第10話理由2

理久は、秒でクロを引き取る事を決めた。


そして、クロは、理久を一目見て恋し、更に感覚ですぐ分かった。


とても優しい人間だと。


すぐ、立ち上がりしなだれていた尻尾を珍しく振り、膝立ちしていた理久の膝の上に顔を乗せた。


すると、理久は、子犬がいいと言う理久の母の文句を一蹴して、クロを抱き締めた。


それからクロは、楽しかった。


凄く、幸せだった。


理久が学校へ行っている以外は、ほぼ一緒。


食事も、


勉強中も、


ゲーム中も、


家族旅行も、ベッドの中も、時には風呂でさえも…


もう、何年も前からそうだったと思いたくなるほど…


違和感も無く自然で心地良く…


ずーと一緒。


そして、本当に理久は、クロの面倒をよく見てくれた。


しかし、そんなある日、クロの脳裏に突然、獣人である記憶が戻ってしまった。


どうすればいいのか?


理久に本当の事を打ち明けるべきなのか?


しかし、人間からしたら獣人など、化け物だと受け入れてもらえないかもしれない。


そして何より、理久が妖怪や幽霊、UMAなどが大の苦手なのを知っていた。


記憶が戻ってもまだ犬の姿のまま、クロは数日悩んだ。


しかし、満月の夜。


クロは、理久の風呂上がりの匂いに、発情してしまった。


我慢しなければ…


我慢しなければ…と、すでに滾っている下半身を一生懸命耐えようとしたが…


クロはついに人型になって、口から鋭い双牙を出し、ベッドで眠る理久を襲いそうになった。


その性欲は凄まじかった。


クロは、こんなに誰かを欲しいと思った事が無かった。


それでも、必死でなんとか耐えた。


だが…


クロは、遂にたまらなくなって、人型のまま理久の家を出た。


そして、自分が初めてこの世界に出た、あの公園へ行ってみる事にした。


僅かな外灯の灯りとあの時の虚ろな記憶で、どの辺りの木から自分が出たか探す…


すると、沢山の木に囲まれて、それらしいものがあった。


クロの抜群な視力で、少し遠くから眺めていると、突然…


その木の根本近くに、白い大きな月の模様が浮かんできた。


まるで、これから満ちていく三日月の形


それは…


実は、クロの総べる国の御旗の紋様だった。


あの紋様と自分の国に帰る事に、何か関連が有るかも知れない…


そう考えながらも、クロは、まだ理久を犯したいという欲求と闘っていた。


我慢しながら、唇を噛むと牙の所為で、左腕を右手で握ると鋭い爪の所為で、その両方から血が流れてきた。


(理久と離れたくない!)


(でも、このままだと、理久に乱暴してしまう!)


体だけでなく頭も熱く沸騰して、思考できなくなってきた。


頭の中が、理久への激しい性欲に塗り潰されていく。


(この人型の俺で、理久のあのかわいい唇にキスして舐め回したい…)


だが、僅かにだけ残る理性で…


クロがフラフラ紋様のすぐ傍に行くと、待っていたかのように、おもむろに黄金色の光を放ち始めた。


しかし…


(やっぱり!理久と離れたく無い!)


そう思ったが遅かった。


クロはそのまま光に吸い込まれ、気が付くと、元の祖父の部屋にいた。


















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