第8話大広間

理久は、まるでフランスの太陽王の宮殿の中のような、内装も調度品も華美で煌びやかな広い部屋にいた。


だが、どこから見てもThe日本人の理久には馴染まないと言うか、浮いてしまうと言うか…


その雰囲気に、思わず小さくなってしまい全く落ち着かない。


そして、よく読む、異世界転移の小説の主人公の気持ちが痛いほど理解出来た。


今はこの異世界も夜のようで、大きな沢山の窓は高価そうなレースのカーテンが締め切られていた。


しかし、この世界には、暗がりになると光る石があるらしく、天井のゴージャスなシャンデリアはそれで出来ていて、煌

々と広い部屋を照らしていた。


そして、理久は椅子に座り、沢山の獣人の召使いが目の前のテーブルに、理久とクロの食事を用意しているのをただ眺める。


獣人は、色々な種類がいる。


クロと同じ犬もいれば、猫や馬、熊もいる。


けれど特に目立っていたのが、仲の良さそうな、黒のスーツに身を包む2人のどちらもかわいいウサギの獣人の男子だ。


人間で言うなら、20歳前後位に見える。


彼等は、一人がかわいくて凛とした爽やかイケメンで、もう一人は、笑顔が甘過ぎる、ウサ耳の良く似合うめっちゃくちゃかわいい系だった。


どちらかと言えば、爽やか男子が2人の仲をリードしているのかとおもいきや、主導権を握っているのは、以外や以外、かわいい方のようだった。


クロは、理久の向いに座り、召使い達に色々指示を出す。


ただ…


クロの顔つきや喋り方が、理久と一緒にいたさっきまでと違う。


理久と一緒だった時は、柔らかくて、時に甘えるような表情や言葉遣いが、今は支配者然として居高くまるで別人のようだ。


(クロ…やっぱり…本当に…王様、なんだ…)


理久は、クロの顔をまじまじと見た。


さっきまで優し気だった野生味のある男らしい顔が強く引き締まり、更に男前度合いが増していた。


途端に、理久の胸の奥がなんだかザワザワとする。


やがてすぐに食事の用意は完了し、召使い達は全て退室した。


理久は、目の前のテーブルに並べられたステーキや焼きたてのパンやデザートなどの、これまた豪華さに目を丸くした。


「沢山、いくらでも食べろ…理久」


クロが、理久の向かいから右腕で頰杖をついて言った。


そして、クロの表情と喋り方が、又柔らかくなっている。


それでも、理久が無言で不安そうにクロを見た。


「どうした?冷めるし、腹へってるだろ?」


結局、クロは、理久に待てを命令され、今とは立場が逆にエッチのお預けを食った。


その所為か?


クロが少し元気がないように見える。


それでも、理久に向けられるクロの瞳は

、怖い位ただただ真っ直ぐだ。


「理久…少し、痩せたな…いや、やつれたな…」


クロが、美しい青瞳を眇めた。


「誰の…誰の所為だと思ってんだよ…」


理久が、珍しく責めるように呟いた。


「すまない…理久…」


クロが、嬉しそうな、切なそうに少し苦笑いした。


「ちゃんと…ちゃんと話してくれよ…お前が本当に誰なのか?どうしていなくなったのか?食べるのはその後だ…」


クロは、理久が引かないのが分かっていた。


だから、理久の傍に歩いて行く。


そして…


理久の座る椅子をテーブルから自分の方に向け、又公園の時のように床に膝を付き跪き理久の両手を理久の膝の上でそっと握った。


見上げる真剣なクロの青い瞳が、理久と見詰め合う。


クロは、重たそうだが口を開いた。





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