか」

「穴洗器とは呼ばないのか?」

「そもそもケッセンキとはどういう文字とつづりで書いてあるのですか?」

「副官」


 副官が胸ポケットから手帳とペンを取り出し、さらさらと書いて俺に見せた。


「こうです、ヤスタケ様」

「じゃあ、軍事国家が決戦兵器と呼んでいた文字と綴りは?」

「多分、こうではないかと」

「……ということはだ、軍事国家は穴洗器を読み間違えていたと」


 いや、勘違かんちがいにも程があるだろう。


「奴らの言い分は言い得て妙だと思うがな」

「どこがです?」

「これを皆が使うようになってからが激減した。特に騎士や竜騎士がくらに乗っても痛くないと喜んでいてな」

「決戦兵器と呼んでもおかしくはないと」

「そうだ。それになにより使い心地が良い。なあ副官」

「そうですね、温水がかかっているときの気持ち良さと言ったら……女性に対して何を言わせてるんですか、兄様!」


 魔王に世間話でもするような感じで話しかけられた妹は素直に応じてしまい、自身の発言に顔を赤くして抗議した。


「すまんすまん、同意が欲しかったんだ」

「もう」


 後に、軍事国家はカルアンデ王国民からウォシュレットで滅んだ国と言い伝えられるようになる。

 哀れな。


◆     ◆     ◆


 魔王との打ち合わせが終わった日の夜、用意された客間のベッドに横になったところで扉が軽く叩かれた。


「こんな時間に誰だ?」

「私です、ローナです」


 何か相談でもあるのか、珍しい。

 扉を開けると、夜着からほのかに湯気が立っているローナの姿が視界に映る。

 ああ、風呂上がりなのかと理解しながら、無意識に扉を閉め、鍵をかけた。


「ヤスタケさん? ヤスタケさ~ん」


 なんとなく、彼女を部屋に入れると危険だと本能が察知した気がする。


『もう、ヤスタケさん、私を中に入れて下さいよー』


 幽体離脱して入って、扉を開けられた。


「ああ、うん、どうぞ」

「お邪魔しまーす」


 テーブルに紅茶を用意して向かい合わせに座る。


「で、何の用だ」

「私と肉体関係になりましょう」


 ふんすと鼻息荒く宣言した彼女を無造作に抱えて部屋の外へ運ぶ。


「あ、待って、待って下さい!」

「何だ」

「本気なんです、私と結婚して下さい!」


 恒例だが、またおかしなことを言い出したぞ、この娘。


「この間言ったはずだ、幽霊族は故郷に連れ帰れないって」

「今の私なら条件を達成しています!」

「……つまり、マリーの身体も故郷に持って行くと?」

「そうです!」

「ええ? 少なからずマリーを想っていたウェブルとルモールはどう思うんだろうなあ?」

「既にお二人からは承諾を得ています。『マリーは既に亡くなっているのは理解しているので、ヤスタケさんとげるのは問題ない。と言うか、結婚するならとっとと故郷に帰れ』だそうで」

「そうなのか。……そもそも、何で行き遅れの俺なんかを選んだ?」

あこがれなんです」


 彼女によると、幼い頃から勇者の伝説に憧れており、勇者の付き人になれると聞いて他の候補者たちと血で血を洗う争いに突入し、権利を獲得した猛者もさなのだと語る。


「それと、人柄? 雰囲気? 普段の接し方? 何でも良いんです、ありのままの貴方が良いんです!」

「ううん、断ってもこの先望んだ未来が見えないし……」

「妥協しましょう、妥協!」

「……特に反対する理由は無いし、まあ良いか」

「やったー!」

「だが、今日は帰れ。正式な結婚式は故郷に帰ってからだ」

「ええー? お互いの相性を確かめるためにベッドに行きましょうよー」

「そういうのは結婚式の後だ」

「つまり、式場で、皆の前で、行為を……」

「二人きりの時に決まってるだろ」

「そうですか……」

「何故そこで残念そうな顔になるか」


 毎度のことながら、ローナの呆けに突っ込みを入れる。

 あれ、役所に届け出れば、結婚式をこっちで挙げてしまえば向こうで省略しても良いんだっけか? 独身だとそういうところがうとくなっていけない。

 帰りは俺一人だけではなく、ローナも連れて行くことになった。

 ローナを受け入れた俺は本格的に彼女に日本語と日本の文化、社会常識を教える。

 魔王のところに厄介になって一年半も経った頃、魔法の文字や刻印魔法を一通り学び、教師からこれなら一人だけでも食べて行けるだろうと太鼓判たいこばんを押され、地球へ帰る決心をした。

 魔王領でも日本に送る儀式魔法が可能なため、カルアンデ王国へ経由せずに便利だから受け入れることにした。

 この世界から離れるとき、魔導通信でカルアンデ王にも帰還することを伝え、報酬のダイヤモンドを、魔王からはルビーとサファイアを定期的に送ってもらう約束を確約した。

 魔王には世話をかけっぱなしであったが、彼はなかなか楽しめたぞ、ポットは大事にすると言われ嬉しくなった。

 また、魔王は地球、特に日本に興味を示し、俺に度々聞いてきた。政治体制や軍事、文化、メディアなども片っ端から聞かれた。特に娯楽に興味を示しボードゲームなどを開発することになった。

 だがここでもまた余計なことを言ったのかもしれない。それというのも二次創作という同人誌の文化を教えてしまったのがきっかけだったと思う。

 彼はそれに見事にハマり百合に目覚めてしまった。何と言えばいいのか、同じ男として彼と添い遂げようとする女どもの野心的なことに辟易していたところに俺の持ちかけた百合同人誌がいたくお気に入りとなったようだ。

