第27話ゴンドラ2

本当にさっきまで、理久の乗るゴンドラが滑る水路の回りは静かで木々が生い茂っていただけだったのに…


突然明るくなったかと思うと空間が一気に開け、前方には広い広い青空と…そこを飛ぶドラゴン達…


左右には、令和の日本とは全く風景の違う、本場中世西洋風の家や店が広がる。


そして、パンや肉を焼くいい香りを風が運んで来る。


しかし、理久はそれにも驚いたが、それ以上に感嘆したのは、そこを行く者達の姿だった。


人間の姿に頭に獣耳が付いた獣人の多さにも圧倒されるが…


他にも、狐や熊、獣そのままの姿で服を着て二足歩行する者もいるし…


妖精達も、蜂のように沢山気忙しく飛び回っている。


ここは、色々な見た目の者達の自由な世界。


生命力に溢れた沢山の声と活気が、理久にもビシビシ伝わってくる。


「凄いよ!クロ!色々な種族の人がいるんだ!」


理久がそう言うと、隣りで密着して座っていたクロが穏やかに微笑んだ。


しかも、いつの間にかクロは、ごく自然に理久の左手を握っていた。


周囲に気を取られていた理久は、ここにきてやっと気付き、思わず顔を赤らめる


「フードを被っていたら分かり辛いが、たまに人間もいるぞ」


「え?人間?」


自分以外にもこの世界に人間がいる事に、理久はキョトンとして小首を傾げた。


「ああ。たまに。ごく、たまにだが」


「ええ!そうなんだ。ならその内俺がこの世界に何度も通ったら、この世界で暮らす人間にも会えるかも知れないな…」


理久は、屈託無くそう言ったのだか、クロが一瞬、表情が曇った気がした。


「クロ?…」


理久が心配そうになると、クロはすぐに笑顔になり、前方の右側を指さした。


「理久!あそこ見てみろ!」


理久がそこを見ると、一面に、出店や屋台が出ていて、巨大露地マーケットになっていた。


「後であそこに行こう!理久は食いしん坊だから、なんでも好きな物沢山食え!それと、その後、マーケットの近くの宝石店へ行く…」


クロは、理久の手をギュッと、力を込めた。


「宝石店?」


「ああ…そこで真紅のエーヴィゲ、リーベと言う宝石を買って、ペンダントにして貰う。理久…それを受け取ってくれないか?」


クロの真剣な顔も近くて、理久は焦る。


「ほっ…宝石って…まさか高いんじゃ…そっ、そんなのいいよ…俺、高校生だし…」


「理久…頼む…受け取ってくれ…お願いだ…エーヴィゲ、リーベを贈られた者は

、贈った者を終生死ぬまで忘れず思い出すと言う言い伝えがある…だから…だから…受け取ってくれ…」


クロは、今度は、理久の両手を握って懇願した。


その必死さに、理久は少し体を後ろに引いて苦笑いした。


「ハハっ…クロ…やだな…そんな物無くても、俺がクロの事忘れる訳ないじゃん

。それに…それになんだか…もう二度と会えないようなその言い方が、何かイヤだ…絶対にイヤだ!」


「イヤか?…俺に、会えなくなるのは?…」


クロが、更に真剣な顔を向けて理久を見詰め尋ねる。


ただでさえイケメンだが顔を引き締めると、更にその度合いが上がる。


一瞬、変な間が空いた。


「あっ!当たり前だろ!イヤに決まってる!」


そう理久が叫ぶと、サッとクロが動いた。


「理久!理久!理久!」


「クッ…クロ!」


理久は、横からクロの逞しい体に強く抱き締められ、体を動かせ驚く。


その理久の動きで、ゴンドラが左右に揺れる。


「あっ!危のうございます!」


ゴンドリエーリが焦り、大声をうわずらすた。


「すまん!ついうれしくて…」


クロが、理久をまだ抱き締めながら振り返り、背後のゴンドリエーリに向かい苦笑いした。


「すいません!」


理久もクロの腕の中で、ゴンドリエーリを見て赤面しながら謝った。


だが、そこに…


水路を吹くさやかな風に混じるように、誰か低い男の声が理久の耳に入った。


「異世界の人間よ…良いのか?王にあんな事を言っても?」


「え?」


理久は、ハッとした。


「クロ…たった今、俺に何か言った?」


クロは、キョトンとした。


「いや…何も言ってないぞ」


やはり、それはそうだろう…


明らかにクロと声が違うし、ゴンドリエーリも言った様子が無い。


だが、理久は、ハッキリ聞こえたその声に、嫌な胸騒ぎがした。

















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