第32話暗黒の世界2

理久が四方の暗闇に固まっていると…


急に前方一部だけ、スポットライトのようにそれ程明るくない光がついた。


そしてそこに黒いフード付きのマントを頭から被った何者かが立っていた。


だが、理久には、顔は分からない。


どこからか生温かい風が何度か吹き、そのマントが揺れる。


「ハハハ!どうだ…恐ろしいか?」


突然、野太く低い声が辺りに響く。


やはり、あのゴンドラで聞いた声に間違いないと、理久は思う。


だが…


「アビさん…これはどう言う事ですか?!」


理久は、声は違えど目の前の人物を確信して叫んだ。


深い沈黙の時間が、一瞬訪れた。


しかし…


「えっ?えっ?理久さん…何故僕だとわかりました?」


アビは、間の抜けた自声を出し、頭のフードをサッと取り、整った顔に眼鏡を掛けた。


理久は、アビの足元を指さした。


「さっきの風で、湿布を固定してる足元の包帯が見えてました…」


アビは、一瞬固まったが…


すぐに苦笑いした。


「あー…これだから、僕はやっぱダメなんだなぁ…」


「ちゃんと答えて下さい…これは何んの真似ですか?クロにも何かしてるんじゃ?」


普段穏やかな理久の顔に怒りが浮かぶ。


だが…


「理久さん…クロさん…いえ…獣人のアレクサンドル陛下を愛していますか?」


アビのその質問に、理久は又固まる。


獣人のクロを愛しているかどうか?


(愛って…なんだ?何がどうだったら愛してる事になるんだ?)


それは理久にとって、簡単に答えを出せる、言える軽いモノでなかった。


相手がクロだからこそ、尚の事だった。


それに、アビの言い方から疑念が湧く…


「アビさん…最初から、クロが国王だと分かっていて…罠に嵌めたのか?」


アビは、まっすぐ理久を見た。


「それは、半分正解で、半分は違います…僕は、本当に男達に暴力を振るわれていて、そこを理久さんとアレクサンドル殿下に助けてもらいました」


「じゃあ!どう言う事なんだ?!」


理久は、アビの元に走りアビの胸元を掴んだ。


クロに何かあればと思うと、いてもたっても居られない。


クロが、理久に待てをされてシュンとして犬耳と尻尾がしなだれる所。


クロが、理久を見て優しく微笑む姿。


思い出すと、更に胸が速る。


(クロ!クロ!クロ!)


理久は、心の中で何度も叫ぶ。


そこに、アビが以外な事を言った。


「理久さん…アレクサンドル陛下は、ずっと僕を探しておられたんですよ」


「アビさんを…探してた?…」


理久は眉をひそめ、胸元の手を緩めた。





















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