 俺に対して東京へ戻るのなら百合の同人誌を買い込んで定期的に魔王の元に送って欲しいと言う頼みを受けざるを得なかった。散々さんざん世話になったからな。

 少なくとも魔王がホモに目覚めなくて良かったと思う。もしそうなったら俺はお店の中でホモの同人誌を買い漁らねばならなくなり、周囲からドン引きされる可能性が高かったからな。SNSが流行っている昨今、全世界に晒されかねないのでそれは避けたい。

 なんと専用の特別な魔導通信を用いれば地球とこの世界の通信が理論上では可能だと言う。

 定期的に連絡を取ることになり、そのついでで同人誌を送ることが決まった。

 宝石には成功報酬も含まれているそうなので、是非やらねばなるまい。


◆     ◆     ◆


 今、魔王城の隣にある神殿内の床一面に魔法文字がびっしりと書き込まれていて、送還魔法の準備が着々と進んでいる。

 カルアンデ王国からビョルンらが来て魔法陣に間違いが無いか精査している。

 見送りにカルアンデ王やウェブル、ルモールにモンリーも訪れた。

 王様には魔王に立ち向かった学園生たちやモンリー中隊に手厚い報酬を頼み、快く引き受けてもらった。

 また、カルアンデ王国内の主戦派閥の抑え込みにも成功しつつあり、万事順調とのことで、モンリー中隊や勇者部隊は近々故郷に帰れるだろうとのお達しがあった。

 良きかな。


 準備は良いかと言う魔王の言葉に俺とローナは頷いた。

 送還の呪文に失敗して命の危険にさらされるような場所に送り込まれてもいいように、出来る限りの対策を施した専門家の意見を取り入れ、俺が手掛けた刻印魔法入りのマントをローナと共に装備している。

 マントには魔方陣がびっしりと書き込まれておりもし何かあっても対応できるはずだ。


「それではこれより送還の儀式に入る。」


 俺とローナは魔法陣の中心に立ち、その外周をずらりと魔法使いたちが囲む。


「ではな、無事に帰り着くことを祈っておるぞ」

「ありがとう」

「お世話になりました、この恩はいづれ」

「良い、戦争を終わらせることができただけで十分だ」


 魔王とのやり取りをしている間、魔法使いたちは呪文を唱え始め、魔法文字が徐々に光りだし、俺たちを包み込んでいく。


「それにしても、マントなんて必要なの?」

「一応念のためだ、外すなよ? 間違って溶岩の中に出たら困るだろう」

「もう、心配症なんだから」


 正式に婚約者となったせいか、ローナの口調は砕けている。

 儀式の終盤、突然カルアンデ王国から魔導通信が入った。


「緊急事態です、申し訳ございません、主戦派の残党が儀式を妨害しています!」

「コリンズさん!?」


 何と主戦派残党の思想に同調した魔法使い達が遠隔操作で俺の送還儀式を妨害しようとしていて、それが成功しつつあると言う。

 魔王が直々に画面に映っていた主戦派魔法使いたちを魔眼で始末するものの、妨害を阻止することはできなかった。

 また、儀式で集められた魔力が膨大なため、中断すると暴走しかねないため儀式は続行されることになった。


「何という欠陥、次があれば改善を要求する」

「直接的な妨害行為には対策を施してあったが、カルアンデ王国の神殿で呼び出し、結んだえにしを利用しての間接的な妨害までは想定しておらんかった、すまぬ」


 俺の苦情にビョルンが謝罪する。


「勇者とローナはどうなる?」

「邪魔が入った箇所は修復中です、儀式終了までには間に合うかどうか……、できるだけ努力します」

「頼む」


 心配げな魔王の言葉にビョルンが応対する。


「もうすぐ儀式が完了します!」

「どこまで修復できた?」

「亜空間にのみ込まれたり、人体がばらばらになることは防げました。ただし、帰還後の出現位置がずれていますな」


 魔王とビョルンたちのやり取りに不安を覚えた俺は魔方陣の外へ呼びかける。


「地面の下や海の中、はるか空の上は御免ごめんだぞ!?」

「安心せい、地面の上に出るように調整したわい。……というかどこじゃここ? ううむ、儂にはこれ以上は分からんな」

「大丈夫だよな!?」

「違う場所に出ても、再びこちらに呼び寄せればやり直しはできるぞ」

「間もなく儀式が完了します! 十、九……」


 秒読みが始まった。

 やけっぱちになった俺は投げやりになった。対するローナは皆に対する挨拶を忘れない。


「ああ、もう、どうにでもなれ!」

「お世話になりました! 皆様お元気で!」

「四、三……」

「追加の報酬、楽しみにしておけ!」


 魔王が笑顔で見送るのが見える。他の皆は儀式が上手くいくのかどうか心配な表情だ。


「一、発動!」


 瞬間、俺達の視界が白く染まった。地面も亡くなり独特な浮遊感に包まれる。

 時間にして数秒で闇の中へ場所へ出た。石のような固い地面に着地する。


「わったったっ」

「大丈夫か?」


 よろめくローナを抱き支え、周囲を見渡そうとして耳をつんざく音が聞こえ、視界が真っ白な光に塗りつぶされる。

 俺にとっては聞き慣れた音、ローナは初めて聞く音だろう。

 その音が何を意味するのか理解しかけた瞬間、物凄い衝撃が俺とローナを襲い、跳ね飛ばされた。

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