第31話暗黒の世界

理久に笑みが浮かび、思わず犬のクロに言うように口走ってしまった。


「クロが1番かわいいよ…それに、クロが1番毛がキレイだよ…」


「理久…」


(しまった!つい…)


理久は慌てたが、後の祭り。


理久は赤ちゃんを抱いたまま、うれしそうなクロに背後から抱き締められた。


「クッ…クロ…」


理久は、顔を高潮させ焦るが、クロは気にしない。


そしてクロは、更にご満悦になり、耳がピンとして尻尾をブンブンして言った。


「理久…こうしてると、まるで俺達に子供が産まれたみたいだな…俺は…理久そっくりのかわいい子供がいい…」


背の高いクロが腰を屈め、背後から理久の耳元に低い甘い声で呟いた。


「おっ!…俺そっくりの…子供?」


理久の声が裏返る。


「ああ…きっと、理久そっくりで、でも

、頭に俺そっくりの黒い毛の犬耳があって…小さくてかわいいだろうな…」


クロが息混じりに、又理久の耳元で囁く


理久は思わず、自分そっくりのバブバブの黒犬耳の赤ちゃんを想像してしまう。


「理久…」


クロは、理久の耳元の髪に、優しいキスを落とした。


そして…


腰を伸ばし、あらためて理久を後ろから抱き締めた。


グイグイと、クロの股間が又理久の背中に当たる。


クロのそこが少し大きく固くなっているので、理久は増々赤くなり慌てる。


「クっ…クロ…ここ…人様のお宅!」


すると近くで、突然声がした。


「いやー。理久さんとクロさん、仲がいいですね。こうしてると本当に親子3人に見えますよ」


アビがニコニコしながら、不思議な位足音も気配も気取られずいつの間にか理久達の眼前いた。


「あっ…いや…そのすいません…」


理久がドギマギすると、アビはクスっと笑い言った。


「いやいいんですよ…やはり犬系の獣人は、愛情表現がとても深くて好きな者には忠実なんだとあらためて感じました。私には親しい犬系の獣人がいないので…」


「えっ?!獣人って、やっぱり種類によって、性格が違うんですか?」


その言葉に、理久は今更ながら驚く。


「そうですよ。猫系獣人は気分屋が多くて束縛を嫌いますから、余り結婚には向いてないし、我等ウサギ系は余り争いを好まずのんびりした者が多いです」


そう言うアビは見た感じ、正にそのウサギ系そのものだと理久は思った。


だが突然、アビが思い出したように言った。


「あっ、兄がちょっと買い物に行ったので、ちょっとだけ料理に手を貸していただけませんか?うーん…料理なら、クロさんより理久さんの方がいいと思うので

、理久さん、ちょっとだけ台所に一緒に来て貰えますか?クロさん…ジュリの事抱っこして少しここで見ていてもらえますか?」


「あっ…はい。クロ、ジュリちゃん頼んだよ」


理久は、そっとをクロに託す。


そして…


巨体で赤ちゃんを抱っこするクロを見て

、本当に良い父親に見えて少しぼ~っと眺める。


「どうした?理久…」


クロが、優しく微笑み聞く。


「ううん…何でも無い…」


理久も笑みを返すと、アビと共に台所に向かう。


台所のテーブルには、すでにサラダやパンが並んでいて、何か煮込み料理のいい香りが充満していた。


「すいません…何度も助けていただいて…」


突然…


自分の少し目の前にアビの背中があるのに、アビの声が背後から聞こえてきて理久は思わずゾワっとした。


どう言う事なのか分からないまま、声が上擦る。


「いっ…いいえ…あの…何を、手伝いましょう?」


だが次の瞬間…


窓から明るい日差しが差し込む清潔な台所のある部屋が、一瞬で暗闇に包まれた


いや…


ただ部屋が暗くなっただけの状況では無い。


台所では無い、どこか全く違う別の暗黒の世界に連れ込まれた感じだった。


理久に何も見えない闇の中、愕然としていると…


やがて声がした。


だがそれは…


あのゴンドラで、さやかな風に紛れ聞こえた声と同じようだった。

















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