第21話妖精男子

朝から、クロが強く抱き締めてなかなか離してくれなかったので…


理久は、頭かボーッとしたまま鼓動を速めたまま、朝食の用意された大きな部屋へクロと向かった。


美しく広大な城中を並んで歩いていると、獣人の侍従や侍女、騎士達が、クロと理久を見ると立ち止まり深々と頭を下げる。


やはりクロには当たり前で堂々としているが、理久は生粋の一般小市民なので、どうしてもおずおずとしてしまう。


そんな中、ふと…クロが、ウサギの獣人について理久に話しておかないといけない事があり、声をかけようとした。


すると同時に…


理久には、横に別れた通路に大きなキレイな黄色の蝶の後ろ姿が見え、余りにキレイで声を上げた。


「あっ!」


理久は、そちらの方に行こうとした。


すると…


「理久…」


クロが理久の右手を握って止めて言った。


「理久、俺から少しも離れるな。迷子になるぞ」


クロが優し気に細めた目元に、理久は思わずドキっとした。


でも、これだけクロが超イケメンだから動揺するのも仕方無いと、理久は自分を正当化する。


「うん…でも、あれ…蝶…」


理久がもう一度、今度は前を向いた蝶を指指して見ると…


それは思っていたものでは無くて、美しい男子の妖精だった。


思わず、その指が震える。


「よっ…よっ…妖精が…いる…妖精がいるんですけど…クロ…」


「ああ…この世界には普通に沢山いるぞ。彼も、この城で働いている」


「ハハッ…妖精が…働いてるんだ。そっ…そうなんだ…流石…異世界」


理久が驚いていると、妖精がペコっと頭を下げた。


それに理久も返してお辞儀すると、妖精が驚いた。


「ん?」


理久が戸惑うと、クロが身を屈め、理久の耳元で囁いた。


「理久にお辞儀されて、驚いてるんだ。こういう時は、理久は手を振ってやればいい」


耳にクロの唇がもう当たりそうな上に熱い息もかかり、理久は赤くなりながら手を振ってみた。


すると、妖精は、笑顔でまた頭を下げた。


理久は、この世界は他にも知らない事だらけなんだろうな…と、一瞬思った。


アニメや小説の異世界モノなら、主人公はワクワクするのかもしれないが…


理久も勿論そう言う気持ちもあったが、それと同じ位不安にもなった。


そして、それに気付いたのか?


クロは、ギュっと、理久の手を強く握ってきて、理久の目を見て又優しく微笑んだ。


そして離す事無く、クロは理久の右手を取って、まるで恋人同士のように繋いで再び歩き出した。


まだそんな関係じゃ無いから、振りほどかないといけないのに…


理久は、伝わるクロの温かい体温に不安が溶けていくようで、それが出来なかった。


















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