第20話鏡2

「え?」


「まぁ!」


「それは!」


侍女達は、一同驚きの声を上げたが、クロは、すぐに理久に優しく微笑みを返した。


「じゃぁ…理久…今日は、お前に頼もうかな…」


「クロ…」


理久は、胸を撫で下ろした。


すぐ、不思議そうにしながら侍女達が部屋から去った。


「じゃぁ…」


理久は、おずおずとクロの前へ行き、クロのローブの襟元に両手をかけた。


そして、そっと肩から脱がせ、人型のクロの引き締まった逞しい胸元が露わになった。


余りに完璧なその肉体。


理久は同じ男同士ながら、なんだか目のやり場に困り下を向きながら、今度は前で結ばれた腰紐を解こうとした。


だが、突然…


クロが、理久のその両手を取って尋ねた。


「どうして?…どうしてやってくれるんだ?」


理久は、クロの目を見たが、すぐに逸し申し訳なさそうに床を見た。


「ごめん…俺の、俺のワガママだって、分かってる…ごめん、クロ…でも…」


理久は、再びクロの青い瞳を見上げた。


「クロは、獣人の王様で、あの俺の犬のクロじゃないのも分かってる。でも…なんだか俺が犬のクロと向こうの世界で暮らしてた時を思い出して、クロが他の人に触られてるのを見るのが嫌だったんだ…ごめん…ごめ…」


理久が、全てを言い終えようとした。


しかし、その前に、クロが理久を素肌の胸に抱き寄せた。


「えっ……」


理久は、思わず直立したまま固まった。


体格の差から、クロの立派な胸板がすぐ目の前にあり、クロの熱い体温を感じる


そして、更に、更に強く抱き締められ、何も考えられなくなる。


その上、理久の胸の鼓動が高まって、外に漏れ聞こえそうだった。


暫く、ただそのまま二人で、無言の時間が流れた。


だがその内…


クロが、優しく優しく呟いた。


「理久がこんな事しなくても、俺は一人で着替えられるし、これからは、侍女に一切頼まず自分一人で着替える」


理久はハッとして、抱かれたままクロを見上げた。


「でも…」


クロも理久を見詰め、理久の腰の辺りにズンとくる感じでクスッと笑って言った


「犬の方だろうが理久が俺を愛してくれてて嫉妬してくれてるんだから、一人で着替えるのは当然だろ?」


「あっ…愛してる?しっ…嫉妬?ちょ、ちょっと…クロ…」


理久は、余りにストレートな言葉に目を丸くして顔を赤らめアワアワと動揺したが…


クロはその後、理久を抱き締めたままその胸からなかなか離してくれなかった。









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