第51話怖れ
クロは、床に崩れ落ちかけた理久の体を支え、すぐに抱き締めた。
理久も、すぐにクロを抱き締め、クロの逞しい胸に顔を埋めた。
それでも…
理久の膝は、まだ少し震えている。
それを見て、クロの胸がズキっと痛んだ。
ならばこの時、クロはただ一言、ただ一言だけ尋ねれば済んだのだ。
「獣人の俺が…本当は怖いか?理久」と…
しかしクロはそれが出来ず、ただ理久を抱き締める腕の力を強くするしか出来なかった。
獣人達の頂点に立ち戦場も怖れないクロが、その理久の答え一つを聞くのを怖れたのだ。
そして、理久が今の時点でこの世界にいられる時間がもう少ない。
クロは、理久を理久の世界に返す為理久の肩を抱き、異世界転移の魔法陣のある部屋へ向かった。
廊下を、理久を左腕で抱きながら歩きクロは、ふと自分の事を思い出した。
クロは、世継ぎだったので悩む事も無く当たり前に獣人王になり…
王として何につけても熟考はするが、即断即決を旨にあまり治世にグダグダ悩む事も無かったし、私生活でも自分の決断に自信もかなりあった。
だが、ただそれは…
理久に会うまでの話しだった。
理久は、クロを根底から揺さぶる唯一無二の存在だ。
異世界人の理久を忘れなくてはと思いながらもやはり理久を忘れられなくて、理久に会いに行ってしまい。
住む世界の違う者同士が共にいる事が幸せになれる事なのかも分からないまま…
即決できないまま…
でもやはり、理久とクロがどちらの世界に住むにしても一緒にいたくて、結婚したくて足掻いた。
そして、やっとそれが叶いそうなのに…
別の問題が生じたかも知れなかった。
勿論、クロは理久を愛してるし、キスする時も、これから体を重ね合う時も優しくするつもりだったし、自信もあった…
しかし…
今までは平気だったのに…
理久相手にキスすると、自分の獣性の本能のコントロールが上手く出来ない。
そしてクロが獣人である事が、理久にとって本当は恐怖で、理久の優しさからそれを我慢しているのかも知れないのだ。
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